材料中に生じた細い割れ目であってクラック,割れなどの用語も同じ意味で用いられる.疲労などで生じたき裂は無負荷時では極めて細く,肉眼では観察することがしばしば困難である.このような細いき裂はヘヤクラックとも呼ばれる.き裂面で材料は分離されているため,き裂の上下面では応力や変位は不連続になり,また,き裂先端,あるいはき裂前縁(クラック前縁)では応力やひずみが無限大となる,いわゆる特異性が存在する.き裂は,き裂長さが原子サイズレベルや結晶サイズレベルの,極めて小さい微視き裂から,大型構造物中に脆性破壊などで生じた長大き裂まで,さまざまの大きさのものが存在する.破壊過程はき裂の発生,き裂の成長,き裂停止などのき裂の挙動と関連している.このため,き裂挙動の力学的解析が破壊力学の基礎になっている.クラック前縁が直線で,かつ前縁に沿っての力学量の変化を考える必要のない場合,そのき裂は二次元き裂問題として取扱うことができる.そのほかは三次元き裂問題として取扱う必要がある.二次元き裂は数学的には,幅のない線で表される.したがって,材料分離面に幅のある切欠とき裂は厳密には区別が必要である.