地球の大気圏外の軌道を公転させ,所要のミッション(使命)を果たすことを目的とした人工の無人飛行体である.軌道上に乗せるために,多段ロケット,宇宙往還機などの宇宙輸送システムが用いられる.1957年旧ソ連によって打上げられた「スプートニク1号」が世界で初めての人工衛星となった.我が国では1970年東京大学宇宙航空研究所(現文部省宇宙科学研究所:ISAS)によって打上げられた「おおすみ」が最初のものとなった.
人工衛星はその用途から,科学観測や宇宙科学研究をする科学衛星と,通信,放送,気象,航行・測位,地球観測などに使われる実用衛星に大別される.いずれの範ちゅうに属する衛星にせよ,人工衛星の構成はミッションを実行する機器であるミッション機器とこれを動作させるために必要なバス機器に大別される.
人工衛星の形状は,その姿勢制御方式に密接に関連する.三軸制御方式をとる衛星は箱型形状〔例:放送衛星(BS-3)〕,スピン安定方式をとる衛星は円筒形〔例:通信衛星(CS-3)〕または多角柱状になる場合が多い.
ミッション機器は,通信・放送衛星の場合は,中継器およびアンテナであり,地球観測衛星の場合は,光,電波などのセンサである.
バス機器は,衛星の種類にかかわらず,ほぼ同じ系から構成され,構造系,熱制御系,電源系,太陽電池パドル系(主として三軸制御衛星の場合に存在),姿勢制御系,二次推進系,アポジモータ(またはアポジエンジン),テレメトリ・トラッキング・コマンド系などからなる.構造系は,打上げロケットとのインタフェース条件を満足すると共に,衛星全体のコンフィギュレーション(形状)を構成し,その中にミッション機器やそのほかの搭載機器を装着し,所要のアライメントを与え,打上げ時,軌道上の機械的環境に耐え,機器を保持する役割を持つ.スラストチューブ,機器搭載パネル,ベースプレートなどからなる.熱制御系は,ミッションの全期間にわたって予想される熱環境下で,衛星と外部環境との間および衛星各部相互間の熱流を制御して,搭載機器を所要の動作温度範囲に維持する機能を持つものである.構成要素としてはオプティカルソーラリフレクタ(OSR),サーマルブランケット,コーティング,ヒータ,ヒートパイプ,サーマル・ルーバなどがある.電源系は,太陽電池パドル系(スピン安定衛星の場合は太陽電池パネル)からの一次電力の供給を受け,一定電圧の安定電力をミッション機器およびバス機器に供給する.同時にバッテリを搭載して余剰電力を蓄え,食時などのパドルまたはパネルからの電力がない場合や,大電力を要する場合に電力を供給する.姿勢制御系は,衛星自体の姿勢を決定するとともに,衛星の姿勢を所定の方向に向け,安定させる機能を持ち,三軸制御衛星の場合は,太陽センサ,地球センサ,レートジャイロ,RFセンサなどの各種センサ,リアクションホイールなどのアクチュエータ,姿勢制御エレクトロニクスからなる能動的な制御系を構成する.軌道制御,ある種の姿勢制御など大きな推進力が必要な場合は,推進薬タンク,スラスタなどから構成される二次推進系が付加される.静止衛星を打上げる場合には遷移軌道から静止軌道に投入するに必要な推力を発生するアポジモータ(またはアポジエンジン)が必須である.テレメトリ・トラッキング・コマンド系は,ミッションの全期間にわたって搭載機器のテレメトリを編集し地上局に送信するとともに,動作の切替えなどの遠隔制御に必要なコマンドの受信・復調・配分を行う.また衛星を追跡するための信号を送る.テレメトリエンコーダ,コマンドデコーダ,トランスポンダ,アンテナなどから構成される.