社団法人日本機械学会

これからの技術者、研究者に必要なこと

これからの日本の宇宙開発と技術者・研究者として必要なことは何だと思われますか。

はやぶさ回収オペレーション(2010 年)

【久保田】  アジアでは中国やインドも宇宙開発を盛んに行っているなかで、これからの日本の宇宙開発は難しいですね。例えば、アメリカは失敗しても立ち上がる、逆に予算をつけて何とかするというように、宇宙に関しては世界でナンバーワンという意識を強く持っています。しかし、日本はどちらかというと失敗は許されない国というイメージが強いですし、宇宙というものもある意味、ワン・オブ・ゼムで、多大なお金もかかるし、得られる成果は直接国民の生活にかかるものではない科学分野なのでアピールも弱いですね。

 ですから、私は、これからの宇宙開発は子供たちに夢を与えて、その探究心をくすぐるようなことはやっていかなくてはいけないと思っています。そのためには日本は今後戦略をしっかり立てて、宇宙科学・宇宙利用の推進を行い、さらに国民に対してアピールしてゆくロードマップをつくっていかなくてはいけない。今回、国民の皆さんが「はやぶさ」に関心を持ったということは、科学技術云々ということよりも、むしろ人々に「わくわくどきどき」を感じさせる意味で重要だったではないかと私は思っています。技術者としては「わくわくどきどき」させるような新しいことにチャレンジしていくというのを見せていかないと、日本の宇宙開発の次のステップはないのかなと感じます。

 そして「はやぶさ」を始めたときも思ったのですが、NASAと同じようなことをやるというのは技術の確立という意味では重要なのですけれども、NASAがやったことがない意義がある新しいことにチャレンジしていけば、次のステップが見えてくるのではないでしょうか。そういうチャレンジから新しい技術が生まれてきて、工学的にも科学的にも発展する。たとえ、そのチャレンジで失敗したとしても、意義のあるチャレンジであれば、国民は支持してくれるし、途中で何か得られたものがあれば、認めてくれるのではないかなと思います。今日(インタビュー当日)からまた事業仕分けがありますけれど、単に「世界初」を目指すのではなくて、意義があって「世界初」になることをやることが重要だと思うのですね。特に宇宙開発というのはそういうことをしていかないと先に進めないという気がします。これは「はやぶさ」をやっていて非常に強く感じたことでした。

 また、先ほども申し上げましたが、アメリカ人は宇宙開発において世界最先端を我々が引っ張っているのだという自信と誇りを持っていますよね。我々日本人も「自信と誇り」を持ち、その上で国民にアピールし、支持を得ることが重要ではないでしょうか。日本には世界最先端技術というのはいっぱいあるわけですから、それを国民にもっとアピールして、日本はすごいんだというのを持ってもらわないと、若い人はついてこないと思います。そういう意味では「はやぶさ」はいろんなグッズができたり、音楽ができたり、多くの人が関心を持ってくれたのは非常によかったなと思います。これからの宇宙開発の技術者・研究者にはこういった「わくわくどきどき」ということをわかりやすく見せるということが重要だと思います。

最後にこれからの夢をお聞かせください。

【久保田】  夢は、宇宙をやっていて楽しいのは、今お話したまさに「わくわくどきどき」なんですよ。月探査の検討も始まっていますし、火星の探査の検討も進めています。将来、私の分身である探査ロボットが月や火星に降りて、人類が見たことがないところを見てほしいですね。探査ロボットが月や火星に行って、自分は部屋でそれを動かし、今日はあそこを探検したいな、みたいな、そんな宇宙探検ができるのといいですね。マイ探査ロボットが宇宙でいろいろ活躍することが夢ですね。

ヒートシールド回収(2010 年)
小泉氏(左)久保田氏(右)

御自身で行ってみたいという気持ちがありますか。

【久保田】  行ってみたいなと思いますけれど、やはりまだまだ難しいですね。でも、今の子供たちは行けるチャンスはありますから、ぜひ自分の目で見るというのがいいですね。自分が行くことができるのであれば,行いくのがいいし、行けないのであれば、分身のロボットが行って、見たことがないものを見てほしいなあと思います。


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