Menu

産業・化学機械と安全部門

部門長挨拶

機械と人の安全の融合を目指して

2024年度(102期)産業・化学機械と安全部門長
国立大学法人 長岡技術科学大学 技学研究院
システム安全系 システム安全工学専攻産業安全行動分析学研究室
北條理恵子
北條理恵子

最近、労働安全と「機械安全」の関係についてよく考える。ここ何年か機械安全の実務/専門家の方々と仕事をして、「人の注意力に頼る安全」から、より確定性の高い「機械で安全を担保すること」への移行の効果がより確実であることを理解し、納得した。また、国際規格等における機械安全についての体系の見事さを見るにつけ、機械安全が労働安全の根本であるという思いが強くなっていく。私の専門分野である「行動分析学」では、人の「行動」を、刺激―反応の図式で明らかにし、個体を取り巻く過去及びその時の外的環境に行動の原因を求め、行動を「定量的に測定可能」なものとして取り扱う。そのゴールは、行動の①予測と制御、②分析と定量評価、③問題の解決である。加えて、何らかの直接的な働きかけにより行動そのものを変化・修正するというよりも、独立変数(環境)を操作することにより従属変数(行動)を変容させることに主眼を置く。また、意思や動機付けといっ

た行動の前の事象を変えることではなく、行動“後”の環境の変化でその行動が将来的に維持・増強されるとする。心理学の一派ではあるが、行動分析学は主観に依らない客観性を重んじることから、機械安全との親和性が非常に高いと考えている。しかしながら、機械安全の体系を知るごとに、機械安全の考え方なくして行動分析学の活用の場はないことに気が付く。その最たる例がリスクアセスメント(RA)である。最近の私の関心は専らユーザが行うRAの啓蒙にあるが、RA及びリスク低減方策を正しく理解し実施することを最優先で行なわなければ、その後の「職場のカイゼン」は見込めず、働く人々が自身を守ることができないと考えている。

 

現在、我々の研究チームでは、職場の働く人のWell-beingの定量化を行っている。Well-beingWB)は、「持続的な幸福感」を指す概念であり、様々な要因の集合体である。我々は、職場が「安全・安心」であることで感じる主観的WBと、「生きがい・働きがい」の心理的WBに大別している。残念ながら評価は今のところアンケートによる主観評価であるが、実験デザインを工夫することで、定量化がある程度実現している。定量化により職場のその時点での「見える化」を行い、行動分析学により職場のWBの最適化、すなわちカイゼンを行っている。今後はWBも行動レベルで測定し、RAと類似の評価方法を構築している最中である。機械安全と行動分析学の融合こそが、真の意味での労働安全になることを期待し、職場の快適性や働く人のWBの向上に少しでも寄与することが研究のゴールでもある。

私のような心理学領域出身者が、産業・化学機械と安全部門の長となることに、はじめは気後れを感じていたが、機械安全の実務/専門家の方々と手を携えて安全を考えていくことで、私ならではの寄与の仕方があるのではないかと考えるようになった。また、安全については、誰もが関連のある分野でもあるため、当部門を通じて様々な分野の専門家の方たちとも異文化交流を行い、様々な安全の考え方を広めていくことが可能である。その意味でも、今後の活動の場は広範であり、その意義も大きいものとなることが期待される。日本機械学会においても、他部門の方々との交流を広く深く行う所存である。