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「JAPANブランドを支える大田区における金属加工の「匠の技」」
2005年10月24日
開催報告
1.「大田区の加工業の現状と課題,大学の役割」
東京工業大学 教授 鈴木正昭 氏
東京工業大学では、以前から大田区および区内の企業経営者との連携のため大田工業会を作り、産学の連携をはかって来た。 これは大学と中小企業との間のgive & takeの関係とも言える。 すなわち大学からは研究装置の発注を行い、企業はこれを受注する。また大学からはシーズを提供や共同研究を行う事により、 企業では自社製品の開発や技術改良に活かして行く。更に大学において、「もの作り教育」や人材教育を進めて行く事によって、 企業の人材育成や後継者育成を目指して行こうとするものである。 この様にして、東京工業大学では、大田区の中小企業製造業社との間で、地域連携のコンソーシアムを目指しているとの話があった。 そしてその一環として現在、東京工業大学の中には「ものつくり教育研究支援センター」が設立されている。
2.[大田区の高度な生産力を支えているものは」
大田工業会代表(大田区区議会議員・元議長) 近藤忠夫氏
最近自動車業界が活況を呈し始め、設備投資の連鎖によって工作機械の価格上昇が起き始めている。すなわち自動車メーカー からの部品発注が増え、これに伴って金型の受注が増えている。このかながたを製作する工作機械の凄惨が追い付かなく なっているのが現状である。その背景にはキサゲ加工等を行う熟練工の不足が挙げられる。 しかしながら注文が増えたからと言って、直ちに設備投資に踏み切ることはできない。 A企業は、事務用機器などの組立工作機械を製作している企業である。ここでは多能工と呼ばれる様々な加工を一人で行える 熟練工を育てることで、多様なニーズに応えている。 またB企業は、古くなった工作機械のオーバーホールを手掛けている。古くなった工作機械の中には、既にそのメーカーが 存在しないなどの理由で部品がない場合もある。同社では持ち込まれた古い工作機械の部品を全て取り外して、 表面の再研摩や必要な部品の新規作成などを行って、新品以上の高性能な工作機械にオーバーホールを行っている。 この中でキサゲ加工などを行う役割は大きい。 そして多くの企業が抱えている課題として、後継者の問題があげられるとの話であった。
3.「JAPANブランドを代表する大田区の工業生産力の今後に向けた展望」
大田区産業経済部産業振興課課長 萩原日出男 氏
大田区の加工業の特徴は、大企業の下図が少なく、ほとんどは5名以内の少人数の企業である点である。大田区の企業が抱えている 最大の問題は、後継者問題であり、3名以下の企業からのアンケートによると、後継者が以内と応えた企業は7割にのぼる。 すなわち大田区の小さな企業では、よく言われる2007年問題とは別の問題を抱えているわけである。これについては大田区 としても考えるべき問題として捉え、ものづくり講座や職場体験などの活動に取り組んでいる。 大田区の産業は、IT産業などの先端技術を支える基盤産業を得意としている。区では住工調和に力を入れて、大森南に1階を工場、 2階を住宅とした団地を作っているまた新規企業の創業に向けた取り組みも行っている。テクノウイングには48ブースがあるが、 ここで5名で創業した企業が、この7月には50名の企業に成長し、現在ではビルを丸ごと借りて生産を行っている。 その他には学生による起業の支援を始め、一歩進んだ産学連携の推進や、異業種交流、新技術への支援にも力を入れている。
4.「見学会」
今回見学した2つの金属加工会社は、いずれも営業部門を持たずとも、多くの注文が来るとの事。言うなれば他に類を見ない、 秀でた技術力で会社経営を支えていると共に、大田区を代表する「匠の技」を有する企業であると言える。
株式会社城南キー
城南キーで行っている加工は唯一キー溝加工のみで、他の切削加工は行わない。キー溝加工に特化したもの作りの企業である。 同社のキー溝加工を支えているのが、スイスElmass社製のスロッタだが、購入した当時は期待する性能が出なかったと言う。 安居社長は自ら同機の改善やこれを使いこなして行く技術を開発した。言うなればこのスロッタはメーカーと城南キーとの 共同で完成された工作機械とも言える。このため高精度で深いキー溝加工ができる加工業者は他になく、中小規模でありながら 世界で唯一の技術を持つ製造業になって行った。
株式会社上島熱処理工業所
同社は塩浴を使った工作機械の工具を中心とした熱処理工場である。熱処理は理論の裏付けのある処理技術であるが、それを実行するには ベテランの熟練した技能が必要とされる。同社では親方と子方が組んで仕事をする事によって、技術の伝承を図っている点が特徴的である。 また同社では熱処理に関連してブローチ工具などの長ものの熱処理後の歪み取り加工、ドリル等の工具の摩擦溶接加工も行っている。 また最近ではイオンプレーティング法によるTiN、TiCNコート等の表面硬化処理、液体窒素によるサブゼロ処理も手掛けている。