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産業・化学機械と安全部門

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「運輸系の安全確保に関する現状」

2005年9月2日

開催報告

1.「概要」

2005年9月2日(金)に特別講演会「運輸系の安全確保に関する現状」を日本機械学会会議室で実施しました。今回の特別講演会は、 「運輸系の安全確保」というテーマで、交通・物流部門と共同企画で実施しました。陸海空(自動車・航空機・海上交通)の交通機関に おける安全システムや安全確保について検討されている考え方を事例を含め紹介いただきました。 今回の特別講演会では、これらの安全確保について最前線で活躍されている講師3人を招き講演をお願いしました。「運輸系の安全確保」 として、聴講者にとって、広範囲の分野に発散している感があったのか、当日の聴講者は20名と比較的少な目でした。しかしながら、 講師からもそれぞれの専門的な知識を他分野の方にも分かりやすく説明していただいたこともあり、質問も多く、 活況ある講演会となりました。


2.「自動車の運転支援システムとヒューマンファクター」

筑波大学大学院システム情報工学研究科リスク工学専攻 伊藤誠氏

筑波大学大学院システム情報工学研究科リスク工学専攻 伊藤誠氏

1.安全技術に対する基本的考え方と交通事故の動向
これまでの自動車における安全確保の考え方は、事故を起こさないことと 衝突安全であり、死亡者数は減少傾向を続けた。現在は、事故率は横ばい傾向となり、さらなる安全確保のためには予防安全技術の 進歩が不可欠であり、ASV(Advanced Safety Vehicle)プロジェクトを推進している。
2.ASVプロジェクトと未然防止のための運転支援技術
ASVの基本理念は、ドライバ支援(運転の主体はドライバ)、ドライバ受容性 (ドライバに受入れやすい技術)、社会受容性(広く社会に受入れやすい技術)である。現在、ASV計画は第3期の「普及促進」段階に 来ている。ASVで開発している技術には、予防安全(ドライバの負荷軽減)、事故回避、プリクラッシュセイフティ(事故回避とは異なり 追突軽減ブレーキ等、事故が避けられないときに0.5G以下の衝撃にするなど)、衝突安全、災害拡大防止などがある。自動車の安全は、 ドライバが主体であるとし、自動運転技術を目指してはいない。1990年代に開発され普及されたエアーバックやABSなどドライバによる 過信が発生しており、過信はドライバの事故回避操作を疎かにする可能性が高い。開発する事故回避システムは過信を招かない配慮をする 必要がある。運転支援については、ACC(Active Cruse Control)システムが開発されており、これは、ドライバの負荷軽減技術でシステムに 過度の過信や不信を招かない慎ましい支援。
3.自動車メーカーの安全に対する考え方
HONDA,TOYOTA,NISSANの具体的な安全思想を紹介。共通しているコンセプトには、 次のようなものである。エアーバックなどの安全装置に加え、運転支援システムを加える。負荷軽減による運転への注意力増加と危険に 近づけないこと。ドライバに危険を気付かせ危険に近づけさせない予防安全に重点。
4.さらなる安全性の向上へ向けた取り組み例
現在の研究項目を示すと、人間機械相互作用、状況・意図理解のための数理情報手法、 運転行動モニタリング、運転員心身状態評価、高齢者支援自動車


3.「CRM訓練におけるThreat Management」

(有)日本ヒューマンファクター研究所 前田壮六氏

(有)日本ヒューマンファクター研究所 前田壮六氏1.航空機事故による事故例や統計例
航空機事故による死者数は年間平均577名(全世界)で非常に安全な輸送手段であるにも 係らず、安全に対する不安感は最も高い。1回の事故で発生する死亡者数の大きさに関係しているように思われる。1985年の御巣鷹山事故の 前年は死亡者数0であった。昨年は400人と非常に少なかった。事故原因を調査した結果、70年代までは機体が原因の事故が多かったが、 それ以後はヒューマンファクターが原因の事故に変化した。機体が原因の場合、工学者の努力により画期的に解決が図られた。 1972.12.29Eastern401の事故は、コックピットのパイロットランプ1個の故障に全員が集中し、高度監視が疎かになったためであった。 1977.3.27Tenerifeの事故は、天候の悪化により、空港内が渋滞し、パイロットや管制官のストレスが増大したなか、無理な離陸が発生し、 滑走路内で航空機どうしが衝突した。
2.コミュニケーションスキルについて
衝突事故では、操縦士、副操縦士、管制官の意思疎通が図られてなかった。許可依頼、許可通知、復唱などが決められているが、 それぞれが、自分なりの解釈をしていた。”OK”の受け取り方が異なっていた。現在ICAOでは、Communication  Skills として問題点が 整理され、パイロットの訓練では欠かせないものとなっている。
3.CRM(Company Resource Management)
当初はCockpit Resource Managementとして開発され、現在は多くの企業でCRM活動が実施されている。CRMの概念は、企業が業績優先 或いは人間性優先のどちらに傾注しすぎてもいけない。ともに補完しあいながら、理想的な発展を目指すものである。 特に人間系については、「性別、経験、職位に関係なく誰でもエラーを発生する」という考えに立ち、それは殆ど公理であるとしている。 関係者の誰もが意見を述べ、否定しない関係を築く。そういった訓練の例として、機長は、副操縦士が異なった意見判断を発言したとき には、プライドを傷つけず意見を聞く姿勢をとり、否定せず、「では確認してみよう」として管制室などに確認を行う。最終判断、 責任者は機長である。権威勾配ができるだけフラットになるようにしている。この関係は、スチュワーデスとの関係にまで発展してきている。判断者の周辺に同期入社とか同年齢などの水平関係の人員配置は厳禁である。ミニタリーでも最注意事項とされている。 CRMでは、Threat Managementが行われている。Threatとは、脅威であるが、CRMでは、「エラーが発生する可能性を高める要素」 と定義されている。これまでは、エラーに対処する方法が取られていた。事故・インシデントに至る流れを分析し、事故に至るには、 エラーが発生している。そのエラーを起こす要因を排除する手法である。そういった要因を常に洗い出し、解決する訓練が行われている。 CRMは1972年に提唱され、今日に至るまで発展し続けている。


4.「海上交通の安全」

海上技術安全研究所 松岡猛氏

海上技術安全研究所 松岡猛氏1.海難事故を通じての事故発生要因紹介
船舶輸送の特徴は次のようなものである。燃料消費0.6g/ton・kmで航空:自動車:船舶のエネルギー比は100:10:1である。 国内貨物輸送量の40%を占める。国際貨物輸送量は、国内貨物輸送量の14倍で4.4兆ton・mileに達する。 タイタニック号の事故をみると、完成時期が遅れ時期的に流氷の多い季節になった、新技術の粋を結集した船だったので、 大西洋横断最短時間を達成する目標等大きなプレッシャーがあった。船体には水密隔壁を設けるなど安全性は高められていたが、 船体横をこするように氷山に衝突したこと、及び各室上部は開放状態であったため、結果的に全室に入水してしまった。 当時、無線は利用されていたが、救難のための手段としてではなく、社への報告手段として利用されていたため、無線係りは、 夜中は無線を切り就寝していたため、近隣の船舶へは連絡できなかった。 当研究所で、事故解析を行った。イベントツリーを作成し、当時の技術水準での事故発生確率を解析した。そうした結果、 10,000航海に1回の発生確率の事故が第1回目に発生してしまった。今世紀初頭の船旅においては、救難体制の不備、レーダー技術無、 天気予報無、氷山情報無、無線が有効活用されてない、安全文化が不十分な時代などからリスクを伴った旅であった。
2.船舶の安全確保
1)国際的取り決め
1914年に主要海運国13カ国でSOLAS(The International Convention for the Safety of Life at Sea)条約が 採択された。その中で、共通の安全基準(損傷時の復元性、区画隔壁の増設、二重底、レーダー、救命船の定員ほか)を定めている。 1948年には国際連合の機関としてIMO(国際海事機関)設立。本部はロンドン、世界166カ国が加盟。
2)航行支援による安全確保
航路の設定と海上交通管制、航路標識、電波標識、海図、海流図、気象通報など。全国6箇所の海域に 海上交通センターを設け、船舶への情報提供、巨大船に対しての指示を出している。10,000トン以上の船舶側には自動衝突予防援助装置を設置。 船舶自動識別システムが2002年7月より総ての旅客船及び300トン以上の貨物船に義務付け。 電子海図とGPSを組合わせたさらにすすんだシステムが開発されている。
3)船舶の機能・性能の向上による安全確保
想定される気象条件下で安全に運航できる性能の要求。船体損傷時の復元性、 スラミング対応、船内液体によるスロッシング対応、初期損傷(疲労現象)対応、後期損傷(腐食)対応、環境対応としての二重船体構造など、 構造検討、材料面からの開発、メンテンスの充実を図っている。
4)事故時の対策・避難・通信
事故発生通報、EPIRB(非常用位置指示無線標識)。 VDR(Voyage Data Recorder)航空機のボイスレコーダーに類するもので、航行上の詳細なデータ記録、避難退船時間の確保、 救命設備及び位置情報発信設備、火災事故対応などの安全対策義務
5)安全管理システムおよび評価
安全性評価としてISM CODE(International Safety Management Code)、 FSA(Formal Safety Assessment)が適用されている。官や国際機関からの過剰規制に陥らないように、機能性基準を定め、 また、公的な安全性評価を義務つける傾向にある。
6)さらなる安全性の向上
日本の現在の旅客船舶安全性は、0.05/人億kmを達成しており最も安全な乗り物の1つである。さらなる安全性対応として、ウェザールーティングシステム、離着桟・港内操船支援システム、高度船舶運航管理システムなどが研究されている。

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日付:
2005年9月2日
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