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「金属加工における「匠の技」の現状と伝承の課題」
2004年8月27日
開催報告
1.「技術・技能の伝承とグローバル化―その課題と将来性―」
東京工業大学 教授 鈴木正昭 氏
伝統ある技術をいかにして後世に伝えて行くか。その一例として、伊勢神宮の神宮式年遷宮を例にしながら講義が始まった。 20年に一度の神宮式年遷宮は、建物すべてを新造するもので、伝統工芸の技術伝承の典型的な例といわれる。 またウイーンフィルを例にし、譜面に隠された音楽性の伝承が行われて来た事が紹介された。
・暗黙知と形式知
知識には、知覚や感覚で習熟し言葉では表しにくい暗黙知と、言葉で明確に表して文献や図面に記載された形式知がある。 暗黙知はアナログ知、現場知ともいえ、形式知はデジタル知、マニュアル知とも言える。
知識は共同化(暗黙知の共有・創出)→表出化(暗黙知の形式知化)→結合化(情報の活用)→内面化(新たな暗黙知として理解)というSECIサイクルを回る。 ものづくりにかかる我国の基盤産業政策として、ものづくり先端技術研究センターの設置と、デジタル・マイスター技術開発助成事業 がある。金属加工業の中でも金型産業は中小零細企業による単品受注生産といった特質があり、経営面での脆弱性が問題となっている。 現在進められている中小企業の助成策は、金型産業には必ずしも効果が上がるとは限らない様だ。高度な加工技術を有する企業では、 中国から逆に受注を受けているケースも見られる。その一例として、キー溝加工を行っている城南キーを例とした紹介が行われた。
2.「中国における工業生産の現状と今後の見通しについて」
大田工業会代表(大田区区会議員) 近藤忠夫 氏
中国の大連開発区には、次の様な典型的な4つのタイプの企業がある。 ・日本電産有限公司
日本からの進出企業で、パソコンなどの電気電子部品の製造が行われている。
・大連保税区嘉津工貿有限公司
中国の企業である。
・大連有本精密模具有限公司
日中の合弁企業で精密金型の製造を行っている。
・日本友和物流有限公司
90%が日本資本、10%が中国資本で行われている百貨店である。 様々な新しい商品が並べられていられているとの事。 この中の日本からの進出企業は比較的好調であるが、日中の合弁企業は必ずしもうまく行っているとは言えない状況との事。上記の合弁企業も日本から移転した企業であったが、経営に行き詰まって合弁を行った。しかしながら経営方針などについて意見があわない事が多く、難しい状況であるとの話であった。 また寧波の経済技術開発区には、1990年に香港資本で設立された大型精密金型工場があり、様々な金型が製造されているとの事であった。 講演の後、大連開発区のDVDによる紹介があった。大連の町の中は高速鉄道と高速道路が整備されている。工業港を控えて、生産と物流の中心地区を目指している事が伺える。
3.「次世代に伝えたい金属加工における匠の技とその現状について」
大田区産業経済部産業振興課長 佐々木義夫氏
大田区は工業生産が集中している都市である。しかし1990年には9千を越えた工場数はその後下降の一途をたどり、現在では6千に減少した。 大田区の工場の半数は従業員3名以下の企業であり、9人以下の企業を含めると82%になる。 しかし多くの企業は下請加工とはいえ特定企業の下請ではなく、専門的に特化した基盤技術を有する企業からなっている。 現在の大田区の工業は、取引先の海外移転や海外調達による受注量の減少に直面している。最近の工業生産技術のIT化により、 製造技術の多くの部分がデジタル化された事も、技術の海外流出に影響している模様だ。 現在大田区では、施策が行われている。
産業環境の整備事業
・工場集合化
大森南工場アパートは、1階に10戸の工場、2階から8階に公団住宅を併設し、職住近接を目指している。
・賃貸工場
下丸子テンポラリー工場、本羽田二丁目工場アパートなどは、新規創業者などの便宜を図るための賃貸型の工場を建設している。
4.「工場見学」
株式会社畠山鐵工所
同社は鍛造加工のメーカーで、2,000tと750tの2台のプレスを有し、シャフト材などの鍛造加工とその後の熱処理加工が行われています。 工場敷地に並んでいる15tものインゴットが様々な形に姿を変えて行く光景はまさに圧巻と言うべきでしょう。我々が見学の時、 加熱炉から引き出された中空材がプレスにセットされ、鍛造加工が行われておりました。
株式会社北嶋絞製作所
回転体形状であれば何でも作れると言う北嶋絞製作所では、ヘラ絞り加工が行われています。小さいものは照明器具の反射板から、 大きいものは大型のパラボラアンテナなどが作られていました。金型が簡略である、工程が少ないといった点で、プレス加工よりも 利点があるとの事。参加者の中から10名がこの日、絞り加工の体験をさせて頂きました。
株式会社酒井ステンレス
同社では食品、医薬品などの製造に使われるステンレス製品の製造が行われています。たとえば内部の液溜り防止を考慮した異径管の 接続加工、医薬品・食品向けのタンクやコンテナなどの製造を見せてもらいました。これらの製品の内外面の研摩加工も行われていました。