(北海道大学 大学院 工学研究科 機械科学専攻 工藤一彦、kudok@eng.hokudai.ac.jp

地球の熱収支
地球の温度は、6000Kの高温の太陽から放射される、可視光線を中心とする短波長の光(電磁波)エネルギーの吸収と、地球が自らの絶対温度の4乗に比例して、4Kの極低温の宇宙空間に放射する長波長の赤外線(電磁波)による放熱とのバランスで決定されている。上図はその熱収支を模式的に表した図である。太陽からの短波長の光エネルギーは、大気で一部吸収されるが、その大部分は地表(以下海洋表面も含む)まで到達し、そこで吸収される。この熱エネルギーは、地表を流動する大気に対流伝熱で伝えられる(海洋表面から大気中への水分の蒸発による潜熱輸送もこれに含む)ほか、長波長の赤外線として地表から上方に放射される。

大気の熱収支
ここで、大気の主成分である窒素と酸素は、太陽からの可視光線や地表からの赤外線に対してほぼ透明で、これらをほとんど透過させてしまうが、温室効果ガスと呼ばれる二酸化炭素、メタン、フロン、水蒸気等のガスは、短波長の光はほとんど透過させるが、長波長の赤外線はほとんど吸収するという特性を持つので、太陽からの光エネルギーはそのまま地表まで透過させるが、地球から宇宙空間にむけて放射された赤外線は、そのかなりな部分が大気中で吸収されてしまうことになる。このような地表から放射された赤外線の吸収と、上述の対流伝熱によって大気に蓄えられた熱エネルギーは、この大気自身から長波長の赤外線を地表および宇宙空間に放射することによって放散されるため、大気温度はその吸収と放散のバランスがとれるまで上昇する。これをまとめると、大気外層における地球と宇宙空間との熱収支は、上図のように、太陽からの入射と、大気の上向放射及び地表からの直接放射とが釣り合うことで保たれていることになる。

温室効果ガスによる地球温暖化メカニズム
このような熱収支の構造を有する地表及び大気の系において、大気中の温室効果ガス濃度が増加すると、上図の白い矢印で示したように、地表から放射された赤外線の大気による吸収が増加するため、大気の温度が上昇する。ここで地表から放射された赤外線の大気による吸収が増加した分、地表から宇宙空間への直接放射は減少するが、大気温度の上昇に伴う大気からの上向放射が増加するので、地球と宇宙空間の間の全体の熱収支はバランスがとられる。これが温室効果ガスの増加に伴う、大気温度、ひいては地表の温度が増加するメカニズムである。

「温室効果」の名前の由来
なお、このようなガスによる地球の温暖化作用を「温室効果」というのは、ガラスなどで囲まれた温室が太陽光に照らされると、内部の温度が周囲の大気の温度よりずっと高温になることから名付けられたものである。すなわち、温室ではガラスが上述の温室効果ガスと同じく、可視光線は通すが波長の長い赤外線は吸収するという性質を持っているため、太陽から来る可視光線は温室内に入ってくるが、温室内の物体から放射された波長の長い赤外線はこのガラスによって吸収され、温室の外に出にくいことにより温室内部の温度が上昇するものである。


(参考文献)
平田賢著「省エネルギー論(コージェネレーションのすすめ)」オーム社、テクノライフ選書
「炭酸ガスで地球が温暖化する−EPA予測報告書」ハイライフ出版

 

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