部門将来検討委員会2023年度報告書

 本報告書は,第99期にエンジンシステム部門に設置された(実質的な活動期間は第100期~101期の2年間)部門将来検討委員会における議論と検討の内容をまとめたものである.2015年のCOP21においてパリ協定が採択されて以降,化石燃料使用による地球規模の気候変動を抑制する機運が高まり,各国のエネルギー政策においても,特に欧州連合を中心に化石燃料から再生可能エネルギーへの転換が推進されている.我が国においても2020年10月に政府が2050年のカーボンニュートラル(CN)達成を目指すと宣言し,欧州同様に再生可能エネルギーへの転換を加速する政策が進められている.2021年に発表された第6次エネルギー基本計画では,2030年の再生可能エネルギー割合を38%程度にまで引き上げること,温室効果ガスの削減割合を46%以上とすることが記された(1-1).運輸部門における二酸化炭素排出量の全排出量に対する割合は17.4%(2021年)であり,他の産業部門に比べ電動化がしやすいことから,国土交通省は,乗用車については2035年までに新車販売で電動車100%の実現を目指し,商用車については8トン以下の小型車は,新車販売で2030 年までに電動車20~30%,2040年までに電動車・脱炭素燃料対応車100%を目指し,8トン超の大型車は実証と早期導入を図りつつ,2030年までに目標を決定するとしている(1-2)
 以上のように,社会から化石燃料を使用する,特に自動車用内燃機関の利用削減が強く求められているなか,内燃機関に関する研究者・技術者が主要構成員であるエンジンシステム部門として,日本機械学会内外に,持続可能社会における内燃機関の必要性と有用性を示すことができなければ,当部門を存続できないと考える.
 以上の当部門に関する危機感から当委員会は設置された.委員は主に30~40歳代の産学メンバーにより構成し,全体を3つのワーキンググループ(WG)に分け,それぞれのWGで議論を重ねた.次世代の部門を牽引すると期待される中堅研究者・技術者が9名程度の少人数で全員参加型の議論を重ねることで,内燃機関の将来ビジョンと部門運営にかかわる提案を策定することを試みている.全体委員会では,各WGでの議論と検討の内容を共有し,委員会としての部門への提言事項のとりまとめに関する議論を行った.
 第100期~第101期における当委員会の活動の位置づけは,当委員会の部門における役割の明確化と部門への提言作成のための論点抽出である.したがって,この報告書では部門運営に関する提言をまとめるに至っていない.活動開始当初は,委員間の「ビジョン」のスケール感,内燃機関の将来に対する問題意識や危機感における差が大きく,まず,これをある程度揃えることから始めた.今回まとめられた各WGにおける検討内容の違いの多くはWG間におけるこれらの差によるところが大きいが,これにより議論の前提や枠組の設定の違いとアウトプットの関係がわかり,次期以降の具体的な提言策定を効率的に進めるために有用な情報を得られたと思う.
 内燃機関の将来ビジョンに関する検討内容については,本文をご覧いただくこととして,全体の議論を通して得られたことは,各WGで個別に検討した将来ビジョンにおいて共通項が少なくないことである.全てのWGにおいて,CN燃料を利用する内燃機関が持続可能社会においても必要であると結論している.さらに,エネルギー変換システムに対する要求事項として,CNだけでは不十分で,資源リサイクル性,災害への耐性,比出力などCNと同程度に考慮しなければならない他の評価項目が存在することが改めて確認されている.当委員会の活動開始時に,「内燃機関ありき」を前提とした議論をする必要はないとして議論を始めたが,持続可能社会における内燃機関の必要性を再確認した結果となった.来期以降の委員会では,持続可能社会における内燃機関の必要性を本学会内外に具体的に明示し,当部門の運営方針に関する提言を策定する過程に進められると考える.
 最後に,本務で多忙な中,当委員会に参加し長時間にわたる議論と本報告書の作成にご協力いただいた当委員会の全ての委員に感謝いたします.

2024年3月 部門将来検討委員会委員長 小酒英範

(1-1) 経済産業省「第6次エネルギー基本計画」(令和3年10月):
https://www.meti.go.jp/press/2021/10/20211022005/20211022005-1.pdf
(1-2) 国土交通省「脱炭素化に向けた取り組み」(令和5年2月16日):
https://www1.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001587784.pdf