第87期環境工学部門長

佐藤 春樹(慶應義塾大学)

2009年度の環境工学部門への抱負

 平成元年(1989年)に環境工学部門が設置されてから、ちょうど20年になります。

 私は、当時の柏木孝夫委員長から幹事役を頂戴し、委員会から部門への移行期のお手伝いをする機会を得て以来、環境工学に携わらせて頂いております。最近は、機械工学便覧「環境システム」の編集小委員会主査を仰せつかり、やっとの思いで2008年3月に出版まで無事に漕ぎ着けました。
個人的には、学生時代から行っていた水やフロンなどのエネルギー作動流体の熱物性という基盤研究から、現在は、エネルギー環境システムの応用研究へと研究範囲を広げ、大学では機械工学科からシステムデザイン工学科へと歩んでまいりました。

 この機会に、2009年度の部門活動の抱負を初心に還って考えてみたいと思います。

 過去のすべての部門ニュースが、ホームページ(http://www.env-jsme.com/ )にあります。現在のタイトル『環境と地球−アメニティ空間の創成』は、20年前の第1号に始まっています。このタイトルには、初代柏木委員長の思いが込められています。『平成元年は環境問題を地球規模で解決しなければならない幕開けの年となりました。・・・環境工学とは 環境創造と環境保全の双方を包含し、人間の快適性を追求するとともに(快適環境の追求)、自然の健全性を保つための(環境保全)工学であるといえます。』

 環境工学を人(快適環境)と自然(環境保全)の複眼的な視点で定義した素晴らしい解釈と思います。
機械技術の多くは、要素としての機械を極める学問として、力学や物理学を視点としながら機械そのものの発展を目指してきました。そこに人と自然の機械の恩恵と影響を受ける側の複眼的な視点を加え、多次元のシステム的なアプローチから環境そのものを創発する学問が環境工学であると捉えて、環境工学部門はスタートしたのです。

 実学としての経済や社会科学までを含む学際的なバランス感覚をもちながら要素を極め、要素をバランスよく組み合わせて機械に最大の機能を発揮させ、同時に自然環境と共生できるシステムデザインを目指す複眼的且つ大規模な学術の構築とその普及に本部門の存在意義があるのではないかと考えます。
柏木先生の表現を私流に書かせていただくと、環境工学は、「人の快適環境を実現する内部快適環境の創発」と「外部環境としての自然に面して、人と自然の両者の健全な関係を保つインターフェース環境の創発」を対象とする学術ということになります。「インターフェース環境」は、都市でもあり自然豊かな環境でもあります。人と自然の両者に快適なまさに「アメニティー空間の創成」です。

 そこに、「騒音・振動評価・改善技術分野」、「資源環境・廃棄物処理技術分野」、「大気・水環境保全技術分野」、「環境保全型エネルギー技術分野」の4つの分野が技術委員会として柱となり、実学としての快適社会基盤システムデザインの学術的な先導を行う環境工学部門が構築されています。

 「専門」を極めることは最も重要ですが、一方で「調和」という視点も重要です。組織・企画委員会委員長として企画した4回の環境工学サロンから、環境工学部門の標語を『先進サステイナブル都市』としました。『先進』の意味には、安心・安全を含めた快適環境を目指す先進技術が含まれます。その持続的実現が『サステイナブル都市』に込めた思いです。各分野間、あるいは人と自然とのコラボレーションとバランスの実学を象徴する標語と思います。

 さて、2009年度の活動は、実学という視点から産官学に市民を加えた輪のなかでの環境への技術貢献を目指します。すでに市民フォーラムや子供達への技術教育的企画などが予定されています。また、「専門」に重きを置いた企画として、7月に沖縄で開催する第19回環境工学総合シンポジウム、そして「調和」に重みをもたせた企画として、はじめての国際会議を11月に横浜で開催する予定です。その他の企画も積極的に進めます。
『先進サステイナブル都市、Advanced Sustainable Cities (ASC) 』をテーマに環境工学部門が新たな風を帆に受けて、着実に次の港へ旅立つ一年となるよう努力致します。皆様のご協力を心より御願い申し上げます。

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