2024年度 部門長
 戸井 武司(中央大学)

2024年度部門長 就任挨拶
2024年度の活動に向けて

1.はじめに

 2024 年度の環境工学部門の部門長を拝命いたしました中央大学理工学部の戸井です。身近な音に着目し,機械など構造物から発生する騒音を心地よい音に変える快音化や,音と人との関連に着目し感性工学に基づく快適かつ機能的な音環境を創成するスマートサウンドデザインの研究に従事しています.音は有益な情報を有しており,その場の雰囲気を形成する重要な要素でもあり,環境基準を満たす単なる低騒音化でなく,料理の旨味成分のようにあるべき音環境の構築が望まれます.環境工学には環境負荷の低減による環境保全と同時に,人が快適に生活するアメニティ空間の創成を両立する統合的な視点が重要です.環境工学部門の活動および活性化に邁進する所存ですので,1年間よろしくお願い申し上げます.

 さて,生活空間における典型7公害である大気汚染,水質汚濁,土壌汚染,騒音,振動,地盤沈下および悪臭の中で,総務省の統計による苦情件数では1位騒音,2位大気汚染,3位悪臭,4位水質汚濁で10年程推移しています.この4種の公害で全体の9割以上を占め,騒音は全体の4割弱とアメニティ空間に与える影響は多大です.

 音は気づきやすく,誰でもコメントしやすいので,インターネット上の口コミが多く,機能/性能や価格などが横並びであっても,騒音や異音などの悪いコメントで売り上げが急激に変化する昨今です.生活が豊かになり音への関心が高まり,着目される機会が増えているので,音性能を担保して製品価値を高め,環境調和する音創りや,空間価値および体験価値を高める取り組みがなされています.

 住宅,オフィスや自動車における快適性の要求は年々高まり,大きな騒音の“もぐら叩き”による低騒音化は,必ずしも適切な音環境となりません.近年は静粛な環境に小さな騒音が存在する状態であり,更なる騒音の低減ではなく,人に必要な音情報を活用するスマートサウンドデザインが求められています.

 国内ではエネルギー不足と脱炭素社会を見据え,音の快適性に加え機能性を有する機能音が活用されています.一例として,エアコンは温熱環境や風調整が主機能ですが,音響特性は体感温度に影響を与えます.エアコン動作音の高周波音の増加で涼しく,低周波音の増加で暖かく体感温度は変化 し(特許第6161055号),音温度となります.暖色系で温かく,寒色系で涼しく感じる色温度に,音温度を組み合わせた複合刺激により室温は一定でも体感温度を効果的に変化できます.身体へ穏やかに作用するばかりでなく,省エネを実現する機能音は,世界規模の活用により脱炭素社会に大きく貢献します.
日本の温室効果ガス排出は,年間およそ12億トンですが,政府は2050年までに実質ゼロにするカーボンニュートラルを掲げています.我々の生活様式の転換,産業構造や経済活動の変革が必要であり,環境対応技術が求められています.

2.環境と地球

 2024年1月1日の令和6年能登半島地震は,石川県内で最大震度7が観測され,地震や津波による建物の損壊や地面が約4 m隆起して海成段丘の形成など人がなす術もない自然の脅威を目の当たりにしました.被災された方々には心からお見舞い申し上げます.また,1日も早く平穏な生活に戻られることを心よりお祈りいたします.また復興にご尽力されている皆様には安全に留意され,ご活躍されることを祈念いたします.

 一方,環境は我々の知恵と努力で保全や有意義に活用することが可能であり,次世代のためにも規範となる仕組みを構築すべきです.本ニュースレターのタイトル「環境と地球」を常に考慮することが必須となっています.環境工学部門では毎年,環境工学総合シンポジウムの他,講習会,見学会,夏休み親子向けイベントなどを開催して環境技術の普及や討論の場を提供し,人材育成にも貢献しています.更に環境工学の魅力と必要性を伝えると同時に,この分野のリーダーシップが期待されています.

 環境省は,移動に関する脱炭素化として太陽光,風力,水力,地熱などの再生可能エネルギー電力による電気自動車(EV),プラグインハイブリッド車(PHEV)または燃料電池自動車(FCV)を活用したゼロカーボン・ドライブを目指しています.従来のガソリンやディーゼルによる内燃機関自動車から世界的なEVシフトが急速に進展しており,同時に自動車の車室内外の動作音も大きく変化しています.安全・安心に貢献し環境負荷の軽減に繋がる音創りが求められています.

 既に,限定された地域を走る短距離かつ低速の運送車や小型バス,観光船や建設機械の一部などでEV化が進んでいます.利用者および地域住民に対する3大公害である騒音,排ガスによる大気汚染および悪臭がなくなり,音環境を考慮した地域のサウンドスケープが重要となっています.

3.第34回環境工学総合シンポジウム2024

 環境工学部門における最大の行事であり,40以上の学協会に協賛頂いている環境工学総合シンポジウムは、2024年7月17日(水)〜7月19日(金)[7月17日(水)は見学会のみ]に開催します.今年度は平安時代のはじめに空海(弘法大師)によって,開かれた真言密教の聖地である高野山(和歌山県伊都郡高野町)にある高野山大学にて開催します.高野山での開催企画は,2020年度部門長の栗田健氏と実行委員会にて2019年より入念な計画と周到な準備をされていましたが,COVID-19 パンデミックの影響により止む無く中止になりました.その後,感染状況は落ち着きましたので,2024年度の開催地は高野山を選定しました.

 高野山は2004年にユネスコの世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」として登録され,豊かな自然環境,歴史的伝統の中で,人と環境および文化を理解するには最適な地です.また昨年は弘法大師御誕生1250年であり,「いのちよ輝け〜大師のみこころと共に〜」をスローガンに記念大法会が執行されました.近年では国内外から多数の参拝者が訪れています.
環境工学総合シンポジウムでは,自然環境と調和する安全・安心な快適環境を実現するための情報提供,および専門家による最先端の研究および技術開発成果の発表と討論を行います.高野山で開催するこの機会にぜひご参加頂き,サステナブル社会へのブレークスルーのきっかけを見出して頂ければと存じます.

 さて,開催初日の7月17日(水)は,4代目新型車両の南海鋼索線(高野山ケーブルカー)の巻上室の見学会を実施します.ケーブルカーは1本の長いケーブルの両端に1編成ずつ車両が取り付けられ,井戸のつるべのように片方の車両を引き上げると,もう片方の車両が下りる仕組みです.その太いケーブルと巨大な巻上機の回転を目前でご覧頂くことができます.
開催2日目の7月18日(木)午前は,各種表彰,および高野山大学 学長 添田髀コ氏により基調講演「千の風になる前に知っておくべき事」や,参加者全員による阿字観という瞑想に耽って頂く時間を設けています.また,エクスカーションとして,空海が承和2年(835年)に入定した高野山奥之院のガイドツアー, 静寂な寺院にて写経,宿坊にご宿泊頂くと朝勤行へご参加頂くことが可能です.いずれもWebサイトからの事前申し込みが必要ですので,お早めにお手続き,および各種の体験をお楽しみ頂ければと存じます.

草, 建物, 座る, 立つ が含まれている画像
図1 高野山 奥之院参道

 一方,連携企画として7月16日(火)午後に第4回法工学・環境工学連携セミナーをオンライン開催いたしますので,奮ってご参加下さい.

 環境工学総合シンポジウムにて最先端の研究および技術開発の成果発表や最新情報の収集および討論のみならず,日本の誇る真言密教の総本山である高野山の歴史と文化,および貴重な体験もお楽しみ頂ければ幸いです.宿泊は高野山の宿坊,または近隣のホテルと送迎バスを用意しています.会期中は真の環境調和型社会や持続可能社会にじっくりと向き合い,今後の研究や業務に思いを馳せる時間をお取り頂ければと存じます.

 現在,実行委員会が一丸となり準備を進めておりますので,ぜひとも参加登録をよろしくお願い申し上げます.
https://www.jsme.or.jp/env/symp/sympo-info2024/

4. おわりに

 SDGsの目標達成に向けた地球規模の環境保全には,日々の生活様式の転換,産業構造や経済社会の変革が必要であり,環境工学の広い視点と総合力が求められます.環境工学部門は,第一技術委員会「騒音・振動評価・改善技術」,第二技術委員会「資源循環・廃棄物処理技術」,第三技術委員会「大気・水環境保全技術」,第四技術委員会「環境保全型エネルギー技術」があります.今後は,これらの先端技術を駆使した活動のみならず,他部門,他学協会,産業界や国内外と連携した活動が益々重要となります.皆様の更なるご協力,ご支援をよろしくお願い申し上げます.

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