2015年度の設計工学・システム部門講演会では,オーガナイズド・セッションと一般セッション,D&Sコンテストが実施されました.本ページでは,各セッションの座長の方に当日のセッションの様子を報告いただき,紹介します.
OS1-2_製品設計開発のためのモデリング・方法論・マネジメントU
本セッションでは, 2210 アセットの計画的構築と再利用によるIT サービス開発方法,2211 市場データを用いた車両設計指標の構築と最適化設計に関する研究,2212 パラメータネットワークの変化に着目した設計思考可視化に関する研究,の3件の発表があった.2210では,システムインテグレーション知識の共有・再利用を促進することを目指してシステムアーキテクチャ情報をパターン化する方法とその再利用性の評価モデルが提案された.2211では,ISM法による評価項目間の関係の表現とデータ包絡分析法を用いることで,論理的な評価モデルの構築を可能とする方法が示された.2212では,熟練設計者が持っている解析モデルに関する知識の分析と獲得を目的として,設計者が解釈している設計状況を表現する1Dモデルの編集過程を全て記録する1Dモデルエディタの開発の報告があった.いずれの講演にも活発な質疑応答が行われ,このセッションのテーマへの関心の高さが伺えた.
野間口大(大阪大学)
OS2-1_デジタルエンジニアリング1
本セッションでは、デジタルエンジニアリングに関連する発表が3件行われた。3次元レーザースキャナを用いた板曲げ加工プロセスの支援システムの構築に関する報告、そして、モルフォロジー操作による幾何形状の概形を反映した中立軸変換手法に関する提案が報告された。また、面対応関係が抽出可能な境界表現3D-CADモデルによる類似部分形状認識技術に関する研究発表が行われ、活発な質疑・応答が交わされた。
前川 卓(横浜国立大学)
OS2-3 デジタルエンジニアリング3
本セッションでは,照度差ステレオ法とレーザースキャナで取得した点群利用に関する研究3件が発表された. 照度差ステレオ法とは,異なる光源から照らされた物体を同一視点から撮影して得られる画像の輝度情報を用いて物体表面の法線ベクトルを推定する技術である.法線が推定できれば,3次元情報を推定することも可能である.基本的な原理は,30年以上前に提案されているものの,扱える物体表面の反射特性や形状によっては復元精度に問題があったため,その精度を向上させる方法の研究が活発に行われている.「照度差ステレオ法を用いた3次元物体の復元」では,照度差ステレオ法で得られた法線情報から3次元再構成をする際に問題となっていた境界部や自己オクルージョンによる精度低下を解決する手法を提案した.「照度差ステレオ法を用いた検査システムの開発」では,照度差ステレオ法が苦手とする鏡面特徴などを持つ物体の計測精度を向上させる効率的な手法の提案があった.「大規模点群による目視検査システム」では,レーザースキャナで計測した膨大な点群をヘッドマウントディスプレイによるステレオ立体視を効率的に表示するための方法についての発表が行われた.レーザースキャナの普及によって,様々な空間の3次元情報を取得できるようになった一方,得られた点群の利用方法が問題となっている.本研究は,この問題の解決策の一つであり,安全かつ効率的な目視検査への利用が期待できる.
道川隆士(大阪大学)
OS3-1_設計と最適化I
本セッションでは4件の報告があり,最初の2件は境界要素法を用いたトポロジー最適化に関連する報告,後の2件はメタヒューリスティクッスアルゴリズムを用いたトポロジー最適化に関連する報告であった.1501の発表では,SS法を用いて非線形固有値のトポロジーの感度解析を可能とする方法を,1502では境界の影響を考慮したトポロジー導関数の導出と,それに基づくトポロジー最適化の方法を提案しており,極めて先端端的な研究の印象を得た.他方,1503ではアントコロニーを,1504ではABCアルゴリズムを用いたトポロジー最適化の方法を提案しており,極めて斬新で今後の発展が大きく期待される感を得た.
西脇眞二(京都大学)
OS3-5_設計と最適化 X
このセッションでは,3件の発表があり,構造,機構,流体の設計問題に関する形状最適化に関する発表であった.形状最適設計の適用分野が広がっていることが実感できる.さらに,いずれも汎用CAEソフトと最適設計を組み合わせたものであり,このうち,2件はFreeFEM++を用いたものであった.汎用CAEソフトとの連携が進めば,今後,最適設計の応用に関する研究や実用化がさらに発展することが期待される.
小木曽 望(大阪府立大学)
OS3-6_設計と最適化VI
本セッションではロバスト最適化,サロゲート最適化法の手法の他,制振装置のモデル化についての報告があった.特に,大阪府立大の小木曽准教授,香川大学の荒川教授のお二人によるロバスト最適化についての議論が盛り上がった.ロバスト最適設計の定式化には,これまでにも多くの方法が提案されてきているが,最もよく用いられる定式化は,目的関数と外乱による目的関数の変動の重み付き総和を最小化するものである.しかしながら,このような定式化による最適解は,パラメータに敏感に変化する問題がある.そこで,目的関数の変動を最適解においての感度で表現するのではなく,外乱の変動幅を考慮した際の最悪値を考慮した定式化が有望である,という話題を中心に,関連する興味深い議論があった.
泉井一浩(京都大学)
OS4-2_知識マネジメント・情報共有2
本セッションでは、学習サービスの設計の観点からの学習者の心的状態を表現する語彙のオントロジー、複数拠点・複数並行案件の設計におけるデータ通信優先度を考慮した業務実行順序決定手法、ITを利用した技術・技能伝承のための溶接ビード画像からの画像処理による可能技能抽出、に関する計3件の発表が行なわれた。学習者の心理状態、企業における設計の効率化、加工技能の抽出という、多様性に富んだセッションであった。
村上 存(東京大学)
OS5-2_サステナビリティ
本セッションでは、持続可能な社会の構築を目的とした研究に関する講演が計3件行われた。具体的には、小温度差発電システムの普及要件や、製品の最適更新期間、企業の収益と環境負荷を考慮したアップグレード製品設計に関する発表が行われた.これらの研究はいずれも、従来から工学分野において議論されてきた物理的製品のみを対象とするものではなく、製品が用いられる社会システムや、製品に付随するサービスも考慮した上で、環境と事業性の両側面から製品の持続可能性を検討するものである。これらの講演に関して、会場の参加者による活発な質疑応答が行われ、本テーマに対する関心の高さが伺えた。
木見田康治(首都大学東京)
OS5-3_ビジネス展開
セッション「OS5-3 ビジネス展開」では3件の講演が行われた。各講演では、(1)定性シミュレーションを用いたプロダクト・サービスシステム(PSS)のビジネスモデルの設計手法、(2)顧客の予測退店時刻に基づく飲食店の動的な座席割り当て手法、 (3)PSSの類型化に基づくPSSビジネスモデルの設計プロセス分析手法について、研究成果が報告された。質疑応答では、提案された手法の前提や妥当性などについて、発表者と参加者の間で多角的な議論が展開された。いずれの手法も、実際のビジネスシーンへの応用が期待できるものであり、各種ステークホルダーとの連携による実践を通じて、D&S部門と産業界との結びつきがさらに強まってゆくものと期待される。
木下裕介(産業技術総合研究所)
OS6_創発デザインの理論と実践
「創発デザインの理論と実践」では、新しい価値、機能、および構造を創出する創発デザインに関する話題を中心として、3件の講演がなされた。1件目の講演ではL-systemとセルラ・オートマタを融合したアルゴリズムによる創発的な形態形成に関する研究、2件目の講演では記号論の視点を導入したアルゴリズムの創発デザインに関する研究、3件目の講演ではAdditive Manufacturingを導入した多様な形状を生成するデザインシステムに関する研究について話題をご提供いただいた。また,質疑では提案されたアルゴリズムの事例応用の可能性や3Dプリンタの導入によるデザインシステムの新たな価値について議論がなされた。今後の様々な領域への創発デザインの応用と発展に期待したい。
佐藤 浩一郎(慶應義塾大学)
OS-8_感情と設計
OS-8「感情と設計」では,以下の5件の発表が行われた. 「1307 ブランドについて考える」と「1308信頼性とトラスト」では,従来の社会の変化が連続なのに対して,最近の変化は急激であり不連続であるため,予測不可能になっている.今後は,ブランドは顧客とコラボレートして作られていくものであるとの講演であった.また,信頼性とトラストの違いについて,信頼性が固定モデル,オープンループであるのに対して,トラストは適応モデル,クローズドループである.さらに信頼性という概念には成長が考慮されていないことが重要で,近年では連続したアップグレードがシステムへのトラストを深めていくことになるとの講演であった. 「1309 製品形態の美的感性に関わる認知神経メカニズム」では,ユーザの製品に対する魅力評価の評価構造を主観評価実験と脳波計測の2つの印象評価から行っている.さらに,実験結果を基に,製品形態の魅力評価の認知神経モデルを構築している.この発表では,かっこよさ,かわいさ,美しさで評価する意味などが議論された. 「1310 身体知獲得過程における動作の再現性と脳賦活反応との関係」では,手続き記憶の見まね学習を対象とし,身体知獲得過程における動作の再現性と脳賦活反応との関連性に関する研究で,学習していく過程で脳賦活反応がどのように変化してくかなどの議論がなされた. 「1311 動画視聴時のポジティブ・ネガティブ情動の心理尺度に基づく評価と脳活動計測」では,ビデオクリップ視聴での情動と脳活動計測を行い,ネガティブ,ポジティブで脳活動が異なることを明らかにしている. このセッションでは,感情や感性を脳計測から定量的・定性的に推定することの可能性が示され,今後の展開に大きな期待を抱かせるセッションであった.
大久保雅史(同志社大学)
OS9-2_ヒューマンインタフェース・ユーザビリティ2
本セッションでは、自動二輪車用ヘッドアップディスプレイによるカーナビゲーション、抵抗トルク呈示によるフィードバックを有する入力装置、クアッドローター型UAV(Unmanned Aerial Vehicle)のための障害物までの距離を反力として操作者に伝える操作系、指一本でペンのような正確な描画を可能とするタッチインタフェース、に関する計4件の発表が行なわれた。既存ではない新たなインタフェースの提案を含む内容が多く、興味深いセッションであった。
村上 存(東京大学)
OS10_設計教育
本セッションでは、グローバル化に対応するための多様性を重視した設計および設計教育、機械要素設計と3D CAD・3Dプリンタを連結した設計教育、はめあい公差を感覚的に理解するための教材の製作と教育効果、に関する計4件の発表が行なわれた。前者2件は設計および設計教育の理念や思想、後者2件は具体的な設計教育事例に関する内容であるが、前者の発表内容が後者の今後の方針に関するヒントとなり得るとの指摘がなされるなど、有意義なセッションであった。
村上 存(東京大学)
OS13-2_タイムアクシスデザイン
本セッションでは、ライフサイクル設計、車載用体調モニタシートシステムのラインアップ設計、サービスエコシステムにおける知識の獲得と利用という3つの 異なる目的および観点における時間軸がもつ意味と、その設計への反映方法に関する話題の提供と、活発な議論が行われた。3つの講演は、動機こそ異なるが、 互いに関係する部分が大きく、今後もこのOSを共同議論の場として活用しつつ、連携を模索することが有益であることが確認された。
下村芳樹(首都大学東京)
OS14_デザイン科学
本セッションでは、多空間デザインモデル(Mモデル)を導入した品質機能展開、協調デザインを促進するデザイン手法、最適可変域を導出する可変制御因子に対応したロバストデザイン、Mメソッド(多空間デザイン法)とSysMLを用いたボトムアップ的発想を促すデザイン法、に関する計4件の発表が行なわれた。いずれもデザイン理論を基盤としたデザイン方法の構築を目指すものであり、興味深いセッションであった。
村上 存(東京大学)
D&Sコンテストショートプレゼンテーション,ポスター発表
D&Sコンテストを開催しました.生物に学ぶことから発想を得たメカニズムを組み込んだ機器設計や,完成機器の理想の挙動も考慮してシステム全体を評価し開発プロセスを推進したものなど,若手の斬新なアイデアを生かして安全安心を実現する機器やシステム開発の成果が発表されました.
中村正行(信州大学)