開催日:2009年6月8日
会場:東京大学工学部11号館講堂
いま世界では二酸化炭素排出量の削減やエネルギー・資源価格の高騰へ対応が迫られています.日本の製造業においても,より一層の省エネ・省資源化を進めなければならない状況にありますが,その一方で,日本の優れた省エネ・省資源化技術は国際競争力の源泉です.このような状況の中,本講習会は,「省エネ・省資源で競争力を磨く」,具体的には,革新的な3R設計のヒントを得ることを狙いとして開催されました.
この講習会は,午前10時から夕方5時までの1日コースで,2009年6月8日(月)に東京大学11号館講堂で行われました.講習会には,省エネ・省資源に係わる研究開発でご活躍されている講師の先生方6名をお招きし,企業,大学から26名の方(企業11名,大学15名)が参加されました.講習会終了後に行ったアンケート(設問により回答者数が異なります)によれば,約7割の方が本会会員の方で,「環境と製造の係わり」という広い観点での講習会でしたので,協賛学会からの参加者も多かったのではないかと推測されます.また講習会の内容についての満足度は,「非常にためになった」12名,「どちらかといえばためになった」5名,無回答を含めその他が3名で,多くの方になんらかの参考になったのではないかと思われます.各講師とも1時間程度のご講義と質疑を行いましたので,以下,その概要をお伝えします.これが皆様の次回以降の講習会参加へのきっかけになれば幸いです.
東京大学 生産技術研究所 教授 堤 敦司
まず省エネ・省資源について全体を俯瞰する意味で,東京大学の堤先生にご講演いただきました.一言でいえば,「環境制約と資源制約を克服するためには,コプロダクションのようにエネルギーの高度有効利用を図るとともに,物質とエネルギーが生産−利用−再生という環を築く必要がある」とのことです.具体的にはご講演の中で,エネルギー利用効率を評価する指標としてエクセルギーについて解説され,燃料電池やヒートポンプを例に,効率を挙げるための方針などを示されました.また,「エネルギーも物質同様に保存されており,劣質化したエネルギーを持続可能エネルギーでエクセルギー再生させることで,物質とエネルギーの循環が実現できる」という内容の解説をいただき,これまで設計分野にあった物質中心の“循環型”のイメージが,エネルギーにも言えることが理解できました.
アンケート結果では,「エクセルギーの概念を理解するのが難しかった」「もう少しじっくりと解説を聞きたかった」という意見もあり,今後のプログラム作成に反映したいと思います.
清水建設(株) エンジニアリング事業本部 本部長 谷岡 雄一
近年Green BuildingやGreen Cityといった都市計画や社会インフラに関しても省エネ・省資源の観点から見直しが進められています.また,工場施設の環境負荷は生産活動に投入される資源・エネルギーより,空調や照明など運用による負荷が非常に大きく,建設時の負荷がライフサイクルコスト(LCC)に占める割合は28.9%であり,二酸化炭素排出量(LCCO2)に関しては15.7%とのことです.このような背景のもと,照明,空調,屋上緑化に係わる環境負荷低減技術の開発・利用状況や,建築物の環境性能指標であるCASBEEについて解説いただきました.ご講演の最後に,具体的な建築物の新機能について事例を多数紹介いただき,具体的な内容で理解が深まりました.
(独)物質・材料研究機構 材料ラボ ラボ長 原田 幸明
資源リスクが高まる中,Secondary Stockと呼ばれる使用済み素材を資源として活用する都市鉱山の可能性が注目されています.そこで国内にどの程度の都市鉱山が存在するのか,産業連関表を使いその可能性を試算した同氏に講演いただきました.単に埋もれている資源を「鉱脈」にしていくには技術,システムでの新たな取り組みが必要であり,例えば「使用済み製品に希少金属等で100円の有価物が含まれているときには,10円で処理すべき」など,現状をわかりやすく解説いただきました.
ご講演の最後には,「持続可能なエネルギー・材料国際会議2007 石垣島宣言」が配布され,“資源利用の3つの原則”,“資源利用の4つの実践”が紹介されました.詳細は下記のホームページをご参照ください.
http://www.nims.go.jp/ecomaterial/hal/MR/
会場からは「国内に製品として含有している物質(都市鉱山)のリサイクル推進と代替材料開発の関係」について質問がありました.これに対し,「長期的な視点では,希少資源の代替材料の開発は不可欠であり,それまでのつなぎとして使用量の削減や都市鉱山の利用がある」という考えが示されました.
(株)日立製作所 生産技術研究所 主任研究員 並河 治
日立グループで行われている「環境適合設計評価」について解説いただきました.設計レビューで用いられる製品アセスメントには既に99年よりLCA(CO2排出量計算)機能が備わっているとのことです.日立グループには種々の製品があり,その特徴に応じた適切な環境負荷計算が求められています.主にハード製品については,製造時の環境負荷をより適切に求めるため,工場,建屋,ラインといった単位で環境負荷情報を収集するシステムを構築し,実際に製造されている製品への配賦を行う方法が紹介されました.その一方でITを活用したシステム・ソリューション製品については,それを利用した顧客先での環境負荷の増減を算入可能にしたソフトウェアが紹介されました.近年関心が高まっているカーボンマネジメントやグリーンITの取り組みを評価,支援する先端的な内容を知る良い機会でした.
(独)産業技術総合研究所 スーパーインクジェット連携研究体 体長 村田 和広
従来の電子産業の主力工程であるフォトリソグラフは,複雑なプロセスを繰り返すため,多くの資源やエネルギーが投入されるとともに,洗浄装置等の付随施設による環境負荷も大きくなります.今回紹介されたインクジェット技術は,必要な場所に最小限の材料を塗布し回路等を作成する技術で,まさに省資源化技術といえます.また従来のように画一的な量産ではないので,需要に対応して生産を行えるという特徴をもちます.今回紹介された技術は,市販のインクジェットに比べ,液滴の容量が1/1000であるため,微細形状の作成が可能となるばかりでなく,金属超微粒子を用いた成形例では融点が劇的に低下させられる効果もあるとのことです.会場からは,「どのような金属(材料)を扱えるのか」といった今後の応用を期待する質問もありました.
三菱電機(株) リビング・デジタルメディア技術部 技術担当部長 藤崎 克己
現在の電気電子製品のリサイクル処理工程について解説いただき,続いて回収素材の品質向上に向けたプロセス技術開発と,それに基づく製品設計上の取り組みについてご紹介いただきました.同社では,破砕混合プラスチックから家電製品に使用されるPP, PS, ABSを自動で選別する技術を開発しています.ただし,使用済み製品を運搬回収後すぐに破砕するのではなく,手解体により大きな部品や破砕困難物等を取り除いた後に破砕しています.ここで重要になるのが,製品の分解性であり,設計者とリサイクルプラントの連携が重要となります.具体的には,リサイクルプラントの実情を反映した分解性評価ツール(DfDツール)の開発,利用が行われているそうです.このDfDツールを活用し,製品設計段階でリサイクルコストとリサイクル率を事前に予測した実際の例が紹介されました.質疑では,欧州と日本のリサイクルプロセスの違いについて議論がありました.日本のリサイクルプラントでは,欧州に比べ使用済み製品がプラントに到着してからの分解レベルが高く,その結果,再生された材料の質が高いという特徴があります.これを支えているのが,「設計段階からの分解性評価」であると強調されていました.
産学連携推進委員会委員長 増井慶次郎((独)産業技術総合研究所)
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