The 17th International Conference on Engineering Design (ICED’09) 参加報告

開催日時:2009年8月24日〜27日
会場:Stanford University, CA, USA
報告者:小林正和(豊田工業大学)柳澤秀吉(東京大学)

The 17th International Conference on Engineering Design (ICED’09)は,8月24日〜27日にかけて,スタンフォード大学にて開催された.夏のカリフォルニアということもあり,終始天候に恵まれ,また気温の割に過ごしやすく,非常に快適な会議であった.今回は,世界30カ国から540人を超える参加者があり,379件の講演発表と6件のキーノートスピーチ,11のワークショップが行われた.講演件数と参加者数の推移は以下の表を参照いただきたい.

開催年度 開催場所 講演件数 参加者数
2009 スタンフォード 379 540+
2007 パリ 473 560+
2005 メルボルン 320 322+
2003 ストックホルム 340 464+

また,今年度のテーマは以下の9つであった.
Design Processes
Design Theory and Research Methodology
Design Organization and Management
Product and System Design
Design Methods and Tools
Design For X, Design to X
Design Information and Knowledge
Human Behavior in Design
Design Education and Life-Long Learning

私は設計者の創造性支援や概念設計支援の研究に興味があるため,これらのセッションを中心に参加したが,これらの研究分野において,これほど多くのセッション,発表が一度に行われるのはこの会議を置いて他になく,事情に有意義な時間を過ごすことができた.

次回ICEDは2011年にデンマークのコペンハーゲンで開催される予定である.今回は日本からの参加者が少なかったが,次回は設計工学・システム部門のメンバー各位の参加を期待したい.

オープニングセレモニー
バンケット

小林 正和(豊田工業大学)







International Conference of Engineering Design(ICED)は,隔年で開催されている設計・デザイン工学に関する国際会議である.ヨーロッパを中心とする学会The Design Societyが主催する会議であり,ヨーロッパとその他の地域で交互に開催している.前回の16th ICED2007はフランスParisでの開催であったので,今回はヨーロッパ以外の米国Stanfordが開催地として選ばれた.設計工学関連の国際会議は,この他に,例えばASME のDETC/CIEがあるが,DETC/CIE が主に機械工学における設計を対象としているのに対して,ICEDはプロダクトデザインや建築など対象が広い印象がある.また,トピックスも,いわゆる技術的な内容だけでなく,理論,方法論,デザインプロセスの分析,認知モデリング,創造性,イノベーションマネジメント,教育,哲学など多岐にわたっていた.参加者の構成はヨーロッパからが大半を占めていた.今回は,時期的なタイミングもあったせいか,前回と比べても日本からの参加者が極端に少ない印象があった.
9月24日から28日までの開催期間は,6から7セッションが並行しており,とても全ては見切れていない.そのため,本報告も筆者が参加したセッションに偏った内容になってしまっていることをお断りしておきたい.以下,Keynote,SIG,Presentation sessionに分けて報告する.

Keynote speech
Opening, lunch, dinnerと毎日何らかのkeynote speechがあり内容も非常に充実していた.たとえば,Stanford大学のProf. Sebastian ThrunによるDARPAの無人カーレース”Grand challenge”の話,世界的に有名なデザインファームIDEOからDesign thinkingに関する話,Quick timeやweb TVの開発者で有名なSteve Perlmanによるデジタル特殊メイクの為のモーションキャプチャシステムMOVAのアイデア出しプロセスの話など,Palo altoならではの興味深い講演が盛りだくさんであった.Openingで,ヒューレットパッカードの研究所(HP Lab.)からのkeynoteが印象的であった.化粧品の推薦システム開発を題材に,ユーザの潜在ニーズの発掘,コンセプト作り,多様な構成メンバーチームでの開発などのプロセスの紹介であった.携帯のカメラで自分の顔を写してサーバにアップすると,肌の色に合った化粧品を推薦してくれるというシステムである.10代の女性をターゲットとして化粧品を売るにはどうしたらよいか.10代の女性は薬局に行って安物の化粧品を買うことが多い.薬局ではデパートと違い試用ができない.さらに化粧の経験が少ない10代は棚済みされた化粧のパッケージから自分に合うものを選ぶことが大変難しい.ここに目をつけたシステムであった.一言で言えば顧客主導型の開発であるが,いかにユーザの観察から潜在的なニーズを発掘し,既存の技術を統合(設計)するかのプロセスが興味深かかった.

SIG (special interest group)
本会議では,SIG (special interest group)のmeetingがプログラムの中に盛り込まれていた.SIGは3時間半程度のmeetingであった.筆者は,以下の二つのSIGのミーティングに参加した.
SIG on Design Creativity Research
神戸大学の田浦先生が主査をされているSIG(Special Interest Group)のmeetingが25日の午前中に開催された.出席者で部屋が満員になり会場を急遽変更したほどであった.内容は,参加者の自己紹介に始まり,数名のshort presentation,StanfordのProf. Barbara TverskyからのKeynote,神戸大学の山本先生からのプレゼンテーション,およびpanel discussion(田浦先生,JAISTの永井先生,成均館大学(韓国)のProf. Yong Se Kim,Prof. John Gero, Prof. Amaresh Chakrabatiなど)と盛りだくさんの内容で活発な議論がなされた.また,2010年11月29日〜12月に本SIG主催のThe first international conference on design creativityが神戸大学で開催されるとのアナウンスがなされた.
SIG Emotional Engineering planning meeting
Stanford大学の福田先生が主催するSIGのplanning meetingが26日午後に開かれた.出席者の自己紹介に始まり,福田先生からの本SIGに関するプレゼンテーションがなされた.その後,出席者からのEmotional Engineeringに期待することや考えを述べるセッションが行われた.早稲田大学の宮下先生と筆者がプレゼンテーションを行い,活発な議論がなされた.特に,認知工学者Prof. Donald Norman(「誰のためのデザイン」や「エモーショナルデザイン」の著者で有名)や,Stanford PBL LabのDirector Dr. Renate Fruchterから1時間以上に渡る有用な議論を頂き,個人的には非常に充実した時間であった.ちなみに,NormanはSIG on Creativity researchにも参加していて,丁度,筆者の隣に座っていた.筆者はNormanの著書をほぼ全て読んでいて興味を持っていたので感動的な出会いであった.

Presentation session
今回のICEDは前回と異なり,ポスターの件数を大幅に抑えて,その分,”Elevator pitch presentation”と呼ばれる新しいセッション形式が導入されていた.これは,5分間程度の発表の後に,議論の時間を十分にとった形式であった.
筆者は,主に,設計上流の要求把握,感性設計,イノベーションなどに興味があるため,それらの内容に関するセッションを中心に参加した.たとえば,Method to identify customer requirements,Design for manufacturability & Users, Method for User-Centered Design & Affordancesなどである.Addressing customer needsというElevator pitchのセッションが特に興味深かった.このセッションでは,特に,human factorやcustomer preferenceに起因する設計・デザインの要求をいかに扱うかの話題が主であった.ミュンヘン工科大学とBMWからの発表でビークルダイナミクスに対する人の知覚上の品質をいかに捉えるかの話があり,質疑の際に,ヨーロッパの出席者から日本で研究されているKanseiについて参照したらどうかとの指摘があった.出席していたSungkyunkwan大学のProf. Yong Se Kimに紹介される形で,少し感性設計研究について紹介させてもらった.欧米においても,設計におけるKanseiやuser preferenceの重要性は認識されつつある事を感じた.

柳澤 秀吉(東京大学)

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