2008年9月25日(木)〜27日(土)にかけて,京都市左京区の京大会館にて,第18回設計工学・システム部門講演会が開催されました.今年度の部門講演会では,3件の特別講演と128件の講演発表,12件のD&Sコンテストへの参加の他,2件のワークショップ,1件のパネルディスカッションと盛りだくさんなプログラムとなっており,248名の参加者を集めました.
講演会および懇親会の様子を、写真を中心に説明したページはこちら。
特別講演は,いずれも主に最適化関連の研究で著名な3名の研究者に御講演いただきました.講師と講演題目,御講演概要は次の通りです.
『モノづくりにおけるシステム設計最適化』
講師 吉村 允孝 氏 (京都大学大学院工学研究科 教授)
モノづくりにおける最適化技術の位置付けや,今後,最適化技術の目指すべき方向性などに関して,先生がこれまでの研究生活で培われた知識や豊富な経験を基に述べて頂いた.
まず,システム設計最適化技術の発展について,コンカレントエンジニアリングやコラボレーションの概念の創生と発達の歴史的な背景を交えながら述べられた.続いて,モノづくりにおける最適化の位置づけや重要性を説明された.
そして,人間にとって最も根幹的な活動と言えるモノづくりを取り巻く状況が,時々刻々と変化する中で,製品の設計・開発に携わる技術者は,製品性能の向上はもちろんのこと,品質管理,安全性の確保,環境負荷軽減など,多くの要因を考慮することを要求され,非常に高いレベルでの意思決定を行う必要性を訴えられた.そのような意思決定においては,機械的に最適化技術を適用するのではなく,設計対象の特徴を表わす特性間の関係性を十分に吟味した上で最適化を利用しなければならず,そのような最適化の本質は,設計対象に対する十分な理解を深め,特性間の競合関係を把握するプロセスにあるということを指摘された.そして,設計対象の必要十分な単純化,特性間の優先関係の吟味を行うことで,論理的に最適な解を得ることを可能とし,現状の最適解に満足せず,解の理解・吟味により,更なる望ましい解を探求するためのシステム最適化の方法論が示された.さらに,このようなシステム最適化の方法論の詳細が,工作機械の構造設計の例などを用いて具体的に示された.
質疑においては,最適解を更にブレイクスルーするという発想の原点を尋ねる質問に対し,過去の企業との共同研究の話を挙げながら回答されるなど,活発な意見交換がなされた.
最後になったが,風邪で喉を痛めていらっしゃる中,有意義な講演をしていただいた先生に,改めて感謝の意を表したい.
菊地 伸(京都大学大学院)
『 Parametric Optimization and Reliability Technologies - Concepts and Reality 』
講師 Nick Tzannetakis 氏 (Chief Technical Officer, NOESIS Solutions)
「特別講演II」では,Parametric Optimization and Reliability Technologies - Concepts and Realityと題して,OPTIMUSの開発元であるNOESIS Solutions社のNick Tzannetakis氏に講演をしていただいた.OPTIMUSは皆様もご存知の通り,市販の様々なCAEソフトウェアと連携することで,最適化機能を持たないCAEソフトウェアでパラメトリック最適化を可能にソフトウェアである.本講演では,「なぜ今,最適化が求められているのか?」という導入から始まり,OPTIMUSを例に企業ではどのような最適化システムが必要とされているのかについて,非常に分かりやすい講演をしていただいた.また質疑応答では「どのような企業で実際に使われているのか?」「どのようにして価値やコストを評価するのか?」「最適化が発達すると,設計者や学生が考えなくなってしまうのではないか?」など,活発な議論が行われた.
小林 正和(豊田工業大学)
『 Topology Optimization: a 20 Year Perspective 』
講師 Alejandro Diaz 氏 (Professor, Mechanical Engineering Department, Michigan State University)
本学会二日目の9月26日に,ミシガン州立大学のAlejandro Diaz教授により,「Topology Optimization: a 20 Year Perspective」と題し,1988年に誕生し本年で20周年を迎えたトポロジー最適化の発展の歴史に関する特別講演が行われた.先生は講演の最初に,トポロジー最適化を初めて数値計算法として実装した論文に掲載されている,非常に不明寮な最適形状と,エアバス社のA380の主翼のリブの設計にトポロジー最適化が利用された最新の例を紹介され,その対比により,この技術が著しい発展を遂げたことを強調された.先生はこの20年間のトポロジー最適化の発展の歴史について,初期,中期,後期と三段階に分けておられた.最初に,初期の研究の特徴として,Bendsoe&Kikuchiの論文により均質化法に基づくトポロジー最適化が提案されたこと,アルテアエンジニアリング社,くいんと社等のソフトウェアベンダーがトポロジー最適化を搭載したソフトウェアを開発したことが説明された.中期の特徴としては,簡易な定式化のSIMP(Solid Isotropic Material with Penalization)法が提案され,広く用いられたこと,マイクロストラクチャを設計対象とする材料設計にトポロジー最適化が使用され,負のポアソン比を持つ材料や,熱膨張ではなく熱圧縮を起こす材料が提案されたこと,コンプライアントメカニズムの創生にトポロジー最適化が適用されたことを挙げられた.さらに,後期の研究の特徴として,フォトニックバンドギャップやフォノニックバンドギャップといった特殊な波動特性を有する構造の最適化が紹介された.最後に,先生はトポロジー最適化がこれだけの発展を遂げた理由として,各研究でState of the artを明確にすることの重要性を説いておられた.トポロジー最適化のみならず,すべての研究分野に通じることであり,このことを再確認させてくれた先生に感謝を申し上げ,報告を終わりたい.
竹澤 晃弘(広島大学)
講演発表は14のオーガナイズドセッションと一般セッションのカテゴリーで行われました.各オーガナイズドセッションでの発表件数は次の通りです.
OS番号 | OS名 | 発表件数 |
---|---|---|
OS1 | 製品開発と設計方法論 | 8 |
OS2 | 設計における知識マネジメント・情報共有 | 11 |
OS3 | 設計プロセスのモデリングとマネジメント | 7 |
OS4 | デジタルエンジニアリング | 10 |
OS5 | 設計と最適化 | 11 |
OS6 | 近似最適化 | 8 |
OS7 | システム最適化 | 6 |
OS8 | ビークルの最適設計 | 8 |
OS9 | ライフサイクル設計とサービス工学 | 16 |
OS10 | ヒューマンインタフェース・ユーザビリティ | 6 |
OS11 | 創発性と多様性の設計 | 5 |
OS12 | 感性と設計 | 9 |
OS14 | 設計教育 | 7 |
OS15 | 設計・デザイン論 | 9 |
GS1 | 一般セッション | 7 |
各セッションにおいてどのようなテーマを取り扱い,どのような議論が行われてたかにつきましては,セッションの座長の方に概要をそれぞれおまとめいただきました.以下のページに掲載しておりますので,そちらをご覧下さい.
D&Sコンテストは,昨年度まで「設計コンテスト」や「解析コンテスト」として実施されてきたコンテストを発展させたものとして今年度より始まりました.このコンテストでは先進的な設計やシステム化のさまざまな事例,例えば,企業等における設計・解析の事例,フォーミュラーカーやロボットなどの学生競技会における設計事例,大学教育などにおけるプロジェクト型学習における成果などについてのポスター発表を広く募集し,コンテスト形式で優秀研究を決定します.今年度は12件の応募があり,2日間に渡るポスター展示・発表と口頭発表が行われました.
この他,パネルディスカッションと2件のワークショップが開催されました.それぞれの概要は以下の通りです.
また,部門講演会2日目の夜には,懇親会が行われ,参加者は懇親を深めました.この懇親会の席上で,第86期部門賞・部門表彰が行われました.表彰者については部門関係受賞者のページをご覧下さい.
来年度の部門講演会は2009年10月28日(水)〜30日(金)にかけて,沖縄県読谷村にて開催されます.本年度にも増して,様々なプログラムを予定しておりますので,発表者として,または聴講者として奮ってご参加下さい.
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E-mail: tsumaya @ mech.kobe-u.ac.jp, tsuyoshi-koga @ msel.t.u-tokyo.ac.jp
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