LastUpdate 2016.12.1


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No.153 「熱力学とCO2

日本機械学会第94期編修理事
平井 秀一郎(東京工業大学 教授)

平井秀一郎

 熱力学は機械工学の基幹となる四力の一つである。日本機械学会が出版している、「JSMEテキストシリーズ熱力学」に出てくる最初の図が、「日本のエネルギー供給・消費のフローチャート」、次が、「地球大気の二酸化炭素濃度と排出量の変化」である。熱力学は、CO2による地球温暖化とその対策に、直接的に関係する。温暖化はCO2の増加によるものであり、CO2は化石燃料の燃焼によるものである。燃焼も、この教科書の中に記述されている。燃焼は、当然ながら燃料といわれるものがあり、これが二酸化炭素と水に変化するときに熱エネルギーが放出される現象である。「水は高きより低きに流れ」、という言があるように、燃料は二酸化炭素や水に比べてエネルギーとして高いところに位置している。その高いところにある燃料から、低いところにある二酸化炭素と水に変化する過程が燃焼である。世界で85%以上のエネルギーがこの燃焼を利用している。

 二酸化炭素が増加しているため、なんとかその増加を抑制しなければいけない。そのためにいろいろな対策が考えられている。2030年に26%削減、2050年には80%削減とか言われている。CO2を削減するのに、いろんな試算があるが、80%も削減するのであれば、省エネルギーだけでは無理で、CO2隔離、略して、CCS(CO2 Capture and Storage)というものは避けて通れないものになる。排出されるCO2を大気中に放出するから温暖化が生じるのであって、地下深くCO2をいれてしまえ、という方法である。高コストでもいいということであれば、いろんなCO2削減ができる。しかし、高コストは、社会に大きな打撃を及ぼす。できるだけコストを抑えてCO2削減を考えなければいけない。CCSでCO2を1トンを削減するコストは、太陽光発電の5分の1から10分の1程度である。

 このCCSは、最近、CCUSという言葉に変わってきている。この新たに付け加わった、“U”というのは、UtilizationのUであり、「CO2有効利用」という意味である。CO2を有効利用できて、CO2を削減できるのであれば、これ以上すばらしいことはない、というきれいな言葉である。以前、機械学会に、「CO2有効利用に多大な予算をつぎ込んでいるのは日本だけであり、海外のまともな研究者の間では嘲笑の的になっている」という記事が載ったことがある。基本的に同意である。CO2は、エネルギーとして最も低い物質である。だから我々は、燃料からCO2に変化するときに放出されるエネルギーを利用できる。CO2を有用な物質、たとえば燃料に変えようとすると、エネルギーの放出でなく、逆に入力が必要となる。入力なのだから、余っているエネルギーでないと意味がない。入力できる余っているエネルギーはあるのか。以前は原発がさかんに動いていたときは、夜間電力という余剰なものがあった。今はない。メガソーラーという、太陽光発電の固定買取制度が発足と共に普及した、大面積に太陽パネルを並べるものがある。契約している電力量が決まっていて、これを超える電力は、捨てるしかないそうである。こういうエネルギーは使用できるのであろうか?

 エネルギーは、利用するのが化石燃料であれば採掘する上流から、最終的に利用する、たとえば自動車を動かす、下流までのインテグレーションで考えなければいけないと、言われる。インテグレーションとは積分である。別の言葉でいえば、上流から下流までのトータルの効率である。この表現だけでは不十分と思う。エネルギーは、インテグレーションだけでなく、上流から下流までの各要素の掛け算である。一つでもゼロの要素があれば、全体はゼロである。一つの要素でも、日本ではとても無理な広大な面積が必要とか、膨大なコストがかかるとか、があればたちまち実現できないものとなる。CO2有効利用をメガソーラーの余剰分との組み合わせでしようとすると、CO2の排出源である発電所などが立地する場所と、メガソーラーの場所が、近接していないといけない。また、発電所から排出されるCO2の量と、メガソーラーで余るエネルギーの量がそこそこ、コンパラな量でないといけない。いろんな要素を考えて、掛け算である。

 熱力学を学ぶとき、難しい数学などを使う場合がある。「エントロピー」のように、すぐには理解できない、なかなか難しい概念もある。しかし、CO2とエネルギーはこれよりはるかに単純である。

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