LastUpdate 2016.3.1


J S M E 談 話 室

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JSME談話室「き・か・い」は、気軽な話題を集めて提供するコラム欄です。
本会理事が交代で一年間を通して執筆します。

No.145 「いかに自らの思いを具現化するか ―上司の説得―」

日本機械学会第93期広報情報理事
河野 治(新日鉄住金エンジニアリング(株)常任顧問)

河野 治

 「おもしろき、ことのなき世を、おもしろく・・・」は幕末の英雄、高杉晋作の辞世の句である。私たちも、同じ一生ならおもしろく生きたいものだ。そして、おもしろく生きる条件の一つが、自らの思いを実現できることにある。世の中、いくら良き考えであっても、高度な技術を駆使した策であっても、周囲に納得してもらえねば実現しない。人の説得は難しい。私たち技術屋は特に苦手である。

 今回は、その手始めとして機械学会の後輩の皆さんへ、稚拙な私が学んだ「上司の説得法」をひとこと伝授・・・。どんな素晴らしいアイデアも、上司に「よしやってみよう」と言わせなければ実現できないので。

1.人の頭には3種の生き物が棲む

 人間の頭の中には3つの生き物が棲んでいる。それは「動物」と「子供」と「大人」。時としてこれが入れ替わる。「動物」が頭を支配したときが、感情むき出しで怒りの状態。「子供」が頭を支配したときが、我儘いっぱいの状態。そして、「大人」が頭を支配するときが、冷静な判断ができる状態。

 説得しようとするときは、まず上司がどの状態にあるかを読むこと。今日は「動物」が出ていると判断されれば、その日はあきらめてさっさと引き下がる。「子供」が出ているときは、まずなだめ落ち着かせ、「大人」を引き出してから説得に入る。「大人」が出ているときは、真っ向から説得すればうまくいく。

 このルールを頭に浮かべ、いざ説得。上司を観察するゆとりも自然に生まれ、案外うまくいくものです。

 私の経験で「動物」の上司に逆らってうまくいったことは一度だけ。怒りの上司は、私のA4で数枚の提案書を投げつけた。戸惑う私は、ひらひら飛ぶ提案書を拾い集め、「このような若者の提案を理解せぬ上司とはもう仕事はやってられない」と開き直った。しかたなく上司は、まともに話を聞いてくれ、最後に「勝手にしろ」と。こちらは、「了解」と受け止め、「勝手にさせていただきます。ありがとうございました。」と思いを通した。これは、相手が度量のある方(その後、役員をされ、よき仕事をされた先輩)で、かつ私が駆け出しの若輩者という稀なケースで、決してお勧めできないし、苦い思いの経験も一度や二度ではない。

 尚、このルールは女房説得にも役に立ちます?

2.よき提案ほど拒否される

 よき提案ほど、今までの常識や考え方を変えなければ理解できない。人は自分の経験や常識に合わぬことを聞くと、まず拒否反応を起こす。そこで、よき提案を上司に納得させるにはどうすればよいのか。

 それは、期間を置いて、めげずに3回繰り返し提案することだ。一度目は、「こんな提案うまくいくはずはない。絶対反対だよ」という反応。しかし、一度聞いて考えたことは、頭のどこかで意識し、潜在意識の中で少しずつ常識化される。一週間くらい間をおいて二度目の提案。このとき、拒否反応は消え「考えてみるか」に変わる。そして、三度目に同じ提案をすると、もう上司自ら考え出した提案のように思い、「なにをもたもたしているんだ。早く実行しよう」となる。

 そんなばかばかしいと思うかもしれませんが、この3回ルール案外使えますよ。尚、3回やっても変化が現れないときは、きっと提案がほんとうにまずいものだったと、自己反省すべきかもしれません?

 そういう私も歳を重ね、組織の中で部下を悩ましているかも、とヒヤリとすることもしばしばです。そこで、はじめから、「動物」になりやすい性格で、物分りは決してよくないと宣言し、皆がこのルールを遠慮なく使える環境だけは整えたいと努力しています。

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