LastUpdate 2016.1.4


J S M E 談 話 室

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JSME談話室「き・か・い」は、気軽な話題を集めて提供するコラム欄です。
本会理事が交代で一年間を通して執筆します。

No.143 「新年のご挨拶」

日本機械学会第93期会長
小豆畑 茂((株)日立製作所 フェロー)

小豆畑 茂

 新年明けましておめでとうございます.会員の皆様におかれましては良いお正月を迎えられたこととお慶び申し上げます.

 旧年を振り返ると,昨年は一昨年に続き,Big Data,IoT(Internet of Things),CPS(Cyber Physical System),AI(Artificial Intelligence)に代表されるITや計算機の進化が産業界では大きな話題でした.これらの技術が企業活動のバリューチェーンや社会インフラを一新する,所謂,第4次産業革命とも称せられる変革の到来が予期されています.このような社会の背景の中,総合科学技術・イノベーション会議が5月に「第5期科学技術基本計画に向けた中間取りまとめ(案)」を発表しました.その骨子には,産業の変化に呼応する科学技術の研究・開発も含まれます.基本計画の最終版の策定に向け,これへの提言や議論の機会を得た本会々員の方々もおられるであろうと推察いたします.本会の諸活動を通じても,産業界とアカデミアのいずれも変革の時期を迎えていることを痛感致します.両者の融合で先進的な米国,ドイツの事例が再考され,オープンイノベーションが今更ながら強く推奨されています.20年前に発行された「Engines of Innovation」は,企業の研究所の歴史的な変容を紹介し,単独の企業の努力だけで技術開発が閉じない時代,即ちオープンイノベーション時代の到来を指摘しました.オープンイノベーションは時と共に進化を遂げ,今やローカルな連携に止まらず,グローバルにオープンな共創のエコシステムが構築されている分野もあります.しかるに,国内ではアカデミアと産業界の融合の遅れが指摘され,その改善が話題にされます.融合には人材の流動化が伴います.そのための社会制度の構築は他の機関に委ねますが,本会は両者の情報交流の場の提供が活動目的のひとつです.会員のネットワークがこれまで以上にその本来の機能を発揮し,オープンイノベーションのトリガーに,またその推進母体にもなるべきでしょう.その有用性と価値を発揮できる好機です.本会はそのための労力を惜しまない.また,経済産業省のアンケート結果によれば,機械工学はITとともに日本の産業界が最も必要とする技術です.これは40年に及ぶ私の製造業での経験に照らしてもうなずけます.多くの製品に伝熱,流れ,材料強度,振動の技術は必須です.また,ITはコミュニケーションの手段の域を超えて社会の基盤です.情報が新しい価値や社会ニーズを創造する時代です.ITと機械工学の融合は,材料の選定,調達から製品の設計,製造,流通,運転,維持管理に到る,プロセスの全てを変革します.製造業のインフラが刷新されます.これが第4次産業革命の中核です.本会は発展する機会に恵まれています.

 またグローバル化とダイバーシティが世界の潮流です.5月にICONE-23,12月にICOPE-15にて挨拶の機会を得ました.更には12月にタイの機械学会の主催する国際学会に参加しました.また9月の北海道大学での年次大会では,中国,韓国の機械学会の代表団と,それぞれの学会の方針と運営,社会貢献に関する情報を交換しました.しかしながら,海外の学会との国際会議の共催や情報交換・交流はグローバル化のほんの一端です.グローバル化の初期活動です.産業界でのグローバル化はglobal competition,即ちグローバルな競争に企業が晒されることです.これは海外市場に国内企業が活路を見出すことだけではありません.国内だけで活動していても,国内市場に参入する海外の企業との競争を余儀なくされます.これは学協会も大学も同じです.良い例が論文集です.海外に比べて日本の論文総数が伸び悩む中,国内の機械技術者,研究者の執筆する論文の多くが,海外の出版社の発行する論文集に集まります.本会の論文集は競争に負けました.再興しましょう.研究の評価に論文数や論文の被引用度を使う流れは変えられず,これに沿った改革が要ります.本会の論文誌の改革を2014年に断行しました.その効果を期待します.本件,会員の皆様の絶大なるご協力をお願いします.また,本会は世界中の機械技術者にとって魅力ある学会になることが目標ですが,外国籍の会員は従来から500名であり,会員総数の2%以下です.これは欧米に限らず,国内の先進的な学会に比べても見劣りのする数字です.これを増やしたい.その一歩として,先ず国内にいる外国籍の技術者を惹き付けられる学会にするべく,留学生を対象にしたコミュニティの構築から手をつけてゆきます.会員部会,国際連携委員会の皆様が本年の初めにこの活動を具体化します.一方,ダイバーシティのひとつの課題である女性会員は,まだ会員総数の2%ですが,毎年増えています.LAJ委員会の皆様のご尽力に感謝いたします.

 2017年の本会創立120周年を節目に本会の将来の発展に向けた改革を推進します.例えば,このひとつに会員の7%以下の参加率である年次大会の活性化があります.一昨年度からの懸案であった若手技術者の会を8月に発足しました.企業の9名の技術者が委員です.これは本会の活動が若手技術者の期待に沿うものにするのと,若手の相互交流を活発にするのが目的です.先ず,年次大会の活性化に向けた提言をお願いし,多くの提案をいただきました.本年の九州大学での年次大会には彼らの意見を反映させるべく,企画理事,実行委員の皆様にご尽力いただいております.120周年記念行事については,昨年,委員会を発足しました.120周年に向けて,本年は序破急の「破」の年に当たります.色々な改革が会員の皆様のご協力で歩調を合わせて進む年にしたいと思います.

 さて,旧年は日本から2名のノーベル賞受賞者が出ました.最近の傾向を見ると,純粋なサイエンスでなくとも,人類社会に貢献度の大きな科学技術であれば受賞の可能性もあるようです.いつしか本会の会員からもノーベル賞の受賞者が出ることを夢見て,お正月のご挨拶とします.会員の皆様並びにご家族の皆様のご多幸をお祈り申し上げます.

*英訳版はこちら

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