LastUpdate 2014.7.4


J S M E 談 話 室

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No.125 「思わぬ効果」

日本機械学会第91期広報理事
大島 まり(東京大学 教授)

大島 まり

 昨年の夏より、娘がピアノを習い始めたのを機に私もピアノのお稽古を再開した。6歳から始め、大学受験勉強の間際まで習っていたので、キャリアだけはすごーく長い。しかし、その当時はピアノのお稽古がとにかく苦痛で。練習熱心でなかったので、習っていた期間が長いだけで、ちっともうまくならなかった。そして、ピアノをやめた後は、実家にピアノがあったのにも関わらず触れることもなく、年月が過ぎていった。

 それが今では、娘はちっとも練習しないのに、私の方が時間を見つけて、なるべく毎日練習をするようになっている。そもそものきっかけは、娘のピアノの発表会での親子の連弾。長年、ピアノに触れていなかったし、楽譜を広げたこともなかったので、どうなるかと思ったが、簡単な曲(チューリップ)ということもあり、何とかクリア。ピアノを習い直してみようかと、レッスンを始めた。

 私は、もともとスポーツ派。ストレスは体を動かすことで解消していた。子どもが生まれる前は、むしゃくしゃすると、夕方や早朝にジョギングをしたりしていた。しかし、子どもが生まれた後は、時間がままならない。仕事から帰って来て、慌てて夕食を作る。その後は、もうクタクタ。とてもその後に、ジョギングに行く元気もない。朝早く起きる朝方になったというものの、日が昇り始めてからでは、子どもが起き始める。夏は日の出が早いからいいが、冬は暗くて寒くて。かつて週末はバレエに通っていたが、出産後は体が硬くなり、レッスンにもついていけなくなってしまった。では、ヨガからはじめようと思い、週末に時間を見つけて通っていたが、今度は腕を骨折。すっかり運動しなくなり、ストレスが溜まる一方。結構飲むのが好きなこともあり、一時期はアルコールの量が増え、益々不健康に。これではいけないと思っていたところ、腕の骨折からのリハビリも兼ねてピアノを毎日弾くようになった。それに、鍵盤をガンガンと叩いて弾くと、これが意外とストレス解消になるのだ。消音ピアノを買ったので、夜でも早朝でも弾ける。時間を選ばすに気分転換にもなるので、健康な生活を取り戻しつつある。

 ピアノを習い始めた効果としてストレス解消があるが、もう一つの思わぬ効果がある。「ほめて育てる」教え方を体験できることである。私が子どもの時にピアノを習っていた頃は、練習熱心でなく、できの悪い生徒ということもあり、ほめられることはなく、よく怒られていた。ピアノだけでなく、学校でもあまりほめられた記憶がなく、怒られたり、叱られたりする記憶の方がどちらかと言うと強い。昨年の夏に出張が続き、全然練習ができないまま、レッスンを行った時があった。案の定、ひどいできだったが、それでも先生は怒ることなく、「今日はここのパートはできるようになり、良くなりましたね。次はこのパートをがんばりましょう」という具合に、良くなった点を見つけて励ましてくれるのである。はるかに年上の私に遠慮もあるのかもしれないと思うが、次はがんばってみようと気分になる。一方、全然練習せず、レッスン中もちっとも集中できない娘にも、辛抱強く指導していただいている。

 私たちの時代と違って、最近の学生も「ほめて育てる」世代である。しかし、実際に実践するとなると、私自身、そのような教育を受けた経験がないので、なかなか難しい。ピアノのレッスンでは生徒なので、実体験ができるので、大変参考になる。もちろん、生徒の気質に応じて変えていく必要がある。中には昔の私のように、そして私の娘のように、親に言われて通っている子も少なくない。目的意識が希薄な子を、どうやって動機つけるのかなども、大変勉強になる。

 ただ、ピアノの腕は少し向上しつつあるが、教育法についてはまだまだ発展途上である。昨年、久しぶりの発表会に挑戦した。出張が続き、練習不足がたたり、悲惨なできであった。あまりのひどさに、穴があったら入りたい気分だった。終了後、慰めてくれる娘に「練習しないと、本番でうまくいかないから、普段からきちんと練習したほうがいいよ。」と、少しでも練習に励んでくれればと思い、自分の失敗を例に教訓めいたことを娘に伝えた。娘に言った手前、自分でも実践しないと説得力がない。次の発表会を目指して、ちょっとでも毎日ピアノの練習をして、課題であった暗譜もした。前回と異なり、間違えなく弾けるようになり、かなり改善された。そして、いざ本番。しかし、今まで間違ったことないところを間違えて、いまいちの結果。一方、娘は涼しい顔をしてほぼ完璧に弾きこなした。発表会終了後、また落ち込む私に「本番に強いの」と、のたまった。結果が全てと言われれば、確かにその通り。そして、娘は相も変わらずちっとも練習しない。そのため、しかってしまう。状況が変わらず、かえって反面教師になってしまったのではないかと思うこの頃である。教え方は、自分の娘の場合も含めて、まだまだである。。。

 先生は、終了後の最初のレッスンで、落ち込む私に「暗譜もできて、よかったですよ。間違ったところもありますが、場数をこなすことも大事なので、次の発表会に向けて、続けてがんばってください。」と、やさしく言ってくれた。次を目指して、引き続きがんばろうと思う。

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