LastUpdate 2014.1.6
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No.121 「F1エンジンがある部屋」日本機械学会第91期財務理事
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2年前から大学の私の部屋にはF1エンジンが鎮座しています.もちろん本物です.エンジンの場所を確保するために,テーブル1つを部屋から出し,かつ私の居所も随分と狭くしました.美術品ともいえるF1エンジンを毎日見て触れることに比べると,この程度の不便さは苦になりません.ソファーに座ると,エキゾーストマニホールドが頭の後ろにドーンと構えています.
写真にあるように,このエンジンはトヨタ製です.トヨタは2002年から2009年までF1に参戦しており,このエンジン(RVX-03)は,2003年の日本グランプリのスペアエンジンです.よって,実走行距離は約140kmで,非常に程度の良いエンジンです.V10で排気量2996.7cc,最高出力930PS以上,最高回転数19300rpmです.
なぜ私の部屋にこのエンジンがあるかというと,ドイツのケルンにあるTMG(TOYOTA Motorsport GmbH)社長の木下美明氏が九州大学・内燃研究室の後輩にあたり,木下氏からの贈り物なのです.2011年の年末に,はるばるドイツから送られてきました.その後,ディスプレイ用の足を作りお披露目に至りました.学部1年生の講義(機械工学・航空宇宙工学序論)と3年生の講義(内燃機関)の際に,最後のスライドでこのF1エンジンの紹介をしたところ,かなりの人数の学生がエンジンを見に部屋に来ました.女性も数名含まれています.ある学生は1時間くらいずっと眺めていました.また,将来F1の仕事をしたいという学生(1年生)もいました.研究室紹介の時は,実験室の入口に展示しています.
エンジンはメカニズムの宝庫です.エンジンを理解するには,熱力学、機械力学、流体力学、材料力学のいわゆる四力学はもとより,制御工学など機械工学で学ぶこと全ての知識が必用であり,これほど面白いものはないと思っています.私はエンジン燃焼,特に点火を研究しているのですが,そこには,さらに燃焼に関する知識が必要になります.燃焼は燃料の酸化反応ですから化学反応の知識,また燃焼場に関しては流体力学の知識など,幅広い知識が必要となります.
さて,最近は燃料電池車や電気自動車がマスコミをにぎわしており,「今さらエンジン研究ですか」という声も聞こえてきます.そこには化石燃料の枯渇の問題と,燃焼生成物である二酸化炭素による地球温暖化の問題があるからだと思います.しかし,燃料電池車の燃料である水素や,電気自動車の電気は二次エネルギーです.電気は原子力発電でない限り,結局は一次エネルギーである石炭,石油,天然ガスなどの化石燃料を燃焼させて作っているわけですから,発電の過程で二酸化炭素は出ています.もちろん再生可能エネルギーを使えばという話はありますが,それで全てが賄えることは決してありません.ここで言いたいことは,車に載せてある燃料を作るところから考えましょうということです.この考えを「Well-to-Wheel」(油井から車輪まで)といいます.一方,燃料電池車でいえば「水しか出ません」,電気自動車では「水すら出ません」という見方を「Tank-to-Wheel」(燃料タンクから車輪まで)といいます.すなわち,燃料が作られて車に載せた後からのことを考えましょうということです.当然ですが「Well-to-Wheel」という見方をすることが重要です.
世界の車の大多数が,これから数十年はエンジンで動くことを考えると,「今さらエンジン研究ですか」という質問に対して「今だからエンジン研究です」が答えです.すなわち,今だからこそ大切な化石燃料を有効に使う必要があり,そのための研究は大変重要だと思います.皆さんは最近のエンジン車の燃費が飛躍的に良くなっていることを感じられていませんか?