LastUpdate 2013.3.6
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No.113 「製造業の未来は?」日本機械学会第90期庶務理事
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日本の経済の衰退がささやかれ、特に製造業の今後がどうなってゆくのか、気になっています。日本機械学会の会員数も、あるいは企業会員である特別員の数も日本経済と連動して減少傾向にあります。短期的には為替の問題とか、政策とか、EUの安定とかの影響が強いでしょう。しかし、もっと長い目で見た場合、製造業の将来について何か参考になるものはないかと探していました。私なりに興味深く接することができたのは、アルビン・トフラーの“第三の波”、NHK出版の「生産消費者の時代」、そしてクリス・アンダーソンの“MAKERS 21世紀の産業革命が始まる”の3冊の本です。
第三の波でトフラーは過去の第一の波:農業革命、第二の波:産業革命に対して、情報化が進むことで大量生産、大量消費の時代は終わり、カスタマイズの促進と生産消費者の登場を生む第三の波の到来を1980年に予言しました。第三の波は脱産業社会化、あるいは情報革命とも呼ばれています。
先に上げた残りの2冊はこの第三の波の延長上にあり、現在の大量生産大量消費の工業化された製造業はいずれ衰退することを必然と捉えています。現在の消費者はTVコマーシャルのような宣伝で購買意欲をそそられ購入する“大衆”ではなく、個々人の趣味や感性によって選び、自分で自分のものをカスタマイズし、デザインするようになってきています。その結果、製造業が画一化された製品を大量に作ることでコストを下げ、安く売ろうとするスケールメリットがもはや成り立たなくなってきています。消費の変化が早く激しく、工場の投資のタイミングが難しくなったという現代を1980年に予測していたトフラーの慧眼に驚きます。
NHK BS特集「未来への提言」未来学者 アルビン・トフラー〜田中直毅“知の巨人”との対話という番組をベースにした書籍「生産消費者」の時代(NHK出版)は要点を押さえ、読みやすく分かりやすい本です。この中で特に日本が過剰なまでに製造業に依存している、第三の波への変貌が遅れ、2.5の波にいるとの指摘は傾聴に値する指摘だと思います。IBMが中国のレノボ社にパソコンの製造部門を売却したような選択を日本の製造業にいる会社ができるでしょうか。より新たな技術や方式の研究開発に会社の資源を集中させ、他と競合し、安売り合戦をしなければならない商品の製造からは撤退することこそ、重要なのだとの主張なのです。
最近出版されたアンダーソンの“MAKERS 21世紀の産業革命が始まる”は新しい情報が多く、これも示唆に富む分かりやすい本だと思います。この本では、これまで大きな会社しかできなかった製品の企画から製造・販売が、各家庭に普及したコンピュータとネットワークによって低コストでできるようになりつつあると指摘しています。それによって、今まで消費者だった一個人が簡単にMAKERになれるということなのです。フリーの3DCADソフトが使えれば、誰でも簡単な製品試作が行える時代になっていること、それをパソコンにつながる3Dプリンタやレーザーカッター、NC機械などが実現することを示しています。
そういえば私自身、アイロンプリントで自分だけのTシャツを作ったことがあるし、野球チームのユニフォームのデザインを行ったことがあります。個人でNC機械持っている人はいないだろうけど、形に関する限りはCADでデータを作れば、NC機械を動かすこともできます。個人が簡単にいろんなものが作れるようになり、しかも、インターネットを使って自分ではもっていない専門知識や技術を持つ協力者を得たり、改良のアイデアを募集したり、ということも確かに今なら簡単です。
こういう未来は趣味のある個々人やサークルには本当にバラ色の未来に見えるでしょう。このように考えて見ると、個性豊かな個々人を尊重する小さな規模の会社や、そんな仕事のユニットが集まった会社なら未来がありそうです。逆に個性を大切にしない会社や、責任が組織に細かく別れていて大量生産を志す会社は難しくなるかもしれません。でも、どちらで働きたいかという従業員の立場で考えても、選択は同じ結論に至りそうな気がします。そんな未来なら安心できる気がしてきました。
参考文献
1) アルビン・トフラー:第三の波
2) アルビン・トフラー・田中直毅:「生産消費者」の時代、NHK出版
3) クリス・アンダーソン:MAKERS 21世紀の産業革命が始まる