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No.108 「大学教育について最近感じること」日本機械学会第90期副会長
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このたび、このコラムを執筆することになりましたので、いつから始まり、最初に執筆されたのはどなたかと思いホームページをみると、2002年5月に第80期会長の伊東誼先生が執筆されたのが最初でした。「00、007、127、0815−−−とはなんぞや」という題目で、数字と機械工学の関わりについて述べられた興味深い内容で、πを3と教えることによる「技術立国」日本への危惧を述べられていました。当時、“ゆとり教育”のはじまりで、πを3と教えることへの批判があった時期です。私は、丁度2001年から2002年までテキサス大学に留学中で、たまたまお会いした物理学科の日本人の先生から「え!、日本では、πを3と教えるようになったんですか???」とびっくりされていたことを記憶しています。いわゆる“ゆとり教育”の始まりで、数年前より大学への入学者がこの世代となってきたことは、大学の先生方は実感されておられると思います。
大学では、これに対処するために、高大連携教育と称して入学前授業や入学後の学習支援を行わざるを得ない状況になっています。とりわけ、理工系学部では数学ベースの講義が多い専門科目のために、高校レベルでの数学の能力を統一することを行っています。理科においても、最近では履修の偏りが大きくなっており、センター試験で点の取りやすい科目に流れていることも否定できません。私立大学の場合には、機械系でも物理を勉強していない入学者が増えてきています。このため、各大学では学習支援室といった高校の復習を行うといった学習の場を設けざるを得ない状況となっています。学部長という役目がら、最近高校の校長先生とお話しする機会が多くあります。先日お会いした校長先生のお話は興味深く、「有名大学への進学には不利になるかもしれないが、国語、数学、英語だけでなく、理科、社会のすべての科目を履修させています」と話しておられました。高校生は高校生としての教養を身に付けさせておくことの大切さを強調されておられました。最近では、理科・社会については、受験のために科目を絞っている高校や開講していない科目がある高校が多い中では、素晴らしいことであると感心した次第でした。ちなみに、この高校は公立の進学校です。よく言われているように、グローバル化が叫ばれる中で、英語が話せるだけではグローバルな人材ではなく、日本の歴史や文化、さらには政治・経済などの知識をしっかりと身に付けておくことは当然大事なことです。このような偏った教育は、大学の教育にも影響し、さらには社会人としての資質にも欠けるようになるのではないでしょうか。
さて、大学教育についてみると、今年3月に中教審から、「予測困難な時代において生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ」と題する答申が行われたことはご存知の方も多いと思います。大学は、“学生が主体的に学ぶところである”という原点に立ち返るために、大学で学んでいる学生を始め大学関係者や保護者、企業関係者等と直接議論を交わす場として、各地で「大学教育改革地域フォーラム」が開催されています。先般参加したフォーラムは、文部科学省、大学関係者、企業関係者の講演の後、学生主体で意見交換を行う場でした。各大学からの代表学生の意見や会場からの学生の意見を聞いていると、短期あるいは長期留学経験のある学生の意見はしっかりとしており、「日本の学生の学習時間は短すぎる」、「単位認定が甘すぎる」、さらには「大学教育を変えるには初等・中等教育から変えなければいけない」など教育関係者には耳の痛い意見がでるなど、日本の大学生も立派であると感心した次第です。私も大学教育だけ一生懸命改革しても、その基盤をなす初等・中等教育を含めて改革しなければその効果は小さいと思います。とりわけ、理工系学部の教員からすると、理数教育と併せて社会学習の必要性を感じるとともに、論理的な考え方の基礎となる国語力の向上が必須だと思います。私のいる学部では、その啓発の一助となればと思い、地域の新聞社と連携して、夏休みに小中高生を対象に作文コンクールを開催しています。
最近、大学は社会と乖離しているといわれていますが、私もそのとおりだと思います。大学によってその役割は異なると思いますが、地方にある大学は地域との連携の中でお互いに補完し合いながら、地域の活性化を支援していくことが重要であり、また人材を輩出していくことも大きな役割です。一方で、学生の教育に対して、インターンシップや講演など地域からも協力して頂き、学生を育てて頂くことも必要です。これが、学生にとって活きた社会勉強の場となり、“主体的に考える力”を醸成することにもなります。
今年で、大学生活20年になりますが、教育は本当に生き物と同じで、毎年入学者の学習履歴も変わり、また社会情勢も大きく変化する中で、大学は常にこのような変化に対応していかなければならないことを痛感している毎日です。
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