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No.103 「次世代の若者にどんな夢を託すのか?」日本機械学会第89期企画理事
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1.日本のモノづくり産業の成長にかげりが・・・
誰もが認めたくはないが、ご存知のとおり日本の経済成長が止まって久しいとの認識は皆にある。日本のモノづくり産業がじりじりと後発の韓国、台湾、シンガポールや中国などブリックス諸国に追い上げられ、苦戦を強いられている。でも資源もエネルギーも食糧もない日本はこれからどうやって生きていくのだろうか?といつも心配に駆られる。優れた技術を持ちながら投資のリスクを取れない国、日本。そのために半導体、液晶ディスプレイ、スマートフォンの例に代表されるように韓国や台湾、米国においてきぼり状態。資源やエネルギーのない日本が世界と伍して戦ってゆくには、やはり相変わらず原材料を海外から輸入して、世界の皆に喜んでもらえそうな付加価値の高い製品にして海外に輸出し、その手間賃で生きてゆく・・・という構図がこれからも通用するのだろうか?
3月11日の東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故により、科学技術への信頼がこれほど揺らいだときはない。失った科学技術への信頼をどうやったら取り戻せばよいのか?若者に未来への希望を再び持ってもらえるようにするには、これからの科学技術は、何を目標に研究開発を目指せばよいのか?
2.第4次産業の創出
そんなことに悩んでいるとき、北澤宏一先生の「科学技術は日本を救うのか」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)に出合い、一つの解決策の候補を見つけたような気がした。低炭素社会インフラ整備への投資が日本の未来を救うという考え。それは新産業の創出である。日本のモノづくりの現場では史上最高の円高にもみまわれて、生産拠点の海外展開、移転を余儀なくされている。海外展開によって日本モノづくり企業の生産力は維持され企業利益は確保されるものの、国内投資がなされないため国内経済活動は低迷し失業者は増加し、国の借金は増える一途。
再生可能エネルギーの活用、自然エネルギーが鍵だ。でも低炭素社会を築く技術が、農林水産、工業、サービス業に続く第4の価値の創造に本当に繋がるのか?ドイツでは、電力固定価格買取制度が導入され、太陽電池や風力発電で個人が作った電力を電力会社が20年間買取り続ける政策により自然エネルギーの比率が10%以上を占め、この仕組みが新産業創出につながっているとか。米国では、シティバンク、ゴールドマンサックスがCSR活動として再生可能エネルギーへの投資を支援、カリフォルニアではシリコンバレーからソーラーバレーへ変身が起きつつあるという。
低炭素社会構築に向けた科学技術、具体的な研究例として、バイオマス運搬やバイオマスリファイナリー研究、太陽光発電の効率化、有機薄膜太陽電池、風力や波力発電の研究、電気自動車や省エネ住宅、これからは民生用エネルギーは自給自足、地産地消を目指せということだ。植物の光合成を高めたり人工光合成の研究が結実するのは、もう少し先か?
3.若者とモノづくり
いろいろな統計をみると若者が将来について特に夢を持てないでいる、誰も将来について希望を抱いていない。みんな白けている。若者の多くが引っ込み思案で外国に出たがらない、外国留学の希望者が激減とかとも報じられている。それを受けてか、国は留学生増員政策で30万人を目標に留学生数を増やし、また同時に日本人学生の送り出しを支援し始めた。今後、21世紀に押し寄せてくる課題は何か?日本の労働力人口が減少することは明らかで、今後、労働力の確保が問題になるだろう。今の水準の年金受給はとても無理。若者への負担が大きすぎるではないか。医療技術がどんどん発達して平均寿命100歳時代、120歳も夢ではないかも?でもそのとき高齢者は何を生甲斐にして暮らせばよいのか?75歳定年制とか、フルタイムではなくとも65歳を超えても毎日4時間労働とか、あるいは週2日間労働とか、ワークシェアリングによって労働力確保ができるのでは・・・と思ったりします。
それにしても、企業がこぞって海外に移転し、国内に雇用機会の創出が生まれない現状をどうやって打破するのか?新卒者の就職内定率も低迷している。資源と食糧とエネルギーを全面的に輸入する国が、外国で頑張るのも企業体を潤す一つの経済活動ではあるが、やはり他国に負けない付加価値の高い製品開発の新技術こそが国内に労働を創出できるのではないか?大学には、そのための人材育成が求められる。質の保証も大切だが、今こそ実践教育、モノづくりを先導できるリーダー養成ではないと思える。
若者たちが未来に希望を持てる国、地球規模の課題を解決して世界に貢献できる国。日本をどうやって強くするのかを皆で考えねばならない。我々は日本の若者に何を残し、どうやって夢を託すのか?そのために何をなすべきか?日本は今後もモノづくりで生きてゆくしかないのか?今まで工学は次代の夢を漫画やアニメに求め、常に未来志向、技術開発の目標にしてきた。相変わらず鉄腕アトムや宮崎駿のアニメにそのヒントが潜んでいるのであろうか?