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No.99 「一大学教員のつぶやき」日本機械学会第89期編修理事
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はじめに東日本大震災で亡くなられた方々に心からお悔やみ申し上げるとともに,被災された方々にお見舞い申し上げたい.悪夢の3月11日から約5ヶ月たち,まだ課題山積ではあるものの,幾分落ち着きを取り戻しつつあるように見えるので,今月は大学の教育に関わる話題についてつぶやいてみたい.
私は大学に長年勤めているが,最近どんどん忙しくなっている気がする.あまりに忙しすぎて教育と研究に充てる時間が著しく少なくなったと思う.なぜこんなに忙しくなったのか.少し分析してみた.
私が大学を卒業し,大学院修士課程に入学した1972年当時,1講座のスタッフは教授1,助教授あるいは講師1,助手2,技官2,事務官1であった.今から思うとずいぶん恵まれていたように思う.学生の方はというと,同期で修士課程に入学したのは3名であり,その上の修士2年生も3名,卒業研究配属の4年生は確か7ないし8名程度であったと思う.この時代,学部生と大学院生との定員の比は3対1程度で,入学試験も厳しかったように記憶している.翻って現在の我が研究室はどうか.研究室の実質のスタッフは教授1,准教授1,助教1である.以前に比べて半数以下であり,特にサポートスタッフはほぼ全滅である.学生の方はというと,学部4年生が8名,前期課程1年が8名,前期課程2年が6名,そのほかに外国人研究生が1名である.学部学生の数はほとんど変わっていないが,大学院学生が倍以上に増加している.要するにサポートスタッフがいない中,より少ない教員で倍以上の大学院学生の面倒を見ていることになる.これが忙しくなった理由の一つに挙げられよう.
次に,教育と研究の重要なサポート組織である事務組織はどうか.1972年当時は工学部の中央事務と学科(現在のような大学科ではなく小学科)ごとに配置された事務室で総務,経理,教務の職務を分掌していた.学科事務室には事務官が複数配置され,総務,経理,教務のすべての仕事に携わり,研究室と中央事務との良きインターフェースの役割を果たしていた.現在はどうか.度重なる事務職員の定員削減により,事務職員は中央に集められ,小学科ごとにあった学科事務室は,統合された少数の専攻系事務室にまとめられた.しかも専攻系事務室の定員は極限まで削減されたため,総務と経理の仕事は中央に移管され,教務の仕事だけに携わるようになった.その結果どんなことが起こったのか.専攻系事務室でできなくなった仕事は各研究室が個別に直接中央事務部と連携して行うこととなり,その結果教員がしなければならない仕事が増加した.これも忙しくなった理由の一つに挙げられよう.
それでは教員が行うべき仕事量そのものは以前と比べてどうか.国立大学法人化を契機に仕事量が著しく増えたというのが率直な印象である.代表的なものとして大学評価システムが挙げられよう.学校教育法に基づく機関別認証評価と,国立大学法人法に基づく法人評価が義務づけられ,そのために行わなければならない業務が膨大なものとなっている.中期目標・中期計画・年度計画・実績報告の作成,現況調査票の作成(学部教育,大学院教育,研究),関連する資料収集や,外部評価の実施と報告書の作成等,以前にはなかった膨大な仕事が新たに生じた.これらに携わる教職員は非常に忙しくなり,大学全体は評価疲れという状態に陥っている.
教員の忙しさに関わるもう一つの大きな変化は,教育・研究費の配分方法である.経常的経費をまかなう運営費交付金がどんどん削られ,競争的資金が占める割合が大きくなっている.競争的資金を獲得しなければもはや教育も研究もできなくなりつつあるといってもよいであろう.そのため各大学では必死になって資金獲得のための努力をすることになるが,膨大な調書作成・資料収集のために,教職員は相当の時間を割くことになる.幸いにしてプロジェクトが採択されれば,今度はプロジェクトを推進するために大変な努力をすることになる.例えば大学の国際化のためのG30プロジェクトでは,カリキュラム作成,外国人教員採用,入学試験の実施,ガイダンス,そして講義をすべて英語で準備しなければならない.それらが教職員を忙しくし,大きな負担となることは言を俟たないであろう.
私の恩師の時代を考えると,もっと余裕があった気がする.教育と研究に十分な時間を割いておられたという印象がある.私自身毎週十分に時間を割いて個別指導していただいたし,先生自身も海外の専門書の翻訳出版や教科書も書いておられた.それに比べると今の私はどうか.とてもそのような指導はできていない.本当に学生に申し訳ない気持ちで一杯である.私の感触では,大学全入時代の現在の学生の方がより密着して指導する必要があるのに.
ここまで私の愚痴を聞いていただいて感謝申し上げる.単なる愚痴ですめばよいのだが.このままの状態で推移すると,日本の高等教育が大変なことになる気がする.大いに心配である.
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