日本のモノづくりは、永年にわたる諸先輩たちの並々ならぬ努力により、「品質」や「生産性」の点で世界を一歩リードしている。そして、そこから生み出される製品は、世界のお客様に満足していただいているのと同時に、わが国の経済にも大いに貢献している。しかし、世界の情勢はご存知の通り大きく変化しており、アセアンや東欧の各国、中国、インドなどが世界のモノづくりの中で大きく飛躍してきている。このような中でわが国のモノづくりは、現在ではリードを保っているものの、今後は更なる進化、発展をしていかなければ、グローバル競争に打ち勝つことはできない。
一方、産業革命以降、長い歴史を持つ「欧州のモノづくり」について考えて見ると、その歴史の中では米国や日本の出現、そして現在の東欧やアセアン、中国の台頭など、いろいろな取り巻く環境の変化にもかかわらず、したたかに存続、発展している多くの企業が多くある。これらの企業は、伝統に裏付けられた圧倒的な存在感、信頼感を有しており、そしてそれらはいわゆる「企業ブランド力」として定着しており、その強さは現在のユーロ高においても健在で、着実な成長を続けている。
日本のモノづくりの繁栄を今後とも永続的に深化、発展させていくことは大変重要なことであり、そのための一つとして我々の先輩格にあたる「欧州のモノづくり」を、今一度謙虚な姿勢で学ぶことも重要なことではないであろうか。
このような考えを以前から持っていたが、ちょうど昨年秋にある団体主催の欧州視察に参加する機会を得た。この調査団のテーマは、『企業ブランド力強化〜永遠に成長し続ける企業へ〜』というものであり、訪問した企業は、ドイツ、スイス、フランス、イタリアで生産を続けており、欧州や世界で一流ブランドとして着実に維持、発展している企業、工場であった。
欧州各社の訪問で、特に私の印象に残ったのは、意外に思われるかもかもしれないが、欧州モノづくりの現場における「人の重視」と「地域との密着」であった。
当初、欧州では生産現場の重視よりも、むしろ「高度な技術」や「華々しいブランド戦略」が主体ではないかと考えていた。もちろんそういった側面も、したたかにやっているが、それらに加えて各社とも「モノづくり」を大変重視していた。商品ブランドを守るのは「テクノロジー」とともに、それらを生産する「人、従業員」である、との認識を強く持っている。そして、教育やモラールアップ、さらには作業環境の改善などに大いに力を入れている。企業イメージや商品イメージの展開を社外PRのみならず、たとえば自社工場内の作業場所から良く見える壁面に、自社の製品、イメージ、ブランドロゴを大きく表示するなどして、「現場従業員への企業イメージの浸透」に気を使い、モノづくり作業者全員の意識向上を図っている点などは、我々日本企業にも大いに参考になることである。
もう一つは、各社とも「地域にきちんと根ざしている」と言うことである。別の言い方をすると「オラが町の誇りの会社、工場」であり、そこは地域の住民にとって「憧れの就職先、親戚中の誇り」となっているようである。たとえば水害にあったイタリアの工場では、社員以外の村人も総出で復興に協力してくれた、といったエピソードも誇らしげに聞かせてくれた。
このようなことは何か、とても「日本の工場」とよく似ているのでは、と親近感を覚えたのと同時に、ブランド構築においても、「モノづくり」は大変重要であり、その基本は同じではないかと再確認できたような気がした。
「モノづくり」とは具体的な価値の創造であり、「作った人」とそれを「使う人」との信頼関係が基本となっている。永続的に栄えるモノづくりでは、この信頼関係が最も重要な要素であり、この象徴つまり「作り手」と「使い手」の固い約束が企業ブランド、商品ブランドとなりそれらを維持、展開させていくことが重要である。
近年、モノづくりは低労務費の活用を目的に中国やアセアン各国への移転が進んでいるが、欧州各国内で頑張っている製造業の生き様なども参考にしながら、今後の日本のモノづくりのあり様を考えることは大変重要なことではないかと思う。
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