LastUpdate 2007.12.17

J S M E 談 話 室

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No.63 「学術雑誌とインパクトファクターについて」

日本機械学会第85期編修理事
藤川重雄(北海道大学大学院工学研究科機械宇宙工学専攻 教授)


 私たち研究者、そして私のように機械学会の和文論文集や英文ジャーナルの編修を7年、編修理事を2年近くやってきている者にとっては、学術雑誌のインパクトファクター(IF)は大変気になる数値である。IF値は、所属する組織の評価や組織内部での個人業績評価の指標となり、また個人の昇任や給料にも影響が及ぶ可能性を持っているからである。また、機械学会の年次大会等々で開催される編修理事と校閲委員の方々との校閲委員会議をとおして、多くの方々がIF値について不安を抱いておられることを知り、和文論文集や英文ジャーナルのIF値について機械学会として真剣に取り組んでいかなければならないと思っている。
 IF値は、ある学術雑誌に掲載された論文の一論文あたりの被引用回数の平均値で、IF値のでる直前2年間の論文から算出される数値である[1, 2]。例えば、ある雑誌の2006年のIF値は、2004年と2005年にその雑誌に掲載された全論文に対する、その後の1年間(2006年)の被引用回数の比である。したがって、最近の文献が集中的に引用される分野とそうでない分野ではIF値に差が出ること、IF値は最近の研究の流行をよく反映した指標ということができる。一方、IF値により一流誌と二・三流誌を区別できるともいわれている。一流誌ではよく引用している雑誌とよく引用される雑誌との間にIF値の大きな差はないのに対し、二・三流誌では両者のその差が大きいという調査結果が出ているからである[2]。
 IF値は気にすべきものなのだろうか、それとも気にしなくてもよいものなのだろうか。一研究者としては、自分で書いた論文の価値は自分で判断できること、またその論文がどのくらい世の中に対して影響を及ぼしたかについてはある程度判断できることから、投稿先をIF値の高い国際誌のみにそれほどこだわる必要はないとも考えられる。しかし、影響力については、和文誌よりも国際誌の方が大きいと考えられ、これはぜひ世界中の人に読んでいただきたいと思える論文は、ぜひ影響力のある国際誌に投稿すべきであろう。
 翻って、わたしたち機械学会の会員は、機械学会発行の和文論文集や英文ジャーナルにどのように対応すべきであろうか。現在、和文論文集は投稿数と掲載数の減少が止まらない傾向にあり、英文ジャーナルは2006年にWeb掲載に移行した後、幸いにも、これらは増加傾向にある。和文論文集は歴代編修理事や事務局のお骨折りによりIF値の対象となるようT.S.社(旧ISI社)に働きかけたことにより、2年後あたりにIF値が出る可能性がある。和文論文集は、存続・廃止の議論が出たことはあるが、そして今後も議論の対象になると思われるが、機械学会の長い歴史と伝統を考えるとこのまま存続するであろう。問題は国際誌としての英文ジャーナルである。
 英文ジャーナルは国際誌として名乗りを上げ、IF値を高めるためにさまざまな改革を行ってきた。改革は現在も進行中である。英文ジャーナルのIFを高める方法は良い原著論文や良いレビュー論文を掲載することに尽きる。機械学会の会員は日頃の研究成果を自分たちの英文ジャーナルに投稿すること、編修委員や校閲委員は良い論文を正しく評価すること、そして良い論文を学会賞等で顕彰することが重要であると思われる。また、困難なことではあるが、編修委員は各分野の最近の研究動向を分析して、適切な編修方針を見出すことも大切であろう。雑誌のIF値を高めているのは、掲載論文の内15%程度の論文であるといわれているからである[2]。ただし、やってはいけないことが一つある。それは、投稿者に自誌の引用を勧めることである。

参考文献
[1] 正橋直哉・勝木加奈子, ビブリオメトリックスによる研究評価, まてりあ, 第45巻, 第8号, (2006), pp.611-613.
[2] 山崎茂明, インパクトファクターを解き明かす, 2004年,(社)情報科学技術協会.


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