最近の大学の機械工学関係の学科および専攻名称の変化についてお気づきでしょうか。入口側の高校、出口側の会社からも分かりにくくなっているとの意見を頂くことが多いように思います。私の所属している東北大学がその典型かもしれませんが、学部では機械知能工学科、機械電子工学科などと呼ばれていた時期が10年ほどありました。その後、平成16年に機械知能・航空工学科と名称変更しました。他大学でも、現在、機械知能工学科、機械航空工学科、応用理工学科などの名称が使われています。それぞれの大学において特色を出そうと努力した結果でもあります。最近は、大学科制を採用するところが増え、名称も以前ほど多様化の傾向はなく、機械系をまとめた感じの学科名が増えてきつつあり、比較的落ち着いてきた感があります。
一昔前では、○○工学科というように大体2文字の漢字で表される学科が多かったのですが、機械系に限らず、最近はその字数が多くなってきております。その傾向は、例えば、大学科内のコース名や大学院の専攻名を見ればよく分かります。特に意識して調査したことはないのですが、一度各大学のウェブを覗いてみれば、その多様性あるいは特徴が出てきているのではないでしょうか。反面、外から見た時に内容が分かりにくくなっていることも否めません。
そこで、機械工学とは一体何であろうかと考える訳です。機械とは文字通りmachineですが、大学の機械工学分野で何を教えているのであろうかと問えば、一般の多くの方は機械(machine)を対象としていると思われるのではないでしょうか。間違いではないのですが、外れている面も多いといわざるを得ません。機械工学を、英語ではmachine engineeringとはいわない訳で、mechanical engineeringです。mechanical engineeringを明治時代に和訳した際に間違えたのではないかと思っています。いつか調べようと思って未だにチェックできていません。mechanical engineeringとはmechanics(力学)に基づいたengineeringであってmachineではなかったはずです。
機械工学科に所属した人であれば機械工学の基礎は4力学、すなわち、機械力学、材料力学、熱力学、流体力学である、ということを直に思い浮かべると思います。このことは機械工学とは、力学に基礎をおいた学問大系であり、分野・領域であると明確にいうことができます。
機械工学領域の最近の研究分野を見ると、従来の機械工学の中心的対象であった自動車、航空機、列車、船舶を初めとする輸送機に関する領域からロボット、あるいは生物・医用工学まで、実に幅広い領域をカバーしています。しかしながら、その基礎にあるのは4力学であるといえます。4力学を中心に電子、化学、生物学、医学などを貪欲に取り込んできているのが現状のようです。これは、我が国に限ったことではなく、欧米諸国においても然りであり、機械工学分野のもつ本質のようです。
本日本機械学会の中にある20部門と2専門会議の幅の広さを見ても、同様のことがいえます。今後とも多くの領域を取り込んでいく貪欲さをもって機械工学が発展していくことを願ってやみません。
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