LastUpdate 2007.3.16

J S M E 談 話 室

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JSME談話室「き・か・い」は、気軽な話題を集めて提供するコラム欄です。
本会理事が交代で一年間を通して執筆します。

No.54 「私のガジェット生活(情報を携帯する)」

日本機械学会第84期広報理事
菱田公一(慶應義塾大学 理工学部 教授)


ガジェット(Gadget)とは:小さくて便利な機械装置,便利な小道具を意味するものであるが,パソコンの"おたく"の世界では,小さな情報端末のことを事でもある.
筆者は83,84期の機械学会の広報・情報担当理事として,主にIT業務の推進を中心に仕事をさせていただいている.このコラムの内容を考えたときに,自分自身の情報をこれまでどのように扱ってきたのかを一度まとめてみようと思った次第である.従って,内容は筆者の独断と偏見に満ちている部分があることをお許し願いたい.

便利な小物の典型的なものは写真に示すような,文房具のガジェットである.はさみ,ホッチキス,メジャー,ねじ回し,磁石,など多くのものが詰め込まれている.旅行などに携帯するとさぞかし便利そうに思えるので,すぐに飛びついて購入してしまった.ところが実際に使ってみると,はさみは切れるけど少々使いにくい,ホッチキスは枚数が限られるなど,意外に制約が多いことに気がつく."帯に短かし,たすきに長がし"なのである.ここには多機能化と操作性の両方の工学的な問題が存在する.

さて,広報情報の仕事ではIT業務に携わってきたが,数年前より大学でのITC(インフォーメーション・テクノロジー・センター)の仕事にも従事し,ITを利用した業務の効率化,セキュリティーの確保などの課題に取り組んできたが,日々の仕事で,その情報をいかに携帯していくかは,筆者にとっては非常に重要な課題と同時に,自分自身の趣味的な満足を得るものでもあった.元々事の発端は1980年代に8ビットのパソコンが普及した時代に,論文作成にワープロが使われはじめ,どこにいても文書が入力,校正できればと強く思ったことにある.それではこの20年ほどを振り返ってみることにする.

図は筆者の小型情報端末の使用歴である.大学の助手になった頃は米国ではIBM-PCが国内ではNECのPC8801が主流であった.そんな中で1983年にPC8201が発売されて,即座に購入した.A4の大きさで,1.5kg,乾電池駆動であった.内部は8ビットのCPUでハンドヘルドコンピュータと称されていた.中身のソフトはBasicのみで,アプリケーションは自作である.これを駆使して,英文の簡易ワープロを作成した.80行*25行のディスプレーもほどほどの使い心地で,"おっ!これなんですか?"と言われると自慢げに説明をしていた.そして,この後,筆者をガジェット好きにしたのがHP-LX200である.IBM-PC ATの互換機で,640x200ドットのモノクロ液晶画面,CPU性能は前述のPC8201と同様であるが,手のひらに載るサイズ,OSはMS-DOSで,日本語化もなされ,日本語,英語のワープロもマニア同士で開発が行われ,さらに,スケジュール管理も行えたのである.当時は今のようなインターネットは普及しておらす,大学間のネットーワークが主体で,ニフティの電話回線によるパソコン通信が活発であった時代で,このHP-200LXでモデム通信を行って,メールを読み始めていた.とは言っても,有線のケーブル接続である.さらに出張などの際はこれを携帯し,原稿を入力していた.当時はCPUが16bit 8086に移行するときで,ノートパソコン等まだ市販されてこない時代で,東芝はダイナブック(ラップトップコンピュータ)を出し始めた頃である.重量も3-4kgあり,それでも可搬性には便利さを感じていた.

1990年代後半にはいると,パソコンもWindowsのOSがリリースされ,MS-DOSの時代に比べ格段に使いやすくなった.この頃よりモバイルノートが各社より販売され,1-2kgのパソコンを持ち歩く時代となる.筆者もレッツノートの初代のパソコンを購入した.それでも1.5kgは重いと感じている最中に,WindowsCEが発表され,1997年にカシオのハンドヘルドPCに移行した.携帯電話を接続し,メールを外出先で読むなどして,効率よく仕事をこなし始めた時代である.それから,WindowsCEもバージョンアップが続き,必然的に新しいものへの買い換えが続いた,HP社性のジョルナダはカラー液晶となり,スケジューラーも充実してきた.振り返ってみると,2002年から手書きの手帳を持たなくなった.母艦のデスクトップパソコンにスケジュールを入力し,PDA(携帯端末)と同期をする.外出先で入力すると自動的に母艦が更新される.キーボードの使いやすさを求めて,やや大きめのNECのモバイルギアも使ってみた.500g強と若干重いものの,原稿を打つには適したものだったが,ポケットには大きすぎた.その後,タッチパネル式のPDAが出始め,HP,DOCOMOそしてiPoqと変更してきた.ここでPDAのメリットを掲げると,スケジュール,アドレス帳が携帯できる.さらに辞書などのメモリーの容量にもよるが,質量が増えることなく情報を携帯することができる.思いついたときに検索することが可能など便利な機能が盛りだくさんである.しかし危険も伴うこともある.故障した際にはデータが消えてしまう.バックアップは数カ所にすることになり,煩雑さも増すことになる.
 最近2年間はザウルスの使い続けている.キーボードのよる入力のし易さは格別である.スケジュール管理,アドレス帳,電子辞書(英和,和英,国語辞書)などたっぷり入る.また,PDFやワード,エクセルなどのファイルも扱える.(但し本格的な作業はやらない方が良い,餅屋は餅屋の役割分担が必要と感じている).メモリーカードも要領も飛躍的に増えGバイト単位になってきたお陰で,殆どの情報をポケットに入れてられる環境になってきている.
 ここに来て,ガジェット品の買い換えをする気がしなくなってきた.その理由として,情報の携帯と作業のし易さについての両者のバランスが大事であると思うようになってきた.2006-7年にかけては携帯電話とPDAが融合した製品が出始めてきた.米国ではビジネスマンの殆どが使用している.昨年,ニューヨークに出張した際に街角でよく見かけた.リアルタイムのメールや決済など迅速な対応には便利であろう.筆者も大変に興味があり,何度か購入しようと思ったが,なぜか踏みとどまっている.少し年をとってきたことも影響しているかもしれない(老眼で小さいものが見にくくなってきた)が,何もかも詰め込んでしまうと不便さも出てくることに気がつき始めたのである.IT業務に何もかも詰め込むと同様にそれに縛られ,不便さが露呈してくる.作業には適切な振り分けが必要である.筆者のガジェット生活もそのステージに達したようである.

写真 ガジェット文具の一例
写真 ガジェット文具の一例



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