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No.50 「趣味とネットワーク」日本機械学会第84期財務理事
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26年程前から、人に趣味を聞かれると「パソコン」と答えて来た。ちなみに、これを書いているノートブックは私の31台目のパソコンである。一時は家に26台のパソコンを持っていた。こんな話をすると「そんなに沢山持っていて何をするのですか?」と聞かれる。「仕事が機械なので、趣味は電気なのです」などと答えていた。PC8001用にアナログスイッチアレイを自作してポータサウンドを自動演奏してみたり、8色表示だったPC9801に1680万色のフルカラーボードをつけてCでマウスのドライバも書いてみたり、DSPボードで音声にリアルタイムFFTをかけ、その解析可能周波数を上げようと機械語を最適化したりして遊んでいた。この孤独な趣味をネットが一変させた。12年も前の話であるが、会社にフィンランド製のグループウェアが導入され、オアシスやパソコンを千数百台ぶら下げたイントラネットが実現し、Eメールだけでなくフォーラムまで稼動したのである。私が開設した「パソコン利用技術会議室」は、真面目な会議室が軒並み開店休業に陥る中で、一躍大人気フォーラムとなった。コピープロテクトを解析する事のほうが中身のゲームよりも楽しいだとか、DOS/Vのバスに98用のボードを接続する事に成功しただとか、十人ほどの常連が好き放題の内容についてアップするのであるが、何も書かないで読むだけの通称ROM(リードオンリーメンバー)が数百人に達しているという実績データが出た。詳細は理解不能ながら、仕事とは全く関係ない話なので、毎朝、席に着いたときにこれを読むと癒し効果があったらしい。 相当マニアックな趣味ではあるが、仕事に活かせた経験も何度かある。某研究部の部長になって間もなく10億円もかかった部最大の実験設備が故障した。ドイツのベンチャーが開発した装置だったこともあり、市販のPC用マザーボードが操作盤に内蔵されていてGUIが作動していた。ところが、小さなCPU冷却ファンが壊れただけで熱暴走が始まり、マザーボードが焼損して一切の操作が出来なくなってしまったのである。ドイツからは1500万円もかかる新型操作系への移行がリコメンドされて来た。金額も問題であるが、そんな悠長な事をしていたら最重要顧客との共研スケジュールが大幅に遅延してしまい話にならない。運良く当時私の家に、正に同じシリーズの一世代前と一世代後のマザーボードで組んだ自製パソコンがあった。そのうちの1台を会社に貸す事にし、数日後には外付けでの復旧に成功した。その後、適合するマザーボードを秋葉原で探して来て操作盤に組込み、一件落着となったのである。増設RS232Cを使って上位ミニコンと接続されていたため、I/OポートがGDP等に殆ど食いつぶされていない原始的な設計のマザーボードが必要であった。 最近の趣味の話に移ろう。近年のパソコンは64ビット化やデュアルコア化ばかりが話題であまり面白味がないので、二年半ほど前にデジカメに転向した。最新の8台目の一眼レフは通算15台目のデジカメなのである。これまた、「そんなに沢山持っていて何をするのですか?」と聞かれる。「インターネットに色々とアップするのです」と答えることにしている。デジタル写真はフィルム写真とは本質的に別の物なのである。フィルム時代にはプロだけに許されていた同じ写真を何枚も撮って良い物を選ぶ事がコストゼロで出来るし、高速なビュウアーでめくれば、撮影現場を何度でも再体験でき、新しい発見もある。5万枚ほどの画像のおおよその保存場所を覚えておいて、画像掲示板の話題に合わせてアップしていくのである。管理人や常連メンバーがおだててくれるので怪しい腕前にも自信が沸いてしまう。更に商品比較サイトにスレッドをたて、自分のホームページやアルバム、ブログにリンクを張っておけば、アクセスカウントが見る見るあがって来る。最高瞬間記録は正式発売の前日に新型デジカメを入手して性能比較画像をアップしていった時の1万カウント/週である。そうこうして、グーグルの検索結果の一番上の行に自分のページが表示されたりすると悪い気はしない。 先日米国機械学会の国際年次総会に出席する機会を得た。キーノートスピーチをしたのはワシントンポストの記者で、テーマはなんと彼の著書の「グーグルストーリー」であった。創業8年にして社員数は今やなんと9千人。そのグーグルが、実際に検索をかけているのはインターネット上のページそのものではなく、実はそのコピーなのだという。別途ソースの情報によれば、極限までカスタマイズされたパソコンを30数万台社内に設置して世界中をクロールし、80億のページをインデックス付でキャッシュしているらしい。私のページをチェックして見たが、主要なページは10日以内にキャッシュされていたものの、半年前には一番上の行に出て来ていたのにインデックスから外されキャッシュされていないページがあった。油断もスキもない。こうなるとランキングにも注意が必要である。いやはや、個人の趣味の世界も、楽しくもややこしい時代にはいってきたものではないか。 |