LastUpdate 2006.8.22

J S M E 談 話 室

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JSME談話室「き・か・い」は、気軽な話題を集めて提供するコラム欄です。
本会理事が交代で一年間を通して執筆します。


No.47 「今時の学生は・今時の教師は」

日本機械学会第84期庶務理事
森下 信(横浜国立大学 教授)



 「今時の学生は・・・」と始まる小言を耳にしてから久しい.大抵は学生の悪 口を指摘する言葉,欠点を指摘する言葉がこれに続く.比較対象としてあげられるのは一昔前の学生像であるが,しかし,どこまでが真実であろうか.昔の気概 のあった学生にとっては,これまたある意味では迷惑な話かもしれない.
 現代の学生には,彼らの行動を擁護しきれない部分も多々あり,安易に迎合するつもりはない.僕が知っている「昔の学生」は,学生の本分をある程度承知し ており,よく本を読んだ.よく友人と議論した.よく酒を飲んだ.また,よく遊んだ.本を読んでいる時以外は仲間に囲まれていた.今の学生をみると,暇さえ あればコンピュータに向かい,暇さえあれば漫画を読み(一般的には漫画は本には数えない),しかしそれ以外は実情がよくつかめない.研究室で隣に座ってい る学生との話題もつきあい程度にすぎない.相手がいなくてもできることを毎日繰り返しているようにみえる.その意味ではなかなか臆病であり,またドライで ある.コンピュータで何をしているのかと後ろからさり気なく覗けば,インターネットでホームページやブログを読んだり,流行の話題を探している.誰が書い たのかも知らないし,単に作り話かもしれないとは疑わないのだろうか.ただ時間が過ぎればよいのだろうか.過ぎてみて初めてわかることであるが,若い時の 時間は安易に過ごしては本当にもったいない.
 これが現代の若者気質だと言えばそれまでであるが,彼らが社会にでてからが思い遣られる.社会に適合できないのでは,と気を揉んでいる.現に,会社の仕 事に慣れずに,同僚との付き合い方がわからずに,一つの企業で働くことが長続きしない学生も少なからずいるようである.大学にいる教員は個人のネットワー ク以外にその手の情報は得る由もない.しかし,知ったからといってできることは限られている.企業の教育担当者はさぞかしご苦労が多いと思う.我々は学部 学生なら1年間,修士課程の学生ならばたったの3年間の付き合いですむ場合もあるからである.原因はどこに求めればよいのだろうか.高等学校だろうか,中 学校だろうか,小学校だろうか.恐らくは,家庭環境である.しかし,現実に目の前にいる学生の気質変化を含めて家庭環境のせいにしたところで,何の解決に もならない.
 僕の研究室には,卒業してもたびたび研究室に顔を出してくれるありがたい学生が数多くいる.普段の土曜日,ゴールデンウィークの最中,お盆の前後に研究 室にきてくれるので,このときは研究室の人口密度が増す.在学生にあれやこれやと教えてくれる卒業生もいる.もしかすると頼りない教師の助けになるために 来てくれているのかもしれない.このような皆さんとは対等に一生の付き合いになればいいと願っている.僕が何を彼らに与えられるかは皆目わからないが.
 「今時の教師は・・・,今時の研究者は・・・」は自分がその立場であるためか,なかなか聞くことがない.しかし間違いなく,今時の教師は威厳がない.今 時の教師は知識の幅も狭く,専門家という衣を着て,社会から目を背けているようにもみえる.学生に対しても厳しい態度で臨めない.教師と学生は「おともだ ち」ではない.教師は学生との距離を保つことに四苦八苦しているようにみえる.対して,僕の指導教官は怖かった.穏和になったといわれる今でも,人が変 わったといわれる今でも,面と向かって話すのが怖い.もちろん,この怖さは威厳からくるもので,暴力的なものなど微塵もない.この怖さを身につけることが できるだろうか.
 今時の研究者は,自身の研究に自信がないように見えてならない.本当に自分の頭で考えてアイデアを生み出しているのだろうか.情報ネットワークが発達し たために,多くの情報が体全体から自然と入ってくる.よほど注意しなければ,自分で考えたことと他人が考えたことの区別すらできなくなる.研究論文の盗作 や捏造が新聞記事になることも多い.自分は大丈夫だろうか.世の中は次第に住みにくくなっているのか・・・

と,ここまで考えていたら目が覚めた.何かコラムに投稿するようにいわれて考えているうちに,うたた寝をしていたようである.

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