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本会理事が交代で一年間を通して執筆します。


No.37 「靴に合わせて足を削る!?」

日本機械学会第83期副会長
有信 睦弘(株式会社 東芝)


 

共同のお客が資金を出して米国の会社に委託した仕事を、競合のX社と共同で評価するという体制で取組んだことがありました。最後の結果が出るまでに様々な難問に苦しみましたが、それを解決する過程では様々な発見があり、研究者としては一番楽しい時期でした。そうは言っても次々に出てくる難問と、それを解決して得られる結果が資金提供をしてくれているお客の期待に沿わないなど難しい局面が頻発。そんなあるとき、X社側の責任者であったY課長が英語で言った絶妙な一言が「靴に合わせて足を削る」。シンデレラを思い起こした方もあるかもしれませんが、この言葉は'Cut the suit fit the body'を言い換えたもの。流石に体を削るのは気がひけたということだったのでしょう。'Cut the feet fit the shoes'という言葉は深く心に残りました。
30台の半ばに研究所の企画部門に移ったときのことです。それまでと違ってデスクワークが主体となったためか、はいていたズボンがだんだんきつくなってきました。いよいよ中年太りが始まったかと半ば当然の事態として納得していました。そんな時、悪い先輩の罠に嵌り、5月の連休に1日おきに3回ゴルフに行ったことがあります。終わってみると何故か体の調子が良い。これは運動が体に良いに違いないと当たり前のことを実感し、季節がよかったこともあってジョギングを始めました。根がいい加減な性格なので毎日は続かない。夜8時前に酒を飲まずに帰宅したときに限り走ると決めました。しばらくするときつくなっていたズボンが全く気にならなくなっているではありませんか。中年太りは不可避ではないのです。
現在は走ることもままならず、つまり走る条件を満たせることが殆どなく、やむを得ずスポーツクラブに入ることにしました。ジョギングを始めた時に初期投資が継続の条件と知ったからです。同じ頃、自分の体にしっくり来るブランドのスーツを発見しました。以後は殆ど同じブランドのスーツを買っていますが、今度は体型を変えるわけには行かなくなってしまいました。買い揃えたスーツが着られなくなるのは大損害だからです。結局、スポーツクラブは'Cut the body fit the suit'の場になってしまいました。スポーツクラブに行くと、年齢によって体型が変わるという[常識]は嘘だということが分かります。
'Cut the suit fit the body'という「常識」をひっくり返して見せたY課長の言葉が、当たり前のこととして日々受け入れている事柄もよくよく考えてみたり、試してみたりすると決して当たり前ではないということを示してくれたように思えます。日々疑うことなく受け入れている様々な「常識」をひっくり返すことが新しい発見や破壊的イノベーションといわれているものに結びつくのです。全ての「常識」は疑いうる。

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Last Update 2005.10.25

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