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本会理事が交代で一年間を通して執筆します。


No.36 「ウラギンシジミ」

日本機械学会第83期編修理事
長南征二(東北大学)


 小学校の頃は名うての悪童で、およそ悪行と名の付くものはマスターしておりました。朝になればお腹が痛いといっては良く学校を休んでおりましたが、1校時目が終わる頃になればさすがに寝ても居れなくなり、虫取り網を担いでは近くの山や公園にトンボ・チョウを採りに出かけておりました。網を担いで戻って来るたびに母親にずる休みがばれ、えらく引っ叩かれましたが、お陰で腕を使っての防御は人よりも巧かったと思います。悪行の善し悪しは別として、引きこもりでなかったのが何よりだったと思っております。昔取った杵柄で、この歳になっても目の前を飛ぶチョウが何であるか、ものによっては雌雄も分かります。それぞれの蝶に思い出があり、羽根を休めて止まっているチョウを眺めていると、その模様のうえに昔の思い出がさざ波のように重なってきます。
 我が家は仙台市中心部から20km北にある泉ヶ岳の東山麓、泉区紫山という所にあります。2003年秋のことですが、庭の生垣のレッドロビンを剪定しておりましたら、見慣れないシジミチョウが飛んできました。白い羽根をきらきらと金属光に光らせ、辺りを敏捷に飛び回わっているうちに近くの生垣の中に消えました。今までに見たことのないチョウでしたが、多分あのチョウではという閃きがありました。早速、家に駆け込んで納戸から捕虫網を取って来ましたが、すでに飛び去ったあとでした。その後、週末に庭の手入れをしている時に何度かそのチョウが飛んで来ましたが、その都度取り逃がしておりました。そして10月のある日、やっと網に収めることができました。閃きのとおり、それはウラギンシジミでした。このチョウは南方系のチョウで仙台には居ないはずです。上手く行ったら新聞種になるかもと思いましたが、とりあえずインターネットで情報検索したところ、1999年10月4日の地元の河北新報に、"亘理北限のチョウ「ウラギンシジミ」仙台でも確認"と云う記事のあることが分かりました。

http://ha5.seikyou.ne.jp/home/sohta/SINBUN4.GIF

 亘理は仙台から30km南の福島県堺に近い町です。少し出おくれて新聞種にはなりませんでしたが、亘理町から50km北の仙台市北西部で採取されたことは新しい情報かもしれません。その後、雌雄あわせて数匹のウラギンシジミを庭で捕まえました。いずれも、レッドロビンの枝先の虫穴から漏れた樹液をなめに飛来したものです。このチョウはシジミチョウとしては大型のもので、雌雄とも翅裏は一面の銀灰色ですが、雄の上下翅表面は茶色の下地に橙色の斑紋、雌は薄い青灰色の斑紋があります。

http://aoki2.si.gunma-u.ac.jp/youtyuu/HTMLs/uragin-sijimi.html

 食草はマメ科植物の花実です。成虫で越冬しますので春にも観察されるはずですが、ここ紫山では春は一度しか見かけたことがありません。
このところ海水温の上昇や永久凍土溶解、氷河後退など、地球温暖化の話題は尽きません。草葉の陰の虫の世界にも、温暖化の波が少しずつ押し寄せているようです。

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Last Update 2005.9.13

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