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JSME談話室「き・か・い」は、気軽な話題を集めて提供するコラム欄です。
本会理事が交代で一年間を通して執筆します。


No.27 ブラックボックス化と理科離れ

日本機械学会第82期財務理事
斎藤昭則((株)豊田中央研究所取締役) 


 本談話室の趣旨「気軽な話題を集めて提供するコラム欄」に沿いまして,本当に「気軽な話題」で失礼します.
 家の近くにパソコンや音響機器を主に扱っているリサイクルショップがあります.リサイクル品といっても結構最新型のものもあり,それはそれで値段も高いのですが,ジャンク品というのがあって二束三文の値段がついています.これらのジャンク品には動作保証がなく,CDプレーヤーには「CD読み込めませんでした」などと故障の状態を書いた紙が貼られています.こんな機器を見ると「修理の虫」が騒ぎます.さっそく買ってきて修理に挑みます.「CD読み込めませんでした」の原因を突きとめ,手元のCDを入れて正常に動作しだした時の充実した気分はなかなか良いものです.ただし,ガラクタが増え,自分の居場所は確実に狭くなります.
 「再生しません」LDプレーヤーがジャンク品で出ていましたので,これを買ってきて修理しました.動くようになったと確信した後で愕然としました.今やLDなるものがどこで売っているのか見当もつかなかったからです.幸い同じリサイクルショップでこれまたジャンク品のLDを見つけましたので,これで動作を確認することができました.ただし,その後LDを再生する機会はほとんどなくCDプレーヤーとしてたまに使っていますが,何とも場所をとる代物です.
 パソコンの周辺機器で,今ではほとんど使われなくなったものもジャンク品コーナーに無造作に積まれています.修理したとしても現在使っているパソコンの能力を増強できるわけではないのですが,動きを確認したくなりつい買い求めてしまいます.動きが少々おかしなものは多少の調整をしますが,そのままで正常に作動するものがほとんどです.カセット式の硬質磁気ディスク装置,フロッピィディスク式の大容量(当時は)記憶装置,独自の光書込み・読出し式ディスク装置,光磁気ディスク装置など,もちろん今でも使われている方はいるとは思いますが,一般にはほとんど使われなくなりメディアもなかなか手に入らなくなってしまいました.これらの機器を手に取って動きを見ていますと,当時開発で汗を流したであろう多くの技術者の苦労が偲ばれます.どのようにして原理を思いついたのだろう,よくぞここまでコンパクトに組上げて市販したものだ,と賞賛せざるを得ません.情報をより多く,より早く,そして小さな容積の中に保存する機器を夢見て日夜努力されたことだろうと思います.
 ジャンク品の中には結局修理できないものもあります.そんな時には最後まで分解してゴミとして出さざるを得ませんが,分解の過程で機器設計者の意図が読み取れて,これまた興味を引きます.概してアメリカ製のものはネジなどをあまり使わず,プラスチックの筐体自身が最後に「パチン」と組み合わされて完成するようになっているものが多いように思われます.国産品でも開発当初の物はずいぶん手をかけた設計になっていて取り外すネジも多いようですが,時を重ねるにつれてアメリカ式の簡便設計になって行くように思います.生産効率を考えれば当然と言えますが,最初の設計品は開発者の意気込みが伝わってくるようで捨てがたいものがあります.
 ところが,最近は組み付けに特殊ネジが使われるようになり,なかなか分解ができなくなっていたり,さらに進んで,分解すると重要部品は壊れてしまう設計になっているものもあるようです.このような設計は,真似をされる,あるいは素人が勝手に中を開けて触った結果思わぬ事故につながる,などの防止策であることは言うまでもないのですが,修理マニアとしては残念です.だいぶ前から子供達の理科離れが叫ばれていますが,多くの機器が分解不能になりブラックボックス化したことも原因の一つではないかと思っています.自分や息子の子供時代を振り返ってみますと,置時計や携帯ラジオを分解して元に戻したものの,ネジが数本残っていたというようなシーンが目に浮かびます.
 私自身はこれまで自動車エンジン関係の研究・開発に携わってきました.エンジンの燃料供給に気化器が使われていた時代はエンジンの調子が悪いと気化器か点火栓をいじって何とか直した覚えがありますが,現在の電子制御式燃料噴射装置になってからはとてもいじれる状態ではなくなりました.電子制御式燃料噴射装置の制御装置はまさに黒く塗られた箱です.このような自動車部品に限らず,多くの工業製品がブラックボックス化の方向に向かっています.一方,書店には工業製品の内部を詳細な図で表現した「超図解何とか」という本が並べられていて,結構人気があるということです.しかし,所詮,絵に描いたものは絵でしかありません.実物を見て,触ることによって実感が湧いてくるものだろうと思っています.見て,触ることによって,自分だったら,これはこうしたい,と考えるきっかけになるのではないかと思います.
 恩師棚沢泰先生にご指導を受けていた時,「部品は捨てずに,いつも見えるところに置いて,いろいろ想像しなさい.」と言われたことを思い出します.最近は日本の博物館でも展示物に触れたり,動かしたりできるようになっている所があるようです.機械学会でも「機械分解フェスタ」とでも銘打って,一般の方々や子供達も参加していただいて身近な機器を分解し,再組み付けをする催しができないものかと考えるこの頃です.

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Last Update 2004.12.16

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