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No.20 『まじめさと研究熱心さ

大島まり(東京大学生産技術研究所) 


 先日,ローザンヌ国際バレエコンクールで日本人女性一人と男性二人の計三人がスカラシップ賞などの賞を受賞したと,夕刊の隅っこに報じられていた.日本機械学会の会員の皆様はほとんどが男性であるから,バレエには興味がないかもしれないが,ローザンヌ国際バレエコンクールといえば若手ダンサーの登竜門である.世界中の精鋭が集まるトップクラスのコンクールであり,このコンクールから世界的に有名になったダンサーは数知れない.そのような意味から日本人三人の受賞は快挙といえる.世界で活躍している若者は野球やサッカーだけではなく,このように芸術の分野,特に容姿の上で西欧人と比較して不利であるバレエの分野でも活躍しているということは大変喜ばしいことである.
 バレエは無形芸術であり,そもそもの発祥はフランスの太陽王ルイ14世が結成した舞踏グループからと言われている.ルイ14世自身もバレエを踊っていたとのことで,なかなかの踊り手だったそうである.現在,フランスではパリオペラ座バレエ団がその伝統を引き継いでいる.そして,18世紀から19世紀にはヨーロッパ各地に普及し,日本には明治の開国とともに輸入された.歴史的にみても日本は後発であり,日本におけるバレエの歴史は西欧諸国と比較しても浅い.また,バレエはステージで踊るものだから,やはり見栄えが肝心である.最近の日本人は手足が長くなってきているというものの,う〜ん,客観的に見ても,どうしても顔立ちやスタイルの上で西欧人に劣ってしまう.残念ながら,こればっかりは生まれもったものだから致し方がない.
 このように日本人にとって不利な点ばっかりであるが,英国ロイヤルバレエ団のプリシンパルである吉田都さんのように世界的に活躍しているダンサーがいるし,昔は小学生の学芸会のようでとても見る気になれかなった日本のバレエ団も質が確実に向上して,なかなかのものである.また,世界的に活躍する若手の振り付け家も誕生しているし,最近の日本のバレエも捨てたものではない.
 では100年足らずの歴史の間でここまで成長した日本のバレエの強さはなんなのだろうかと考えてみると,まじめさと研究熱心さではないだろうか.各国をステレオタイプ化してみるのは好きではないが,やはり日本人はまじめである.日本での踊りのレッスンは,皆真剣である.町の普通のバレエ教室ですら,皆バレエのレオタードを着て,先生の言う通りに動こうとし,必死についてくる.ニューヨークに行ったときに,興味半分にブロードウェーでバレエのレッスンを受けた時があった.服装はまちまち,ペースも最低のラインがあるものの皆まちまちである.日本のレッスン風景に見られるまじめさはない.余談になるが,レッスンを受けている人のお財布が盗まれるという事件もあった.ニューヨークらしいといえば,とってもニューヨークである.(盗まれた人には気の毒だったが,どくつき方がとってもおもしろくて,悪いとは思いつつ笑ってしまった.日本ではそのへんに貴重品を入れたかばんを置いてレッスンしているが,盗まれたことがない.やはり信じられないくらい治安が良いのである.)
 確かにたかが趣味の踊りなのだから,そんなにまじめになることもないのに思うこともあるが,そこがまた日本人の良さなのだと思う.吉田都さんもインタビューで言っていたが,顔や容姿が劣る分,いかにきれいに見えるか踊り方を研究しているといっていた.世界一流ともなると,その努力も並大抵ではないであろう.でも,大なり小なり,日本人の気質としてこのような姿勢を皆持っていて,このような姿勢をもって日本の発展は支えられてきたのだと思う.
 最近ではまじめさと研究熱心さは格好よくなく,ネガティブなイメージがある.一方,日本文化は最近,クールで洗練されているとの世界的評価である.でも,実はそういわれて着目されているのは,アニメなどのオタクものである.ある意味,まじめさと研究熱心さを極めたものが評価されているともいえるのではないかと思う.
 やはり長所を伸ばしていくのが,一番.日本人として世界的プリマ・バレリーナになるのは,今からでは無理もしれないが,せめて世界的に評価される研究ができるよう,まじめに研究熱心でやっていこう.

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Last Update 2004.3.8

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