企業の技術者にとって、最先端の技術を吸収したり、自分が持っていない基礎技術を勉強して得意領域を広げることは極めて重要である。それをサポートするために、日本機会学会でも技術者の継続教育のための仕組み作りや事業を積極的に行っている。機械系技術を中心に広い学際領域をカバーし、また産学官から成る会員4万人のパワーを有する日本機械学会が継続教育に果たしている役割は大きい。
一方、勉強する企業の技術者にとっては、「勉強する素材や機会はあるのだが、なにしろ時間がない」、というのが実感だと思う。以下の文章は、「自分の能力向上のための時間を作る」というテーマで、私が会社の若い人たちに向けて事業所新聞に書いたものである。私自身もなかなか計画通りに実行できず、毎年、年末のこの時期になると今年の目標未達を反省し、また来年の計画を立てて奮起を誓っている。皆様のご意見をいただければ幸いである。
「最近やけに忙しい、将来の製品開発の構想をじっくり練ったり、自分のための勉強をしたりする時間がない」と感じている人が多いのではないだろうか。会議や資料作りに振り回されて、自分を磨く時間を作れないでいると、自分の体から能力のエキスが次第に溶け出し、自分の存在価値が無くなってしまうのではないかと心細くなる。良い仕事をするためにも、また良い仕事を通して充実した人生を送るためにも、何としても自分の能力向上のための時間を作り出さなければならない。
表1 年間休日(2004年)
休日 |
祝 日 |
15日 |
会社の休み
(創立記念日など) |
8日 |
土曜・日曜 |
104日 |
合 計(有給休暇を除く) |
127日 |
就業日数 |
239日 |
|
自由な時間を生み出す大口原資は休日にある。年間の休日をカレンダーで数えてみると、何と127日もあり(表1)、これに有給休暇16日(組合員実績)を加えると143日にもなる。
ところが多くの人にとっては「家に仕事を持ち帰ることも多いし、プライベートも超多忙で、とても年間日数の39%も休んでいる実感はない」というのが正直な感想ではないだろうか。
しかし、それではいけない。もっと自分の時間をコントロールすべきである。休日の使い方は完全に自分の意志で決められるのである。有給休暇はカウントせず、休日127日を使って、一日8時間、みっちり何かに打ち込むことができる時間を計算すると、8(時間)×127
(日) ≒約1,000 (時間)である。この年間1,000時間という時間は凄い。10年間で1万時間にもなるのである。私はこれを『可処分時間』と呼んでいる。この使い方次第で人生が変わると言っても過言ではないだろう。
表2 1,000時間の投資先
① |
将来への投資 |
300時間 |
② |
仕事の下拵え |
300時間 |
③ |
健康への投資 |
250時間 |
④ |
家族・趣味など |
150時間 |
合 計 |
1,000時間 |
|
この可処分時間1,000時間を自分に与えられた貴重な手持ち資金であると考えて、私は、正月に「今年の1,000時間の投資先」のメモを作ることにしている。
表2は2003年の私の計画である。自分の投資先を明らかにするのは、恥をさらすようなものであるが、ほんの一例としてご覧いただきたい。見栄もあり若干修正してあるから、多少割り引いて眺めていただければ有難い。①「将来への投資」の重点目標は事業経営に関する勉強と語学力強化にした。②の「仕事の下拵え(したごしらえ)」は極力、平日に終えてしまいたい項目であるが、自分の力不足や段取りの悪さが原因のことも多い。もちろん、下拵えそのものが将来への投資になり、それに熱中することが自分の能力向上につながることも多い。大いに努力して、自分の仕事をそのような創造的な内容に変えていきたいものだ。
③の「健康への投資」、④の「家族・趣味など」にもバランスよく、有効に時間を使うことも極めて重要である。人生にはいろいろなフェーズがあり、開発が胸突き八丁の時期、子育てに時間を費やすべき時期など、それぞれ状況は違うから、その時の自分に合った計画を立てれば良い。
重要なことは、自分には年間1,000時間の貴重な可処分時間があることをしっかり認識し、それを有効に使おうとする前向きな気持ではないかと思う。 |