ロボット共生社会の基礎知識(最終回)誰を幸せにするための技術なのか 想像力を持って未来を切り拓く皆さんへ
今回でこの連載はいったん最終回となります。2年間お付き合い頂き、どうもありがとうございました。多彩なロボット活用の数々だけでなく、技術開発の成果を社会に普及させていくために考えておくべきことなどを紹介してきました。今回は改めて内容を簡単に振り返り、最後に、技術の力で未来を創る皆さんにお伝えしたいことを述べさせてください。
産業、物流、家庭、医療、介護、農業、アート…様々なロボット活用法
まず、「第1回「誰かの仕事でできている」世界を維持するための技術」ではイントロダクションとして、「世の中のあらゆるものは誰かが作り、維持している」ということをお伝えしました。見えていない部分も含めて、だれかが仕事をしているのです。でもいま、人手不足によって、ロボットの役割が改めて期待されるようになっています。ファミレスで料理を運んでいる配膳ロボットはその一例です。
「第2回 人と接するためのロボット」では産業用ロボットの活躍と、新たに注目されている「協働ロボット」の活用、そして柔らかいロボット「ソフトロボティクス」への期待をご紹介しました。
「第3回 世の中を変える仕事、変えさせない仕事」では「ChatGPT」に代表される生成AIのような「世界を変える新しい技術」だけではなく、「世の中を維持し、変えないための仕事」もとても重要であり、ロボットの活用が期待されていると述べました。例としてご紹介したのは物流ですが、他にも色々な「世界を維持するための仕事」があります。
「第4回 配送ロボットが屋内外で活躍する日は近い?」では、改めて「ロボット」とは何を指している言葉なのかという話と、その概念の広がり、そして屋外・屋内を走行しはじめた搬送ロボットを紹介しました。
「第5回 家庭用ロボットの存在感とトレードオフ」は、ロボットの設計でも常につきまとう「トレードオフ」の問題について述べ、家庭用掃除ロボットがなぜ使えるようになったのか、そして様々な家庭用ロボットを紹介しました。新技術を普及させるときには様々なジレンマを解決、あるいは妥協点を見つける必要があります。
「第6回 手術支援ロボットの可能性」ではロボット支援手術について紹介しました。これまでは「ダ・ヴィンチ」というロボットの天下でしたが、いま、新しいロボットが続々登場中です。また科学実験を行うロボットも現れています。
「第7回 農業もロボットでお手伝い」では既に従事者の平均年齢が68.4歳になっている農業の現状と、それをロボットで助ける話をしました。「スマート農業」です。稲作では既に多くの部分が自動化されていますが、それ以外の作物栽培にもロボットはまだまだ導入の余地があります。
「第8回 世の中と自分を変えるには「ステップバイステップ」」では、スーパーロボットをいきなり開発することは不可能なので、できることからじわじわと、できれば自動化技術を導入することを前提として作業内容を観察・分解して組みなおしたほうがいいという話をしました。自動化は、準備がとても大事なのです。
「第9回 アートとしてのロボットと「100万人に1人」の人材になる方法」では、「想像/創造力」を刺激する「表現」としてのロボットという話と、「100人に1人」くらいのレベルの技術を3つの分野で身につけると「100万人に1人」の人材になれるという話をしました。
「第10回 介護でロボットは活躍できるか」ではロボットの活躍が期待されている分野である介護分野の話として、電動車椅子や孤独を癒すためのロボットの話をしました。
日本科学未来館ロボット関連展示・「2023国際ロボット展」誌上見学会
「第11回 日本科学未来館・展示リニューアル ロボット展示も一新 課題を「自分ごと」化し、意見共有する場に」では、2023年11月に大規模リニューアルされた「日本科学未来館」のロボット関連展示を紹介しました。
「第12回 これまでの技術を組み合わせ、新たな領域へ 「2023国際ロボット展」誌上見学会」では2年に一度のロボット展示会「国際ロボット展」の内容を、ざっくりとご紹介しました。
生成AIやヒューマノイドの可能性、デリバリーロボットや廃棄物処理にもロボット
2024年の始まりとなった「第13回 移動技術の発展、そして今はまだ見ぬ新しいロボットはどんなもの?」では改めて移動ロボットの技術の一つである「SLAM」を紹介し、「自由な発想で未來のロボットを思い描いてもらいたい」とお願いしました。生成AIもアイデア出しには有効です。
「第14回 ロボットの可能性を広げる生成AI、大規模言語モデル」では、動画や音楽も作れるようになった生成AIを紹介しました。すでに大規模言語モデルを使ってロボットを動かす試みも始まっています。生成AIがロボットの可能性を大きく広げることは確実です。
「第15回 移動ロボットが社会で活躍するためには雰囲気作りも重要」では、ついに日本国内でも始まったデリバリーロボットの本格商業展開の話から、技術が社会になじむには技術だけではなく「雰囲気作り」のような部分、学問的にいうと「ヒューマン・ロボット・インタラクション」が扱うような課題も重要だと述べました。
「第16回 2024年はヒューマノイド研究ビッグバン!? 使い道はどこ?」では、急激に盛り上がっているヒューマノイド(人間型ロボット)をいろいろ紹介しました。ヒューマノイドを対象とした基盤モデル開発も始まりました。ヒューマノイドは特殊なかたちのモバイルマニピュレータですが、やはり注目度は高いので、今後も続々と発表されそうです。日本国内でも研究は続いています。
「第17回 資源ゴミの分別もロボットで ロボットが支える未来のリサイクル」ではロボットを使った廃棄物処理の話をご紹介しました。ビン選別や、ゴミに混ざったリチウムイオン電池の検出などを行える分別ロボットが登場しています。ロボットは廃棄物処理事業のイメージを変えることもできるかもしれません。
「ロボティクス・メカトロニクス講演会 2024 in Utsunomiya(ROBOMECH 2024)」
「第18回 ROBOMECH2024 宇都宮大学、ロボットが路面電車に乗り込んで弁当を届ける実証実験 LRTとロボットを連携」では、一般社団法人 日本機械学会 ロボティクス・メカトロニクス部門主催「ロボティクス・メカトロニクス講演会 2024 in Utsunomiya(ROBOMECH 2024)」で行われた、配送ロボットと次世代型路面電車システム「LRT」の連携実験の様子をレポートしました。
また番外として「宇都宮にロボット研究者たちが大集合 「ROBOMECH2024 in Utsunomiya」レポート」では、同じく展示や、ポスター発表の様子を紹介しました。学会発表の雰囲気は多少お伝えできているかと思います。
AI×ロボティクスが切り拓く未来
「第19回 「WRS2025」モノづくり分野は「箱詰め競技」 愛知県ではロボットを「第3の産業の柱」に」では愛知県で行われた「Robot Technology Japan 2024」というイベントで紹介された、WRS2025「ものづくりロボットチャレンジ」に関するシンポジウムの内容から、「AI×ロボティクス」を使った今後の未来のものづくりの方向性を紹介しました。機械学習が従来のプログラミングを変えようとしています。
「第20回 広く「ロボット」が使われる世界を実現するために 人機一体 成果発表会2024」では、独自の力制御技術を適用した大型の人型ロボットを使った作業を事業化しようとしている「人機一体」という会社の成果発表会を紹介しました。ロボット普及のためには技術の成熟だけではなく、ビジネス上の様々な「デッドロック(切り抜けるのが難しい難関)」を素早く越えなければならないので他の会社と連携したい、という話でした。
2024年の夏は猛暑でした。「第21回 よりよい持続可能な世界を目指すためのロボット技術 SDGsとロボティクス」では、今後は「都市を快適にするためのロボット」という発想が必要になるのではないかと述べました。SDGs(持続可能な開発目標)の実現のためにはロボット技術活用は不可欠です。今後はロボット技術者自身もSDGs視点が必須になると私は考えています。
「第22回 遠隔農業コックピットから変形小型草刈りロボ、各種追従台車、誰でも簡単選果できる便利ロボまで【農業Week2024】」では改めて様々な農業関連ロボットについて紹介しました。ブロッコリー選別自動収穫機や様々な追従台車などが開発・販売されています。非常に単純だけど有用なお芋選別機のような道具もあります。
「第23回 ロボットによる新たな価値づくり 効率化とは方向性の異なる価値」では、街をぶらつくための「低速」自動走行モビリティや、カフェでのロボット活用などの話題を紹介しました。ロボットは効率化や省人化という話とセットで語られることが多いですが、それ以外の可能性もあります。また、製造業とサービス業は、それぞれ様々な知識を蓄えています。お互いにもっと学び合えば、もっともっと良い世界へと近づけることができるはずです。
想像力をもって未知の世界へ
これまで、ロボットには色々な用途があることはもちろんですが、それだけでなく、どんなロボットを開発するにせよ必ず考えなければならない共通課題や、社会で普及させる上での論点、物事の基本的な捉え方について述べてきました。
特に一番強調したいことは、「想像力を持ってほしい」ということです。普段は、身近なことにしか興味が向かないのは当然です。ですが、ごくごく身近な物事でさえも、ちょっと奥をのぞいたり、裏側を考えてみると、様々な秘密が隠されています。
社会は多種多様な技術や人の努力によって支えられています。人一人が知ることができる範囲には限りがあります。ですが、たとえ知らないところであっても、背景には必ず様々な技術や情報の流れが存在しており、すべて興味深い面白さにあふれています。世界は広く、奥が深いのです。「自分自身が知らないことがある」という広さ、奥行きを「想像」する力を持って、未来を選択していってほしいのです。
また、工学には世界を変える力があります。世界に、これまで存在しなかったものを生み出すからです。新しいものは多かれ少なかれ、必ず社会を変えます。つまり皆さんも必ず社会に影響を与えることになります。
おそらく、読者の皆さんの多くは、何かしらの「ものづくり」に携わっている方でしょう。日々の仕事だけに向き合っていると忘れてしまうことも多いかもしれませんが、自分たちが創っているものは、誰を幸せにしているのだろうか、そして誰の幸せのための技術なのか……。これらのことだけは忘れずに頭の隅に常に置いておいてほしいと思っています。