ロボット共生社会の基礎知識 遠隔農業コックピットから変形小型草刈りロボ、各種追従台車、誰でも簡単選果できる便利ロボまで【農業Week2024】
後継者が不足している産業の一つが農業です。この連載のバックナンバー、「第7回・農業もロボットでお手伝い」でもご紹介しましたが、農業従事者の平均年齢は、すでに68歳となっています(農業労働力に関する統計より)。大変な状況です。そこでロボットなど自動化技術の活用が期待されています。
農業は幅広い業界です。扱っている対象も様々ですし、実際にたずさわっている人も本当にいろいろです。農家によってやり方も違いますし、アナログな部分も非常に多いですが、逆に、共通作業もあり、デジタル技術が使える余地もだいぶあります。
今回は「農業WEEK2024」という展示会に出展されていたロボット関連機器を紹介します。どんなことにロボットや機械、デジタル技術が使えそうか、あるいは、使ってもらうためにはどうすればいいのか、考えてみてください。どんな分野でもそうですが、地に足をつけつつ、未来を想像することが重要です。
<目次>
・植物工場向けの「自動移植機」
・温室内向け自律走行ロボット
・画像認識を使って作物の生育を測定、自動収穫
・有機農業をスマート化
・ブロッコリー選別自動収穫機
・遠隔から複数の農地をコントロール
・変形する畝間対応小型草刈りロボット
・除草剤を撒く「ネコソギマクンダーZ」
・果樹・野菜農家向けの台車ロボット
・作業効率を2倍にする追従運搬車
・UWBを使った追従台車
・後付けで農機を自動化
・誰でも簡単選果できるイモテック「Robosenka(ロボせんか)」
植物工場向けの「自動移植機」
高品質な作物を安定して生産するための技術として考えられる手段の一つが「植物工場」です。モーションコントロールなどで広く知られる企業・椿本チエインは、植物工場向けの自動移植機を出展していました。苗を移植する作業を高速・省人化する技術で、移植速度は1株あたり1-1.2秒程度。移植成功率は99.9%で、これは業界最高レベルだそうです。
椿本チエインは栽培事業にも取り組んでおり、2025年7月にはレタスの工場が福井県に竣工予定とのことでした。椿本チエインは機械学会関係者にはお馴染みの会社ですが、こんな新規事業にも取り組んでいるのです。
温室内向け自律走行ロボット
Rendezvue 温室内向け自律走行ロボット「FARMILY」
韓国のRendezvueは、自社で開発した温室内向け自律走行ロボット「FARMILY」を出展していました。展示では農薬散布をイメージした構成となっていましたが、作業機械を交換することで、防除だけでなく、搬送や作物管理など様々なサービスを提供できるそうです。
既に韓国国内ではトマト、パプリカ、イチゴ農家でテストされているとのことです。2025年以降に販売予定です。
画像認識を使って作物の生育を測定、自動収穫
韓国のSungho SI Corporationはスマート温室や植物工場向けの作物生育測定システム「EVE」と、自動収穫ロボット「EVE Clever」を出展し、デモを行っていました。AIを使って葉や茎、花房、果実などの大きさを測定し、評価します。
「EVE Clever」は画像認識を使って作物を自動収穫します
有機農業をスマート化
「Tokuiten」が開発中の収穫ロボット。まだこのロボットで収穫は行なっていないそうです
日本の農業スタートアップ「Tokuiten(トクイテン)」は有機農業の自動化パッケージを販売しています。各種環境センサーを使って環境管理を自動化する「スマート農業」と、収穫を担うロボットをセットで販売して、手間のかかる有機農業に参入しようとしている企業をサポートしようというビジネスモデルです。
Tokuiten自体も2022年11月に愛知県知多市内に0.2haの直営農場をつくり、ロボットを開発しながら、収穫した野菜を直売所やウェブで販売しています。
ブロッコリー選別自動収穫機
PSE 「ブロッコリー選別自動収穫機」
自動化システムを手がけるプロダクトソリューションエンジニアリング(PSE)株式会社は、全国の農場でブロッコリーの通年栽培を行っている大手農業法人・株式会社I Loveファームそのほかと共同開発した「ブロッコリー選別自動収穫機」を出展しました。
PSE 「ブロッコリー選別自動収穫機」側面
畑に植わっているブロッコリーの上をまたぐように走行する電動のロボットが、外側の葉を自動でかきわけてカットし、適切なサイズのブロッコリーの茎をスパッと切り取って収穫します。収穫したブロッコリーはベルトコンベアで回収台車に移されます。作業者とセットで稼働させるイメージです。収穫能力は1分あたり24株、1.8時間で10a収穫できるとのこと。収穫人員は6名を2名に、収穫作業時間では50%削減できるそうです。
ブロッコリーの食べられる部分は「花蕾(からい)」というのですが、その育ち方が株によって違うため、手作業で行われています。つまり、ブロッコリーの収穫には多くの人手が必要です。通常は1ファームあたり5人くらいで回している現場が、収穫時には50人くらい雇わなくてはならないのだそうです。
ところが人手不足のため、年々、人が集まりにくくなっています。そのため農家では、畑全体を使うのではなく、最初から収穫できる量を見越して、それだけの量しか栽培できなくなっています。基本的には毎日収穫できるように少しずつ時期を変えて栽培しているのですが、中には収穫しきれなくなり、そのまま廃棄となることもあるそうです。
PSEではこの作業を自動化するロボット開発を行い、いま、製品フェーズへと移行しようとしています。刈り取り形状は人手収穫と同レベルで、収穫成功率は85%を達成しており、実用化ネックは、やはり価格です。現在、この機械を普及させるために単純な販売やリースだけではなく、たとえば収穫請負の会社を立ち上げるようなかたちも含めて、いろいろと考えている段階だそうです。切実なニーズがある機械です。
遠隔から複数の農地をコントロール
NTTアグリテクノロジーズ「遠隔営農支援コックピットシステム」
このように、環境のセンシングや、データに基づいたコントロールや改善ができるようになると、実際の農場に足を運ばなくても遠隔からでも農業を行えるようになります。複数の農地を少人数で管理すること可能になりますし、AIを使ったサポートサービスを受けることもできます。NTTグループが提案する「遠隔営農支援コックピットシステム」はそのような新しい農業向けの提案です。
変形する畝間対応小型草刈りロボット
もちろん、このような先端技術だけが求められているわけではありません。もっと当たり前に日常的な作業を助けてくれる、「ちょっと便利な道具」のようなロボットも開発されています。
Field Worksの変形・小型草刈りロボット「ウネカル」
農業用小型ロボットの開発を行う株式会社Field Worksの変形・小型草刈りロボット「ウネカル」は畑の畝間向けの草刈りロボットです。ラジコンで操作でき、電動で2時間稼働できます。バッテリーは、電動工具のバッテリーを使うことができます。
「ウネカル」は変形機構を備えています
特徴は変形機構です。スリムな「畝間モード」から4輪の「圃場モード」に変形することで、平地でも草刈りさせることができます。農作業の負担を軽くするためのロボットです。
除草剤を撒く「ネコソギマクンダーZ」
レインボー薬品 除草粒材自動散布ロボット「ネコソギマクンダーZ」
レインボー薬品株式会社は、除草粒材自動散布ロボット「ネコソギマクンダーZ」を出展しました。ロボットスタートアップのCuboRex(キューボレックス)の不整地走行用の電動クローラユニット「CuGo」を使ったロボットで、その名のとおり、粒状の除草剤を撒くロボットです。もともとは太陽光発電所向けとして開発されたそうです。
果樹・野菜農家向けの台車ロボット
輝翠Techの農業ロボット「ADAM」。最大積載量は300kg
2021年に仙台で創業した輝翠Tech株式会社は、果樹・野菜農家向けの農業ロボット「ADAM」を出展しました。ロボットは人の後をついてきて収穫を助け、ボタンを押すと出荷場所まで自動で移動します。1時間あたりの収穫量を25%増やせるとのこと。2025年春に製品版をリリース予定とのことです。ロボットの農作業状況は、輝翠Techの農場管理ツールで管理することができます。
農業だけではなく、建設現場や物流センターなどのパトロールロボットとしてのニーズもあるそうです。建設現場での作業向けならもう少し積載量が必要になるでしょう。今後、牽引なども開発予定があるとのことでした。
作業効率を2倍にする追従運搬車
城南製作所の追従運搬車「フォローン」。最大積載量は150kg。
株式会社 城南製作所は、運搬による搬送負荷を減らすために開発している自動追従台車のコンセプトモデル「Folloone(フォローン)」を出展していました。今回が初お披露目だそうです。長野県工業技術総合センターとの共同研究で、モーションキャプチャと動作解析ソフトウェアを使って身体的負荷を数値化しており、「フォローン」を使うと従来の作業に比べて身体の負荷が50%以上削減できるとのことです。なお、「Folloone」とは、Follow(追従)+Drone(ドローン)の組み合わせの造語です。
UWBを使った追従台車
「botbox」。最大積載量は200kg。
悪路走行モビリティロボットなどを過発している韓国Artwa(アートワ)の「botbox(ボットボックス)」は、人が専用のリモコンを入れて歩くと、その後ろをついてくる追従型運搬ロボット台車です。UWB(超広帯域)無線通信を使っています。必要な人の数を3分の1にできるといいます。
後付けで農機を自動化
後付けで農機を自動操舵可能にする「AGMO Solution」
AGMO(アグモ)は後付けでトラクターや田植え機、コンバインなどを自動操舵可能にするデバイス「AGMO Solution(アグモソリューション)」を出展しました。センサーモジュールやカメラのほか、ハンドルごと交換することで自動操舵化します。メモリー走行や経路の自動生成なども行なってユーザーをサポートします。
誰でも簡単選果できるイモテック「Robosenka(ロボせんか)」
イモテックの小型選別ロボット「Robosenka(ロボせんか)」
最後に、今回の「農業Week」で筆者が一番「面白い」と思った製品を紹介します。ドローンを手がける三共木工株式会社 DEARISEのブースで出展されていた、株式会社イモテックの小型選別ロボット「Robosenka(ロボせんか)」です。
ジャガイモやピーマン、里芋などには大きさ・重量によって規格があります。そのため市場に卸す前に「選果」という仕事が必要です。「ロボせんか」は、これを簡単にするためのツールです。使い方は簡単で、作物を計量皿に載せるだけで、重さに合わせて自動で分類してくれます。何も考えなくてもできるようになるため、精神的な負担や疲労が大幅に減ります。
仕組みも極めて単純ですが、巧妙です。サーボモーターの上にカメラジンバル、そして力を電気信号に変えるセンサーであるロードセルがあり、重量を計測します。計量皿は作物の重さを1秒間計測します。より正確にいうと、0.1秒に一度重さを計測し、2回同じ重さが来たら確定と判断します。つまり、作物をのせたばかりのときは振動しているので、その振動が落ち着いた状態で計測しているのです。このあたりの工夫はさすがです。なお制御にはArduinoを使っています。大型の選果機と違って、構造も単純ですので安価に生産できそうです。
あとは重さに合わせて計量皿が傾くので周囲にコンテナを置いておけば自動で分類できるというわけです。重量設定は出荷の規格に合わせて変更が可能です。計量皿は作物によって取り替えることもできます。しかも小型であるため簡単に持ち運べます。
この機械を使えば、ベテランでなくても、誰でも簡単に「選果」ができます。ベテランであっても、ずーっと判断し続ける必要がなくなるので作業が楽になるというわけです。開発したイモテック代表取締役の塩川武彦さんは自らも農家もやっているそうです。このような現場の人が求めていた道具がどんどん生み出されるようになるといいなと思いました。