ロボット共生社会の基礎知識 よりよい持続可能な世界を目指すためのロボット技術 SDGsとロボティクス
<目次>
・都市を快適にするためのロボットは可能か
・ロボット技術なしでは持続可能な技術革新は不可能
・故障しにくいロボットを実現することも重要
・科学や医療に貢献するロボット技術
・もっとエネルギー効率を高めたロボットへの期待
・誰も見たことがないロボットも
都市を快適にするためのロボットは可能か
日本の夏の平均気温偏差(平均値とのずれ)。黒線は各年の平均気温の基準値(1991〜2020年の30年平均値)からの偏差。青線は偏差の5年移動平均値。赤線は長期変化傾向。(出典:気象庁Webサイト)
2024年の夏は本当に暑かったです。これまでも年平均気温はじわじわと上がり続けていましたが、いよいよ本格的に暑くなってきました。以前は都市部のヒートアイランド現象が特に問題とされていましたが、もう、そういうレベルではなくなりました。あらゆる地域で暑い。そういう状況です。たぶん今後、夏はずっとこのように長く、暑くなってしまうのかもしれません。
そうなると、何らかの対策が必要です。街全体で少しでも気温を下げる、それもできるだけエネルギー消費なしで、つまり排熱を減らして気温を下げる努力が必要です。たとえば「日除けを日照に合わせて動かす」とか、風が少しでも通り抜けやすい街全体の設計などが必要になるのかもしれません。街を上から見たとき植物に覆われている部分の割合を「樹冠被覆率」と言いますが、街路樹や公園のような緑を少しでも増やすことも重要でしょう。
未来の街を快適にするための技術にはどんなものがあり得るでしょうか
建物の建材や、塗料などを工夫する必要もあるでしょう。世の中には「光の98.1%を反射する塗料」といったものも既にあります。赤外線も反射します。工夫次第で、できることはまだまだあるはずです。
他にももっと色々な変化もありそうです。これまでなら「常温」で運べていたものを、冷たい物流網、いわゆる「コールドチェーン」で運ばざるをえなくなるかもしれません。より複雑な温度管理が必要になることは間違いないでしょう。都市交通の効率化も必須です。
未来の街では様々なロボットが人を支えるはず
「未来の都市にロボット活用は必須」という話はよくあります。たとえば東京の山手線に新しくできた「高輪ゲートウェイ」駅近辺では今後、多くのロボットを活用予定だとされています。それらは「ものを運ぶ配送業務の一部をロボットにやらせよう」とか、「ビル内の清掃や警備の一部はロボットでもできるよね」「インフラ点検はロボットにやらせよう」といった文脈で語られているのですが、今後は「都市を快適にするためのロボット」という発想が必要になりそうな気がします。
都市を快適にするロボットとはどんなもの?
たとえば、水を巻きながら走行する自動散水車は想像しやすいですね。他にはどんなものがあるでしょう? ぜひ、みなさんの自由な発想で考えてもらいたいです。そうでないと持続可能な暮らし、技術発展ができなくなってしまいます。もっとも、CPUが熱暴走してしまうので、ロボットにとっても熱は大敵です。屋外で使うロボットの冷やし方も考えないといけないかもしれません。
ロボット技術なしでは持続可能な技術革新は不可能
新型コロナウイルスのパンデミックや、様々な自然災害、猛暑などを経て、多くの人が「持続可能性」の重要性を体感しつつあるのではないでしょうか。今回は「SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)とロボット」というお話をします。
ただし「SDGsとは?」といった前提となる話はしませんので、SDGsの定義や歴史的な経緯に興味がある方は、2021年に私が別媒体に書いた記事「SDGsとロボットの「切っても切れない」関係、つながる世界で「全体最適」の知見活かせ」をご覧ください。
「持続可能でよりよい世界を目指す」。基本的にあらゆる技術はこのためにあると言っても言い過ぎではありません。ですから、あらゆるものがSDGsに貢献すると言えなくもありませんが、まずロボットが貢献できることというと、過酷な労働、重労働など「3K労働」から人を解放しつつ、経済成長を実現することでしょう。
多くの産業用ロボットなしでは、SDGsの目標「8. 働きがいも経済成長も」「9. 産業と技術革新の基盤をつくろう」などの実現は考えられません。最近の知能化技術の向上によって、ロボットの適用範囲が広がりつつあることはこれまでも紹介してきたとおりです。これからもっと、ロボットができることは広がり、それらは人をキツい労働から解放するはずです。
エネルギーを使わないとか、他にもいろいろありますが、ロボットの効用の第一は、やはりここだと思います。
故障しにくいロボットを実現することも重要
国際ロボット連盟(IFR)も2020年に「ロボットが、国連の SDGs(持続可能な開発目標)の達成を後押し」というプレスリリースを出しています。このなかで強調されていることの一つが、「修理を意識した実践」です。
ロボットは物理的に動きますから、部品は必ず損耗しますし、壊れます。故障リスクを減らすための方法の一つは、設計を工夫して部品点数を減らすことです。もちろん保守部品を事前にしっかり準備しておくことも重要です。これらはとても基本的なことですが、同時に、見落とされがちなポイントでもあります。
故障しにくい機械は、言うまでもなくユーザーの利益につながりますし、当然、環境負荷にもやさしいものになります。
科学や医療に貢献するロボット技術
また、目標「3. すべての人に健康と福祉を」にもロボットは貢献します。新型コロナウイルスのときには感染抑止のためにロボットが活躍しました。検査のためにもロボットが使われるようになりました。それらは「ラボ・オートメーション」、つまり科学実験の自動化技術として発展し続けています。今後はAIと組み合わせることで「仮説立案」と「検証」を自動でどんどん進める機械も本格的に活用されるようになるでしょう。
医療全体へは今後広く、AIやロボティクスが応用されることになります。いまでも医師が診断する前の問診や、画像診断にはAIによる補助が使われ始めています。また、いま現在の医療ロボットは、手術支援ロボットの段階にとどまっています。今後どこまで踏み込むかは技術だけではない問題もありますが、もっと積極的にロボット技術と組み合わせれば自動診断を深め、さらに治療へと進めることもできるはずです。ロボットは単純労働だけでなく、専門的な、高度な作業も自動化することができるのです。
また、手術支援に限らない話ですが、今後は「遠隔操作技術」と組み合わせることで、医師が現場にいない場所であっても、デバイスさえ設置していれば、医療支援サービスを受けることもできるようになります。
可能性は、まだまだあります。人の健康寿命が伸びれば、当然、全方面に影響が出てきます。
いっぽうで、技術的に高度医療ができるようになったからといっても、みんながその恩恵を受けられるかどうかは、また別問題です。逆に「格差を助長するのではないか」という懸念もあります。労働負荷軽減などでも同じ問題が指摘されているのですが、特に健康に関する問題については、常に「社会システムを変える」こととセットで考えておく必要があります。
このほか、自動運転技術が普及すれば、事故の減少が期待できます。自動運転車と移動ロボットには基本的に同じ技術が使われています。ですから、どちらかの技術の普及が進めば、それぞれに恩恵があるはずです。スマートフォンの普及によって様々なセンサーや軽量高性能なバッテリーが安価に手に入るようになり、それはドローンや移動ロボットの能力も飛躍的に向上させました。同様に、大きな影響が各方面にもたらされるでしょう。
もっとエネルギー効率を高めたロボットへの期待
もっと単純に、あまりエネルギーを消費しないロボットの実現も重要です。いまロボットはAIと組み合わせられることで、大きく性能を伸ばし始めていますが、現在のAI処理は電力を消費してしまいます。ロボットに期待されているような現場での推論実行は、その前過程である学習ほどは電力を使いませんが、それでも食うことは間違いありません。
もっとも、ロボットの場合、動くことで一番電力を使うので、まずはその改善が必要だと思います。動いているときにエネルギーを使うのは仕方ないので、「待機電力」をできるだけ下げるような工夫、効率よく動けるようにする工夫が必要となります。
そのためにはロボットだけではなく、周囲の周辺機器や、活躍する工場や倉庫、お店など全体の効率をよく考えてみきわめる努力が必要になります。電力が下がれば電気代が下がりますので、ユーザーは間違いなく喜びます。環境負荷も減るはずです。
誰も見たことがないロボットも
将来は脳のしくみに学んだ新しい計算機も登場するかも…
将来はもっと根本的にエネルギー消費を下げるロボットも期待されるようになるでしょう。あたかも動物の筋肉や脳のように、あまり無駄な熱を出さないようなアクチュエーターや、計算システムが必要とされています。
神経細胞のネットワークである人間の脳の消費エネルギーは、わずか20Wだと概算されています。暗い電球くらいです。しかも休んでいるときと考えているときとでも、消費エネルギーはほぼ変わりません。これは脳が確率的な処理を積極的に活用しているからだと言われています。いまのノイズを遮断する電子計算機とはアーキテクチャーが異なるのです。
既存の技術を磨き上げていくことと同時に、まったく新しい仕組み、「誰も見たことがない世界」を目指す努力も続けてください。そして目標「8. 働きがいも経済成長も」を実現していってほしいと思います。
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