ロボット頭部の組み立て、ソフトウェア開発を体験 日本機械学会ジュニア会友「ugo」見学体験会
2023年8月5日、ロボットスタートアップのugo株式会社(ユーゴー)の協力により、一般社団法人日本機械学会主催の「次世代型アバターロボット『ugo』見学会」が主に中学生・高校生以上の「ジュニア会友」を対象として行われました。「スタートアップ」とは、社会課題の解決を目指す新規事業によって急成長を目指す組織や会社のことです。
体験会の参加人数は、保護者を含めて16名。参加者たちは、ロボットで人手不足対応を目指すugo社の事業目標や、ロボット「ugo」の頭部の組み立て体験、遠隔操作するためのソフトウェアの開発体験などを通して、ロボットの仕組みと社会課題の解決について学びを深めました。
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ロボット操作/ソフトウェア開発体験
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ハードウェア組み立て体験
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ずらっと並んだugoのロボット
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ロボット生産現場・開発現場を見学し、一部を体験させてもらいました
ugo(ユーゴー)=人と機械の融合で人手不足解決を目指す
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ugo株式会社 代表取締役CEO 松井 健さん
まずはじめに、ugo社の事業説明とロボットの解説が行われました。説明してくれたのはugo代表取締役CEOの松井 健さんです。松井さんは、2018年にugoを創業しました。2023年現在のugoの社員数は、おおよそ40名です。
ugoは「分身」として遠隔操作できるロボット(アバターロボット)を使って、様々な業務、特にインフラサービスの一部自動化を目指しています。現在は主に工場やビルの点検や警備に使われており、ロボットを使うことで、それらの業務の一部の単純な部分を自動化、または半自動化することができます。
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ugoの事業について解説する松井さん
たとえば、警備には「立哨(りっしょう)」という作業があります。ビルの入り口などで、立ったまま警備し続ける作業です。肉体的にもつらい作業です。ですが日本はいま少子高齢化で人手が足らなくなりつつあります。警備員にもお年寄りが増えています。いっぽうロボットならば疲れることなく警備を行い続けることができます。警備員室からロボットを遠隔操作すれば、ビルにやってきた人と話をすることもできます。
工場やビルの警備の他にも、大量のコンピューターを動かすための専用の部屋である「サーバールーム」の点検や、お年寄りの世話をする介護の現場でも使われ始めています。他の導入例はこちらで紹介されています。
ugoのロボットは遠隔操作を基本としていますが、ロボット自体にも自律移動能力や認識能力があり、自分でマップを作ることができます。そして決められたルートを動きながら、点検や警備を自動で行うこともできます。点検しなければならないメーターの値を読んだり、エレベーターのボタンを押すこともできます。しかもこれらを簡単な操作で扱えるところが、ugoのロボットの特徴です。
ロボットですので、遠隔操作で動かした動きを記録し、そのまま再生することもできます。また、動かせば動かすほど動作データが蓄積されます。そのデータはロボットのAIを学習することにも使えますし、仕事を効率よく行えるよう改善するためにも使えます。つまりロボットを使えば使うほど、人手をかけずに仕事が行えるようになる可能性があるのです。
さきほども言いましたが、日本は今後、労働人口が大幅に減少すると考えられています。具体的には2020年から2040年への20年間で、おおよそ1,428万人の人手が減少すると考えられています。単純に計算すると、一ヶ月におおよそ6万人の働き手が減少するペースです。つまり、これまでの方法を続けるだけでは、いろいろなサービスが維持できなくなります。何らかの改革が必要です。
ugoではロボットを使うことで人手不足に対応しようとしています。もしロボットがある程度の単純作業をこなすことができるようになれば、人はそのぶん、別の作業に集中できるようになります。「ugo(ユーゴー)」とは人と機械の「融合」を意味しています。
「ugo」ロボットのハードウェア
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ugoのロボット。ugoが自社で開発・製造しています
ugo社では、そのためのロボットとソフトウェアを開発しています。ロボットもオリジナルです。モーターやセンサーのような部品は外部メーカーから購入していますが、筐体などは3Dプリンターを14台使って自社で製造しています。
「カート」と呼ばれる移動台車につけられた車輪「メカナムホイール」も自社で独自に加工しています。車輪の外周に小さい樽型の車輪を斜めに配置した「メカナムホイール」を使うことで、たとえばエレベーターのなかのような狭い場所でも、その場旋回や、前後左右にもスッと動くことができるのです。
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ugoの移動台車「カート」。メカナムホイールで左右にもまっすぐ動けます
ugo社が開発しているロボットにはいくつかのタイプがありますが、基本構成はロボットの上半身部分、リフトと呼ばれるロボットの上半身を上下に動かす部分、そして移動台車の「カート」となっています。ハイエンドモデルの「ugo Pro」は、先端には360度の視野を持つ高性能カメラとライト、70~150cmまで伸縮可能な本体(ロボットの上半身)があります。
そして2本の腕がついています。本体は上下に動くので、広い範囲で作業できます。腕の先にはエレベーターのボタンを押せる突起がついていて、フロア間を移動することもできます。ロボットとエレベーター管理システムを無線で通信することもできますが、人がやっているように物理的にボタンを押すほうが簡単だというのがugoの考え方です。
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ugoの手先にはエレベーターのボタンを押すための突起がついています
カメラはリフトの先端部分、頭部の下、そして本体の3箇所に付けられており、必要に応じて切り替えられます。本体には距離がわかる深度センサーがあり、エレベーターのボタンを押すときなどに使われています。
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カメラは一番上、頭部のアゴ部分、本体の3箇所にあって、切り替えながら使う
台車のカートには障害物を検出するための超音波センサーやLiDAR(レーザーセンサー)などがあります。このほか、慣性計測センサー、エンコーダー、気圧センサーなどが搭載されていて、複数のセンサーを組み合わせる「センサーフュージョン」によって、ロボットは動いています。
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「カート(台車)」には超音波センサーやLiDARなどが搭載されています
頭部パーツの組み立て・検査体験
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組み立てたugoの頭部パーツ
今回、実際にロボットを作っている工場のなかで、一部の組み立て作業を行わせてもらいました。組み立てたのはロボット「ugo」の頭部です。顔はディスプレイになっていて、表情や文字情報を表示できます。
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ugo生産現場でのハードウェアの組み立て体験。説明してくれた楠川礁さん(左)と樋詰剛さん(右)
教えてくれたのはugo ロボット開発部 電気ハードウェアの樋詰剛さんと楠川礁さん、そして同 ロボット製造部の小倉僚太さんです。楠川さんはセンサーの長所を組み合わせることで短所をカバーする「センサーフュージョン」のカッコよさや、コスパに優れた「超音波センサー」の原理や面白さ、大気圧によるわずかなひずみからフロア移動を測定できる「気圧センサー」の測定原理について紹介してくれました。
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実際の生産現場での頭部ユニットの組み立て
そしてこのあと、マニュアルを見ながら頭部ユニットの外装とハーネス(ケーブルを束ねたもの)を電動ドライバーを使って組み立て、最終的に治具(じぐ、加工されるものを固定する道具)にのせて検査するという一連の工程を実際に体験することができました。動作チェックのあとは分解作業も行いました。
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頭部ユニットのパーツ
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組み立て作業について教えてくれたロボット製造部の小倉僚太さん
最近はあまりエラーはないそうですが、最初のころは1日に5台を組んだら一台は接続エラーになったりしていたそうです。
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チェック用の治具に接続して動作するか検査
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問題なければ顔が点灯
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普段は実際にここでugoの生産が行われています
合間には特殊な車輪である「メカナムホイール」の仕組みの解説も行われました。メカナムホイールを使って、まっすぐ横に動くにはどのように力を組み合わせればいいのでしょうか。皆さんも考えてみてください。ugoではメカナムホイールの部品を購入し、その部品を使ってカスタマイズして使っているそうです。
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メカナムホイールのしくみも考えました
ハードウェアは他にも数種類。最新モデルは「ugo mini」
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コンパクトな「ugo mini」。データーセンターなどに置きっぱなしで使うことを想定しています
なお、ハイエンドモデルの「ugo Pro」のほか、腕と本体のない頭だけがついている「ugo Stand」、工場や倉庫での見回りに特化したシンプルな「ugo Ex」、そしてコンパクトな本体にチルトカメラを搭載した「ugo mini」があります。それぞれ、導入する現場のニーズに合わせて使い分けられています。
ロボットを操作したり自動化設定・管理できるソフトウェア「ugo Platform」
ugoでは、ロボットを誰でも簡単に操作できるようにするためのソフトウェア「ugo Platform(ユーゴー・プラットフォーム)」も自社で開発しています。日々の仕事のなかでロボットを遠隔操作するとデータを集まります。そのデータを活用し、たとえばAIをトレーニングしたり、改善点を見つけることができます。そしてできるところから徐々に自動化していこうというのがugoの提案です。
そのための開発の枠組みが「ugo Platform」です。クラウドを使ってロボットに様々なアプリケーションを実装できます。また、ugo社以外のロボットも統合コントロールできる機能があります。
自動化の設定も「ugo Platform」で行えます。様々なコマンドがあるのですが、簡単なものであればブロックを並べるだけの簡単なプログラミング方式で仕事を自動化できます。ugoではこの動作を簡単に自動化する技術を「Flow(フロー)」と呼んでいます。
プログラミングを簡単にしている理由は、技術者だけではなく、日々の生活を支えてくれている警備員や、電気やガスなどの点検員、介護など現場で作業している色々な人が直接、ロボットを使えるようになることを目指しているためです。プログラム自体が簡単ですので、現場で日々行う作業が変更されたときにも、すぐに対応できます。日本の働く人が減っているなかで対応するための方法の一つとして、遠隔からロボットにログインして働けるようにするための提案を行なっている会社がugo なのです。
ugoの動作のしくみ
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ugoのエンジニア 横澤秀一さんと佐々木成海さんからソフトウェアのしくみをレクチャー
ソフトウェアを実際に使って、ロボットを遠隔操作をしたり、簡単な開発体験もさせてもらいました。解説してくれたのはugo ロボット開発部 ロボティクスエンジニアの横澤秀一さんと佐々木成海さんです。ふだんは横澤さんはアームの制御、佐々木さんは走行機能の開発を担当しています。
ugoのシステムは「ugo Cloud」で管理されています。エレベーターやビル内設備など外部システムとの連携はクラウド経由で行われています。オペレーターはウェブブラウザを使ってロボット操作画面「ugo ポータル」を扱います。オペレーターはロボットが見ているカメラの映像を見ながら指示を出します。
ポータルの情報は「ugo Platform」に集約されます。オペレーターは一人だけではなく、複数いる場合もあり、現場も複数あります。それらの情報をセキュリティを確保しながら管理します。ロボット本体とオペレーターとの間は操作の遅延を防ぐため、WebRTCを活用してリアルタイムコミュニケーションを簡単に実装できるNTTコミュニケーションのマルチプラットフォームSDK「SkyWay」を用いて、直通で行います。ロボットに指示して記録した画像データなどはクラウドに集約されています。
ロボットの機能構成は4つのレイヤーからなっています。ユーザー操作の管理、自動操縦、ロボットの各ハードウェアの制御、ロボット自体の起動・終了、状態管理、通信制御などです。ロボットを全部手動で動かすのは大変なので、ある程度まとまった作業は自動で行うことができます。
ロボット遠隔操作・プログラム開発体験
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ugoの操作体験
今回の教室では、カート(台車)の操作、アームの操作、音声発話、顔ディスプレイ表示の操作などを実際に体験させてもらいました。
体験では二人で一つのパソコンを使って、操作を行いました。「カート」を動かすときは、ぶつからないようにロボットの腕を下げて待機姿勢にして動かします。
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腕やディスプレイ操作などを体験
ブロックを組み合わせるだけではなく、コマンドをまとめて一連の動作を自動化した「Flow」の作成、その加工、さらには、より細かくロボットを操作するために、プログラミング言語の一つ「Python(パイソン)」を使ってプログラミングする作業も行いました。Pythonでロボットにコマンドを送って動かしました。
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ターミナルを使ってロボットにメッセージを送り、動作させました
プログラミングは一文字間違えても動きません。キーボードを使ったプログラム体験が初めてだった人は苦戦もしたようですが、ロボットをパソコンを使って動かせることを実際に体験して、面白さを感じた人もいたようです。体験の合間には「移動するときにはロボットの原点をどこにするのか」といった質問も上がっていました。
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ロボットからの視点画像と、ロボット頭部の表示を変えるメニュー
また、今回の体験は2人一組で行われましたが、初めて顔を合わせた人たちだったので最初はぎこちなさもありましたが、ロボットが発話すると自然と笑顔が生まれました。ロボット操作体験を通して、ほどなく色々な話もできるようになったようです。
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ロボット操作を通じて楽しい会話もできるように
スタートアップの取り組みをフルセットで体験
今回の体験会はおおよそ3時間かけて行われました。参加者たちは、ハードウェアとソフトウェアを共に自社で開発し、社会の課題を解決するための新たなサービスを生み出そうとしているスタートアップによる取り組みの一部を、少しだけですが全体を通して見ることができ、それぞれ考えることがあったと思います。
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ugo株式会社 広報マネージャー 荒木祥子さん。今回の企画詳細を考えて手配してくれました
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一般社団法人 日本機械学会 広報情報グループ 課長 大黒卓さん。今回の企画者です
「ジュニア会友」へのご登録をお願いします
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暑い1日でした
今後も日本機械学会では「ジュニア会友」(19歳未満の方を対象に、科学技術に関するコンテンツや体験学習の場を無料で提供しています)向けにイベントを実施していくので、こちらのページからご登録をお願いします(登録料/年会費無料)