森山 和道

2年に一度のロボット展示会「国際ロボット展」

日本ロボット工業会と日刊工業新聞社が共同で開催する「2023国際ロボット展」が2023年11月29日から12月2日の日程で、東京ビッグサイトにて行われました。出展した会社・団体の数は654。のべ来場者数は148,125人。過去最大規模とのことです。

「国際ロボット展」は二年に一度開催される大規模なイベントで、主に産業用ロボットが出展されます。国際ロボット展の会場を歩くだけで、だいたいのトレンドをつかむことができます。今回はざっくりと国際ロボット展の内容を振り返ってみましょう。これまでの内容と重なる点もありますが「誌上見学会」のような感覚で、お読み頂ければ幸いです。

<目次>
パワーと精度を併せ持つ産業用ロボット
協働ロボットに力を入れる各社
協働ロボット専門会社は様々な用途を提案
モジュールを組み合わせる合体ロボットも登場
格安の中国製ロボット
人工知能(AI)の活用
トラックからの荷下ろしもロボットがやる時代
バーチャルでリアルを再現・予測する「デジタルツイン」
ロボットのための「手」や「指」も
力センサー付きの「黒ひげ危機一髪」対戦も
異彩を放つ川崎重工ブースと人機一体ブース
ヒューマノイドでも中国の会社が存在感を発揮
さらに広がるロボットの可能性

パワーと精度を併せ持つ産業用ロボット

国際ロボット展では毎回出展される象徴的な展示があります。今回も、ファナックの大ロボットが自動車を持ち上げて振り回していました。圧倒されます。私も毎回これを見に行きます。もちろん適当に振り回してるのではなく、きちんと制御して動かしています。パワーと精度を両立させたロボットです。

産業用ロボットの世界では「4強」という言葉があります。要するに大きな会社のことです。ファナックという会社はその4強の一つで、富士山の近くの忍野村に本社があります。水が綺麗なところとして有名な場所ですね。ファナックは黄色いロボットが特徴です。

「4強」の残り3つは、日本の安川電機、スイスのABB、ドイツ生まれでいまは中国資本のKUKAです。他にも、川崎重工業、不二越、ダイヘン、デンソーウェーブ、ヤマハ発動機といった会社が有名です。他にも色々あります。それぞれ強みと生かされる分野が違い、すみわけています。

 

協働ロボットに力を入れる各社

これまで自動車や電機産業で広く使われてきた産業用ロボットですが、最近、二つのトレンドがあらわれています。一つ目は「協働ロボット」です。

産業用ロボットは危険ですので「安全柵」で仕切って使わなければなりません。基本的には大規模なラインで、人とは完全に分離した作業を行っています。設置できる床も頑丈なものでなければならず電源も特別なものがいります。プログラミングにも手間がかかるので、プログラミング可能な機械=ロボットと言いつつも、実際には自動機械として使われていることが多いです。

それに対して「協働ロボット」は、「人と同じ空間で働く」ことを前提とした小型のロボットです。パワーが低く、センサーなどを使って安全性を担保することで、人と一緒に働けるようにしたロボットです。プログラミングも、使い方次第ですが、ロボットを直接さわってグリグリと動かして、動作を教えることもできます。

速度が遅い、パワーがあまり出ないといった弱点はあるのですが、協働ロボットの利点は、ロボットのために大きな面積を割かなくてもいいところです。そのため、もともと機械がギッシリで広さにあまり余裕がない中小企業の工場や、これまでロボットを入れることが難しかった業界でも使われはじめています。

たとえば食品製造の現場などでは、朝と昼とで違うものを作っていることもあります。そんな現場では違う作業にロボットを回して別の作業をやらせられないと、元が取れません。協働ロボットは、そういう使い方に向いているロボットです。

今回の国際ロボット展でも、協働ロボットに対して、各社が本格的に力を注ぎ始めていることがうかがえました。先ほど紹介した各社がみなそれぞれの協働ロボットを開発し、販売しています。

たとえばファナックは、30kg、50kgを持てる緑色と白色の協働ロボットを販売しています。加工する機械に加工対象や材料をセットしたり下ろしたりする作業を「マシンテンディング」、段ボールを「パレット」に積んだりする作業を「パレタイズ」というのですが、そんな作業に使えるロボットです。

*画像

ファナックの協働ロボット。製造業だけでななく、ロボット導入の余地が多い食品分野への導入も期待されています。

協働ロボットを移動台車の上に載せて動かすことで、異なる作業ラインのあいだを繋ぐ使い方も各社が提案しています。特に今回は、半導体製造の後工程での搬送に、協働ロボットと移動台車を組み合わせるという提案が多かったように思います。未来の工場は、腕付きの移動ロボットがウロウロすることになると思われます。

 

協働ロボット専門会社は様々な用途を提案

いっぽう、協働ロボット専門の会社も成長中です。もともと、協働ロボット専門会社が伸びてきたからこそ、大手も負けじと共同ロボットを出してきた、といったほうが正確かもしれません。

協働ロボットでおおよそ半分と、大きなシェアを持っているのがデンマークのユニバーサルロボットという会社です。この創業者の一人はもともと日本でロボットの研究を行なっていました。ユニバーサルロボットは今回、本体の重さ63.5kgで30kgを持てる「UR30」という新機種を世界に先駆けて発表しました。先ほど紹介したようなマシンテンディングやパレタイズなど、人がやることは不可能ではありませんが、疲れる作業を自動化することに適したロボットです。

他にも高度なネジ締めや溶接なども行うことができます。人手不足を背景として、協働ロボットはどんどん用途を広げつつあります。

さらに強烈なライバルとして、中国製の協働ロボットも登場しています。協働ロボットは製造業だけでなく、サービスの現場でも使うことができます。AUBOというメーカーは完全防水の協働ロボットのほか、コーヒーを作って出したり、マッサージをしたりしていました。驚いたことにマッサージ用途だけでも既に数千台のロボットが出荷されているとのことです。お店にいくと、最初のセッティングは人ですが、その後はロボットがマッサージをしてくれるのです。ちなみに日本ではマッサージは医療機器としての認可が必要ですので、そのまま使うことはできません。

モジュールを組み合わせる合体ロボットも登場

協働ロボットにも色々あり、ベッコフオートメーションは、モジュール構造で、つまりブロックのように組み立てられるロボットを公開しました。「ATROロボットモジュール」という製品です。コネクタ付きのロボットモジュールを組み立てることで、使い道にあったロボットを設計し、実現できます。ロボットモジュールのなかには電力やデータ配線だけでなく、圧縮空気や水なども通すことができる配管も通っていて、各軸はグルグルと無限回転できます。合体ロボットというわけです。

同様のコンセプトは他社にも出しているところがありましたが、ベッコフは実際に目の前でバラバラの状態から組み立て、実際に動作を教えて動かすといったデモを行なっていました。ここまで簡単に動かせるモジュールは初めて見ました。

ちなみにベッコフは「ATRO」の他にも「Xplanar」という磁気浮遊型搬送システムも提案しています。タイル上部に磁界を発生させることで、完全非接触でグルグル回したり、ちょっと傾けたりしながら、ビーカーなどを運ぶことができます。これまでにない搬送システムで、みなさんのような柔軟な発想で、ユニークな使い方を考えてほしいとのことです。

格安の中国製ロボット

また今回、業界の人たちから注目されたのが中国 FAIRINO(ファーリーノ)という会社です。価格は50万円以下。ロボットの値段はだいたい「オープンプライス」ですので一概には言えないのですが、おおざっぱにいえば「ゼロ一個安い」と思っていいような価格で、多くの人が驚き、技術の世界は競争が厳しいことを実感していました。

値段が変わると使い方も変わりますし、会社のなかでの扱いも変わってきます。海外製のロボットはメンテナンスなどのアフターフォローや精度などに懸念があると言われることが多く、実際にそういう問題もあって、敬遠されていた時代もありました。しかし今後はますます、ロボット本体だけではなく、ロボットを使ってどのような課題を、どのように解決するのかという点が重要になりそうです。

もっとも、ロボット本体の性能あっての話です。そのために、ロボットのための重要な部品である減速機や各種センサー類も国際ロボット展では出展されています。結局は、全方位でがんばらないといけないわけです。

人工知能(AI)の活用

さて、もう一つの大きなトレンドは、やはり「AI」の活用です。ロボットと人工知能はとても相性がいいことは言うまでもありません。機械学習や認識技術を使うことで、ロボットは単なる決まった動作の繰り返し機械ではない、新たな機能、つまり状況に応じた「判断」ができるようになります。状況に応じて行動を「書き分ける」ことは、もちろん今でもできていますが、それは事前に想定していた状況に対してだけです。もっと柔軟に、様々な状況に対応できるようにしましょうという話です。

そうなるとどんなことができるでしょうか。たとえば、事前にプログラムされたもの以外にも、様々なモノをつかんで運んだりできます。これができるようになったのは意外と最近なのです。

たとえば、食器に残った残り物を見て、判断しながら食器洗い機に入れるといったこともできます。こういう画像を使った処理をさせようとすると従来はロボット制御用の他にもう一つパソコンが必要でしたが、安川電機が今回発表した「MOTOMAN NEXT」という新機種は、計算能力を大きく向上させることで、ロボットのコントローラーだけでできるようになりました。

障害物を避けたり、ロボット同士が互いを認識して動けるようになれば、自動でロボットがアームの軌道を計算してくれたり、ロボット同士がぶつからないように動けるようになりますので、ぎゅっとロボットをまとめて配置することもできます。

従来はロボットが扱うことが難しかった、ふにゃふにゃと変形する物体、透明な物体の操作のほか、粉や液体を測って別の容器に移すといった作業もできるようになりつつあります。

他にも、今までのロボットでは使われていなかった情報、たとえば、接触したときの力であるとか、ものが削れているときの音のような雑多な情報のなかには、実は豊かな情報が含まれていると考えられます。人間の職人さんのような多様な感覚を使って作業ができるロボットが将来はできるかもしれません。こういった話は、今後機会があれば、もっと詳しくこのコラムで触れたいと思います。

トラックからの荷下ろしもロボットがやる時代

物流分野でのロボットの活躍も期待されています。たとえば荷物を運んできたトラックからの荷下ろし作業は、ロボットが担えそうな作業の一つです。今の現場ではこの作業を人間がやっています。まだまだ「そんなことができないのか」と思うこともいっぱいありますが、ロボットの使い道は大きく広がりつつあるのです。


バーチャルでリアルを再現・予測する「デジタルツイン」


安川電機のブース。安川電機は以前からデジタルツインの考え方を推進しています

さらに、ものづくりの現場でしばらく前から流行っている考え方に「デジタルツイン」というものがあります。ロボットや各種製造設備、そこを流れていく材料、さらには、工場や倉庫の中で動く人間の動きなどを丸ごとデジタルの世界に取り込み、計算機で扱えるようにすることで、シミュレーションして先読みできるようになります。その技術を使えば、計画と現実の差がわかり、さらに、より適切に、必要な量の製品を必要なだけ作ったり、人をうまく助けることができます。


しばらく前からある考え方なのですが、2023年の「国際ロボット展」では、より現実的に、そしてより細かくなっていました。

また、そのための計算技術やシミュレーション技術を売りにする企業も国際ロボット展に出展した点が興味深かったです。この分野は今後も大きく伸びるはずです。

ロボットのための「手」や「指」も

産業用ロボットは一般的に「半完成品」と言われます。つまり、ロボットだけでは価値をうまない、未完成の製品だという意味です。たとえば腕の先には「手」を付けないと仕事はできません。溶接するなら溶接用、塗装するなら塗装用、磨くなら磨き用のハンドが必要ですし、それぞれにメーカーがあります。今回も多くのハンドメーカーがさまざまなロボット用の「手」を出展していました。

SMCの「弾性フィンガ」は、ゴムシートを使ったハンドです。むにゅっと変形して、対象にそって、なんでもつかむことができます。

このほか、センサー付きの「指」等を出していた会社もありました。ロボットが指を使って、色々なものが持てるようになる日も遠くはなさそうです。


力センサー付きの「黒ひげ危機一髪」対戦も


ロボットとの「黒ひげ危機一髪」対戦

エプソンは同社の持つ力覚センサをアピールするために、「黒ひげ危機一髪」というゲームで人間と対戦するというデモを行なっていました。もともとの「黒ひげ危機一髪」は複数の人が、剣をタルの穴に順番に刺していくゲームです。なかにあたりがあって、黒ひげ人形が飛んでしまうのですが、実は微妙に感触が違います。それでロボットと対戦するというゲームです。私も挑戦し、ロボットに圧勝しました。まだまだ感度も速度も人間のほうが上のようです。


筆者が一番上。ロボットに倍以上の時間差で圧勝しました

 

異彩を放つ川崎重工ブースと人機一体ブース

国際ロボット展は主に産業用ロボットの展示会なのですが、未来を感じさせる展示ももちろんあります。川崎重工は従来の産業用ロボットの枠を越えようとした展示に力を入れています。今回も既にビジネスになっている手術支援ロボットやPCR検査ロボットのほか、ヒューマノイド(人間型ロボット)のデモを行なっていました。

公開されたデモは3つ。ヒューマノイドロボット「Kaleido(カレイド)」が避難所で活躍する、という設定のデモと、東北大学に技術を提供して共同で開発中の「ロボティックニンバス」による歩行補助、そして国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)と共同で進めている「Kaleido Friends(カレイド・フレンズ)」による介護のお手伝いという設定のデモです。


そのすぐ横のブースでは、「人機一体」というスタートアップが大型の人型ロボットを使ったデモを行なっていました。同社の強みは力制御で、力を感じながらロボットを遠隔操作する技術を、各種ロボットを使ってアピールしていました。

今回は特に、複数のロボット同士でも道具や機材のやりとりができる様子を紹介していました。

 

ヒューマノイドでも中国の会社が存在感を発揮

ヒューマノイドを出展していたのは、日本の企業だけではありません。中国Unitree社は、日本の代理店TechShare社のブースで、ヒューマノイド「H1」を日本初公開。ドンドンと歩かせていました。主に研究用のプラットフォームとして販売されます。

同社のロボットの特徴は圧倒的な安定性です。日本のヒューマノイドには触ったりはできませんが、このロボットは腕を引っ張ったり、押したりすることもできました。意外とやわらかい感覚です。

ひたすら足踏みしていましたが、足踏みせずにバランスすることもできるように開発中だそうです。

さらに広がるロボットの可能性


ブリヂストンによるソフトロボティクスの体験型展示「umaru」。

このほか、人工筋肉を使った変わって展示も。ブリヂストンは「カラダ埋まり、ココロ動く」というテーマで、人工筋肉を使ったベッドに寝転ぶだけという変わった展示を行なっていました。

人工筋肉本体もぶら下げられていて、多くの人がニギニギしていたのが印象的でした。もちろん私もニギニギしました。手の中で硬くなったり柔らかくなったりします。

パナソニックの「cocoropa(ココロパ)」というロボットは、離れて暮らす家族をゆるやかにつなげるためのロボットです。片方のロボットを動かすと、別の場所にあるロボットがその動きをします。それによって、遠く離れたところに住んでいる家族同士であっても、たがいの存在感をなんとなく感じるためのロボットです。

このように、ロボットにはガンガン仕事をする、仕事を助けるといったものとはちょっと違う可能性もあります。皆さんはもっともっと新しいロボットの可能性を切り拓いてください。


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