森山 和道

介護への期待

ロボットに期待することについて、一般の人にアンケートをとると、たいてい、「介護」分野への期待が上位に来ます。
人は誰しも老いるもの。いつかは、みんなたどる道です。また、若くても事故や病気で体が自由に動かなくなることは決して珍しいことではありません。いつ何が起こってもおかしくないのです。
私自身も引き逃げにあったことがあります。車にはねとばされ、気絶して救急車で運ばれました。幸い、大事には至りませんでしたが、運が良くなかったら、どうかなっていてもおかしくありませんでした。
何かあったとき、ロボットの力を借りて、ある程度、自由に暮らせるようになれば…。誰しもが持つ、当然の期待です。
ただ、介護は人に直接接する領域です。技術的にも社会的にも、とても難しい課題があります。

パーソナルモビリティとしての電動車椅子

こちらでは「介護」といっても狭くとらえず、広く見ていくことにしましょう。
足腰が不自由になったとき、使うものは車椅子です。車椅子は人力だけで扱うものもありますが、最近はモーターを使って車輪を回す、電動車椅子も多く見かけるようになりました。
電動車椅子はモーターとバッテリーを搭載するため、重たいのが欠点です。デザイン上も、どうしてもゴツくなりがちでした。
ですが今は折り畳めるものもありますし、デザインも優れた電動車椅子が出始めています。「WHILL(ウィル)」という会社のものがよく知られています。彼ら自身は「電動車椅子」ではなく、「パーソナルモビリティ」、つまり個人向けの乗り物と位置付けています。

一言で「足腰が悪い」といっても、「頑張れば歩けなくもない」くらいのレベルから、「まったく動かすことができない」ものまで、だいぶ幅があります。
健康な人であっても、長距離であれば座っているほうが楽ちんですから、「新しい移動サービス」「近距離モビリティ」として使えれば、用途が広がり、普及台数も増え、結果的に全体の製造コストも下がります。


たとえばパナソニックはWHILLの車椅子を使って、一種のツアーに使うといった用途を提案しています。電動車椅子といっても、自分で操作しなければならないとは限りません。自動で動かしてもいいのです。遊園地のライドのようなものですね。


実際にこういうものに乗ると、車椅子に乗っている人の視点を感じることもできます。視点の高さ、どんな段差で困るのかといったこともわかります。貸し出しサービスもありますので、機会があれば乗ってみるといいと思います。何事も体験です。


ちなみに、この「WHILL」の台車部分は様々な地面での「踏破性」が高いことがこれまでに明らかになっているため、しばしば、他社の屋外移動ロボットの台車としても使われています。屋外移動ロボットが出てきたときは、足回りをよく見てみると面白いかもしれません。

自分の意思で自分が行きたいところに行く喜びを知ってもらう

電動車椅子は、東京都心ではしばしば見かけますが、地方に行くとあまり見かけなくなります。地方の高齢化率は高いので、ニーズがないわけではないでしょう。何らかの社会的理由で使用が抑制されているのかもしれません。このように、技術単独では解決できない問題もあります。
大手メーカーでエンジニアをしている「おぎモトキ」さんという方がいます。「おぎモトキ」さんは、市販の電動車椅子を改良して、「子供用成長支援モビリティ ToMo-bility」というモビリティを作っています。「重度障害(脳性麻痺)を持つ子供が「自分の意志で動ける」 楽しさを見つける」ことを目的とした自作のモビリティです。

電動車椅子は誰でも座れるわけではありません。上半身を支えることができない方もいらっしゃるからです。ジョイスティック操作も同じです。誰でも扱えるわけではありません。
「おぎモトキ」さんは、まずは息子さんに「自分で操作する」という体験をしてもらうことから始めたそうです。詳細はこちらにありますのでご覧ください。

自分の意思で、自分の行きたいところに動いていく。その喜びまずは気づいてもらうことが重要です。そこから始めなければならない開発もあるのです。

施設での「移乗」支援

介護ロボットと聞いて、多くの人が想像するロボットは、人を抱き抱えて運ぶようなロボットでしょうか。そういう研究も、以前から行われています。
ただ、なかなか実際に使われるレベルには至っていません。理由は、値段が高いわりにあまりに大きすぎ、扱いが難しく、しかも動作がゆっくりだからです。
ある程度、実用的なロボットも出てきてはいます。ベッドから車椅子へ、車椅子からトイレ、またはベッドへと「移乗(いじょう、乗り移ること)」を助けるためのロボットです。

人を抱き抱えて「移乗」させるのは、かなりの重労働です。腰に負担がかかります。こういう道具を使うことで、介護する人の負担を下げることができるのです。
空気圧人工筋肉やゴム等を使って腰をサポートするタイプの「アシストスーツ」も同様の目的の器具です。電動で動く「アクティブタイプ」だけでなく、電力を必要としない「パッシブタイプ」もあります。使い方次第です。

このように、介護ロボットは、「使う側」を助けるものと、「介護する側」を助けるものに分けられます。このほか、トイレやお風呂を助けるためのロボットも開発されています。

施設での見守りセンサーや情報システム

様々な機器があるのですが、実際に、介護施設でよく用いられている「ロボット」は、施設に入所している人を見守るための「見守りセンサー」です。
カメラやミリ波レーダー、あるいは圧力など、各種センシング技術などを使って、人がベッドから離れたり、床で倒れたりしたことを検知するのです。
センサーですので、いわゆる「ロボット」っぽいかたちはしていません。ベッドマットの下に敷く圧力センサーの場合は、姿も見えません。ですがこれらも「介護ロボット」とまとめて呼ばれています。

他にも介護施設で働いている人たちを助けるものには、入所している高齢者の情報をまとめたり、その「申し送り」と言われる伝達を助けるための情報システムもあります。介護するスタッフを適切に配置する「シフト表」を作る手助けをするソフトウェアもあります。
これらのシステムを使うことで、少しでも時間的・精神的余裕を生み出して、介護される人たちの環境を良くすることが目的です。
介護の領域は工場と違って、ロボット向きの環境ではありませんし、ロボットを動かすために整理しなおすことも困難です。現時点の技術では姿かたちのないシステムのほうが現場の人たちの仕事を助けることができるのです。

孤独を癒すためのロボット

このほか、家庭で一人で暮らしているお年寄りを見守ることを主な目的としたロボットもいくつかあります。薬を飲むタイミングなども教えてくれるだけでなく、ちょっとした雑談の相手もしてくれるようなロボットもあります。一人きりがつらい人には必要な機能です。

オリィ研究所のように、ロボット技術を使うことで、孤独をなくすことを掲げて事業に取り組んでいる会社もあります。彼らは遠隔操作可能なロボットを使って、何らかの理由で外出が難しい人たちの就労機会(働ける機会)を増やすことを目指しています。

東京・日本橋では『分身ロボットカフェ DAWN ver.β』が運営されています。ロボットを使って「遠隔接客」してくれます。お値段は結構するのですが、機会があれば、足を運んでみてください。