森山 和道


トマト収穫を手伝うロボット(画像生成AI「Bing Image Creator」で制作)

突然ですが、今日はどんなものを食べましたか? 何にせよ、食べ物は誰かが作っています。お肉のもとになる家畜は畜産農家が育て、野菜や果物は農家が作っています。農業です。そしてこのコラムの第3回で触れた「物流」を経て、一般のお店に並び、皆さんあるいは家族が買い物をして、料理をして、食卓に並ぶわけです。

ところで、いま農業に携わっている方々、つまり農家の方々はどんな方だと思いますか。いろいろな見方がありますが、農林水産省の統計によると、2022年の農業従事者の平均年齢は、68.4歳。つまり、多くがお年寄りです。

いまの日本では、皆さんのような若者の割合が少なく、高齢者が多くなっている、いわゆる「少子高齢化」問題があることは皆さんも聞いたことがあるでしょう。その問題が一番現れている分野が農業なのです。


農業従事者数と、うち65歳以上の推移。全体が徐々に減る一方、65歳以上割合が増え全体の7割に達している。
(農林水産省 農業労働力に関する統計 https://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/08.html から作成)

何度も言いますが、平均年齢が68.4歳なのです。皆さんのおじいさん、おばあさんよりも上の年齢かもしれませんね。そういう方々が作物を育てているところを想像してみてください。農業はけっこう大変な作業を、しかも長時間行わなければなりません。でもできないものはできませんので、仕事のやり方も変わらざるを得ません。すでに以前とは育てる作物を変えた人も多いことでしょう。

人口動態は予測できますので「やがてそうなるだろう」ということは以前から明らかでした。しかし、そんな訳知り顔をしていても話になりません。農業は、どの国にとっても明らかに最重要の産業の一つです。なんとかしなければなりません。

当然、国もいろいろなことをやってきました。その是非は他の何かで勉強していただくとして、ここではロボットの話をしましょう。そう、ロボットは人を助けることができるはずです。

稲作でのロボット技術

まず、主食であるお米はどうでしょうか。耕したり、田植えや稲刈りでは機械を使うことで、だいぶ省力化されていることは皆さんもなんとなく知っていると思います。

ただ、今はまだ人が乗って運転していますね。それを自動走行させる技術はすでにあります。

また、先に申し上げたように、農業は高齢化し、人手も後継者も減っていますので、徐々に集約されています。それを「担い手農家」と言ったりするのですが、そのぶん担い手は大面積を作業しないといけません。

そこで、ロボットで助けられないかという話が出てきています。つまり自動運転の田植え機や、自動運転コンバインの出番です。

まっすぐ刈るのはもちろん、しっかり刈らないといけないところはじっくり刈ると、熟練した農家の人たちと同じように刈れるそうです。

田んぼは正方形や直方形だけではありません。変わったかたちの田んぼもあります。そういうかたちにもちゃんと対応できます。

こういうロボットが本格的になると、将来は運転席がいらなくなるかもしれません。そうすると、設計自体が変わってきます。

いまの農機は運転席がある前提で作られていますから、だいぶ上に重心があります。そのため転倒する事故がときどき起きています。運転席がない農機が当たり前になったら、少なくとも転倒に巻き込まれる事故はなくなります。何しろ人が乗っていないのですから当たり前ですが、そもそも転倒もしにくくできるでしょう。

自動化を進めると、こんなふうに、単に「人手がいらなくなる」だけではない効果も出てくるのです。「波及効果」といわれるものです。

他にも色々とロボットや自動機械を使える部分は多いはずですし、自動化技術が使われれば使われるほど、今は想像もされていないような効果も出てくるのではないかと思います。

トマト農業でのロボット活用

野菜での例もご紹介します。ロボット活用の事例として多いのがトマトです。トマトの収穫そのほかにロボットを使おうという試みです。

なぜトマトか。まず、実が赤くて緑の葉っぱとは区別がつきやすいことがあります。次に、トマトには色々な種類があるのですが、一部の種類は実のついた房がロボットでも収穫がしやすいのです。たとえば「中玉」のトマトですと、房の一番上をパチンと切ると、それだけでバサっとトマトを採ることができます。

ただ、房をどういうかたちで収穫するかは農場次第で異なります。トマトを持って、ヘタが取れるように収穫するタイプもあります。

ただそれ以前に、トマトはもともと機械の導入が進んでいるということがあります。特に「ハウス栽培」されているトマト農場はすごいです。

トマトは様々な用途に使える野菜です。生でも食べられますし、加熱調理もでき、さらには加工することもできます。使い道がいろいろあるため、需要変動が吸収できます。ですから大規模に栽培・収穫することができます。


大きな農園は東京ドームの倍くらいの大きさがあります。そこで数十万本のトマトが栽培され、どんどん出荷されています。まさに植物工場です。

これだけの規模ですので、各種センサーも使ってハウスのなかの温度湿度、土の代わりとなる培地の水分含有量などはもちろん、トマト収穫や面倒を見る方法も含めて、ものすごくシステマチックに作られています。作業台車を動かすためのレールも、元々あります。ロボット導入前に、そもそも、現場が整えられているのです。

ですから、ロボットも導入しやすく、活用されやすいのです。もちろん、ロボットに十分な性能があれば、の話ですが。

ロボットができることは収穫だけではありません。不要となった葉っぱを運んだりする作業にロボットを使っている農園もあります。

このほか、収穫したあとの選別作業にロボットを使っている例もあります。どの作物でも同じですが、農家で収穫された作物は「選果場」に送られて選別されて、箱詰めされます。その作業をロボットや自動機械を使って行うのです。今は多くの現場で人手が使われていますが、徐々にできるところから自動化されています。

ロボットがメリットを出しやすいのは大規模な農場ですが、もっともっと広く使われて当たり前になってくると値段も下がってきますので、もっと小規模なハウス農業でもロボットが使われる可能性はあります。

自分でも育てて実感してみよう

代表例としてトマトを挙げました。他にも色々な作物の栽培や収穫にロボットを使う試みが続けられています。どんな作業ならロボットが使えそうか、あるいは、どんなかたちの栽培方法ならロボットが使えそうか、考えてみると、新たな事業が生み出せるかもしません。

野菜や果物はスーパーで買うものだと思っている人が多いでしょう。また中学生や高校生なら家族と住んでいる人が多いでしょうから、自分では料理どころか、買い物もしない人もいるかもしれませんね。

ですが、他のものと同様、食べものも多くの人の手を経由して、私たちの食卓に上がっています。そう思うと自然に「いただきます」という気分になります。

ところで、皆さんは何か植物を育てていますか。野菜はどうでしょうか。トマトやピーマンはとても育てやすい植物です。もちろん、育てたものは食べられます。

もし、育てたことがないのであれば、ぜひ一度、やってみてください。勉強や部活で忙しいかもしれませんが、良い経験になることは確実です。毎日育って大きくなりますので、とても楽しいですよ。