森山 和道

ロボットとは、感じ、考えて、動く機械

ここまで「ロボット」とは何か、ということを、特に定義せずに話を進めてきました。工学の世界ではロボットとは一般的に、環境情報をセンシングして、動作計画をプランニングし、実行する機械とされています。

つまり「感じて、考えて、動く」機械。それがロボットです。

もっとも、こういう定義ですと、いろんなものが「ロボット」になってしまいます。たとえば、自動ドアもロボットということになります。実際に、中にはそういう話をする先生もいらっしゃいます。

でも、実際には自動ドアをロボットと呼ぶ人はいません。自動ドアは自動ドアです。いっぽう、産業用ロボットのなかには、実際には決まり切った動作を繰り返し実行しているだけのものもあります。また、アニメや漫画に出てくるような巨大人型機械を見たら、みんな「ロボット」というでしょう。

つまり言葉というのは、実のところ一定の広がりを持っています。逆に言えば、だからこそ「定義」することで、もやもやとした概念を統一して扱ったりするわけです。

「ロボット」という言葉のイメージは広がり続ける

ただ、定義を大事にすることは重要ですが、定義に縛られすぎないことも、また重要かもしれません。

「ロボット」の話に戻りますが、「ロボット」という言葉は、多くの人が何の気なしに使う日常的な言葉であると同時に、学術的、あるいは産業界的な言葉でもあります。そのため、「ロボット」と言ったときに何を指しているのかは人によって異なることがあります。同じような仲間内で話をしている間なら自然と共通認識ができているでしょうが、より広く、色々な背景を持った人たちと話をするときには、概念のすり合わせはとても重要です。

だからあやふやな言葉をあやふやなまま使うべきではないという意見もあります。ですが今、ロボットは徐々に工場の外に出て、広く活用されつつあります。今は想像できていないような使われ方をする可能性も大いにあります。むしろ、今はまだ存在しない用途を考えることこそ、皆さんの仕事になるかもしれません。

一般社会で使われるにしたがって「ロボットとはこういうものだ」という概念も、まだまだ変わっていくのではないかなあと私は思っています。そのような広がりを持っているところが、ロボットという技術の面白いところだと思うのです。

ロボットが道路を監視者なしで走れるように

ロボットが活躍する場は、道路にも広がりはじめています。道路を通るものの安全を守るための法律を「道路交通法」と言います。今年(2023年)の4月に道路交通法が改正されました。これにより、ロボットが歩道を歩行者のように動けるようになりました。

想定されているのは、ネットスーパーや宅配ピザ屋さんら、つまり「配送」業務です。まとめて「配送ロボット」と呼ばれています。今はバイクや軽トラを使って人が行っている配送業務の一部を、ロボットにやらせられないかというわけです。

配送ロボットの大きさは電動車椅子程度(長さ120cm、幅70cm、高さ120cm)で、走行速度も時速6km以下と規定されています。歩行者と同じルールを守ることで、歩道や路側帯(道路の端の白い線の内側)、また歩道と車道の区別がない道路では右側を走行できるようになりました。もちろんロボットは歩行者には道を譲らなければなりません。

これまでも実験は行われていたのですが、これまでは、人が後ろをついていなければいけませんでした。注意深い読者の方なら、配送ロボットの実験のニュース映像などを見て、報道陣のほか、後ろで大きなボタンみたいなものを持って見守っている人の姿に気づいた人もいるかもしれません。あの人が必要なくなったのです。


正確にいうと、その場で見守らなくてもいいよ、遠隔操作で見守ればいいよということになったのが今回の道路交通法の改正です。

遠隔操作にすると何が良いのでしょうか。ロボットの機能とAIを使うことで、一人が一台を見るのではなく、一人が複数のロボットを同時に見守ることができます。「1:1」「1:n」といった言い方もします。これによって効率の良い運用が可能です。ロボット運用台数が増えれば増えるほど、このメリットは大きくなります。

多様な人が行き交う道路でのロボットのふるまい方


ロボットにはレーザーなど各種センサーがあり、事前に作った3次元マップやGPSもあります。ほぼ、自動・自律で目標地点まで走行しますが、予想できない「不測の事態」は、いつでも起こりえます。そもそもロボットには判断しづらい状況もありますし、ルールで全部書くのは難しい場合もあります。

たとえば障害物を検知したら、緊急停止するとします。止まるだけなら難しくはありません。しかし、人や自動車が行き交う道路上では「どこだろうが止まればいい」というわけではありません。

安全第一とはいえ、「ここで止まられると困るよ」という状況もあります。道路というのは、単なる通路ではなく、いろいろな使われ方をしている空間です。

たとえば一時的な荷下ろしとか、立ち話している人がいたりだとか、「ランチやってます」といった立て看板が出たり出なかったりといったいろんな状況があります。

他にも、いちいち考え始めるときりがない状況があり得るのです。それら全てをルール化して書き下すことは現実的には不可能です。だったら、必要に応じて人間が遠隔操作したほうがいい、という考え方で運用されるのが基本となっています。人間なら、柔軟に判断できるからです。人間は悪く言えば「いい加減」、良く言えば「臨機応変」「いい感じ」に判断できるのです。

必要であればマイクとスピーカを使って、周辺にいる人たちに呼びかけることもできます。「すいませーん」と一言いうだけで、まわりの人たちの印象は変わるはずです。「このロボット、いったい何がしたいかわからない」、という状況を避けることが大事です。配送ロボットにウインカーや「顔」がついているデザインが多い理由も、その辺にあります。

ロボットの拠点や遠隔操作拠点はどこに?

まとめると、ロボットの用途に「人手不足への対応」という話がよく出てきます。ですが、遠隔操作だろうが近くでの見守りだろうが、ロボット一台に一人が必要なら、その分の人は必要ですので削ることはできません。それが変わりますよということです。

遠隔から操作する場合は、遠隔操作のセンターや、ロボットの拠点をどこに置くかという議論も必要です。一部の会社は、サービスステーション(ガソリンスタンド)を拠点にしようと検討中です。


ロボットを社会に普及させるためには自律移動のための技術はもちろんですが、それは前提に過ぎず、法律やルール、マナーや社会の習慣など、他にもいろいろな要素があることを感じて頂ければと思います。

ビル内設備との連携も

この遠隔操作の配送ロボットですが、走れるのは公道だけではありません。マンションのなかに乗り込むのはまだまだ難しいですが、オフィスビルのなかまで入り込むことは想定されていて、いろんな試みが続いています。オフィスビルのなかは広いので、もともと、様々な郵便物や配送物を各フロアのオフィスまで届ける作業があります。それをロボットにやらせるのです。

また、ホテルでは大量のベッドシーツやタオルを毎日交換しています。ビュッフェや宴会を行えば大量のお皿も運んだり片付けたりしなければなりません。いまは全部人がやっていますが、それらを運ぶことにもロボットは使えることは間違いありません。


建物のなかはGPSが使えませんので、事前に制作した地図とカメラや各種センサーなどを使って動くことになります。でもそれだけでは足りませんので、通路の曲がり角に、ちょっとしたマーカーを設置するといった試みも始まっています。人用の案内版の代わりみたいなものですね。

ロボットが行える作業は物運びだけではありません。掃除や点検もロボットの役割です。

いま東京や大阪では大型のビルが建てられていますが、いま作られている大型ビルでは、最初からロボットをある程度使うことが想定されています。エレベーターやセキュリティドアなど、ビル全体の様々な設備を管理する仕組みのなかに、ロボットも組み込まれることで、ビル全体、ひいては、町全体を賢く運用することが期待されています。