山田 ふしぎ


(©京都大学)

ただ今、京都大学では木造の人工衛星を開発中!

「えっ?! 人工衛星って木で作れるの?? (;゚ロ゚)」
このビックリな衛星作りに着手しているのは、土井隆雄先生(京都大学大学院総合生存学館特定教授)をリーダーとする京都大学と住友林業株式会社だ。
実は、土井先生は宇宙飛行士。
宇宙に2回行き、さらに望遠鏡で超新星を2つも発見した宇宙のスペシャリストなんだ。


土井 隆雄先生 (©NASA)

 

なぜ、木で作る必要があるの?

地球の周りには、たくさんの人工衛星が回っている。
2022年だけでも、2368機の人工衛星が打ち上げられた。
実は人工衛星の多くの部分には、アルミニウム合金が使われている。
宇宙空間は、温度変化が激しいし、宇宙放射線や太陽からの紫外線や高エネルギー粒子などが飛び交っている。
アルミニウムは、この過酷な宇宙環境に長期間耐えられる物質なんだ。

また、人工衛星はロケットで打ち上げるため、材料は丈夫で軽いものが適している。
アルミニウムは「軽くて、加工しやすくて、値段もお手頃」だ。
しかーし! アルミニウムには大きな欠点があった。
人工衛星は役割が終わると、地球の大気圏に突入して燃え尽きるんだけど・・・。
ここで大問題が起こる!
アルミニウムは大気圏突入時に3000℃以上に加熱され、酸素がくっついて、アルミナという微粒子になる。そして、大気圏に40年くらい浮遊するんだ。
人工衛星が燃え尽きるたびに、大気圏中のアルミナはどんどん増えていく。
やがて大量のアルミナは、太陽光を反射し、地球に寒冷化などの異常気象をまねくことになるんだ。
「じゃあ、人工衛星を飛ばさなきゃいい!」と思うかもしれないけど、人工衛星がないと、海や地形などの地球の変化、天気、そして位置情報や正しい時刻もわからなくなる。その結果、カーナビ、天気予報、スマホも使えなくなる・・・。
人工衛星はぼくらの生活にはかかせないものなので、今後もどんどん増えて行く予定なんだ。

 

こりゃ大変!!

そこで、土井先生は木で人工衛星を作ることを思いついた。
土井先生は言う。

土井先生は仲間を集め、人工衛星の材料に木が適していることを証明するため、2018年、木造人工衛星の開発をスタートした。
人工衛星名はLignoSat(リグノサット)。
Ligno(ラテン語で木材の意味)とSatellite(人工衛星)から作った造語だ。

 

木は宇宙で耐えられるか?

まず地上で、真空にした容器にさまざまな木材を入れて、4年間実験した。
すると、ほとんど変化がなく、木は真空に強いことがわかった。
そこで、ヤマザクラ、ホオノキ、ダケカンバを選び、2022年3月から約10ヶ月間、国際宇宙ステーション(略してISS)の船外で、宇宙空間にそれらを放置して、変化を調べてみた。
その結果、どの木も割れたりゆがんだりせず、宇宙で耐えられることが明らかになったんだ。


ISSでの実験の様子 (©NASA)

木造人工衛星1号機には、加工しやすく、強度のあるホオノキを使用することに決めた。
木造人工衛星(LignoSat) 1号機は、2024年に打ち上げ予定だ。 


木造人工衛星(LignoSat) 1号機は、1辺が約10cmの超小型人工衛星だ!(©京都大学)
木造人工衛星(LignoSat) 1号機のイメージ動画(©京都大学)

 

 火星に森を作る

かつて、人類は木の船で海を渡り、世界中に広がった。
土井先生は木製の宇宙船に、植物のタネを積んで、火星を目指したいと願っている。
火星には二酸化炭素の大気(地球の1/100気圧)があるので、火星で木を育てることができるかもしれない。
木は酸素を作り、やがて森が生まれ、人間の社会が誕生する・・・。
それを実現するため、京都大学では、植物がどのくらいの低い圧力で成長できるか実験中だ。
人の顔や体格がそれぞれ違うように、生物には、さまざまな個性がある。
ということは、火星の環境に耐えられる植物が見つかるかも。

人類が火星に船出する日は、そう遠くないかもしれないね!

LignoSat開発の詳しい様子はこちらでチェック!!
京大宇宙木材プロジェクト
https://twitter.com/spaceKUwood


火星(地球の1/100気圧)で木を育てる方法を発見するため、圧力を低くした容器の中に植物(ポプラの苗)を入れ、生育状況を調べている。

土井先生と植物実験担当の中村くん(京都大学3年生)