4.学科&研究室紹介 

学科紹介

 金沢大学工学部人間・機械工学科は,1996年に機械システム工学科が改組されると同時に新設された新しい学科です.

 近年の技術の高度化は,人間生活に物質的な豊かさをもたらしましたが,その一方では,効率・性能重視の考えは時には個々の人間性を喪失させ,環境問題,資源枯問題,資源枯渇などさまざまな社会問題を引き起こしていると言えます。人間・機械工学科は,科学技術において実践的かつ基盤的な分野に位置づけられる機械工学にあって,「人間と適合する技術」,「人間の集団である社会と共生する技術」,「人間を取り巻く自然と調和する技術」の3つの技術を,21世紀の技術の重要なコンセプトとして捉え,一部に社会・人文科学を取り込んだ教育研究体制のもとで,新しい視点をもった有用な人材を育成することを目的としています。

 本学科の教育と研究分野の構成は,材料・環境,バイオニックデザイン,生産システム,人間支援システム,エネルギー・自然および技術・人間社会の6大講座と9研究室よりなります。1999年7月現在で,教授12,助教授・講師11,助手5,技術職員5,事務職員2のスタッフで構成されています.以下に簡単に各講座の紹介をしましょう.

●材料・環境講座では,材料の利用と人間社会や環境との関係に注目しながら,材料の特性,加工,開発などについての教育研究を行っています.

●バイオニックデザイン講座では,力学的解析を基礎として,人間の機能的諸特性および人間性に適応した機械の設計に関わる教育研究を中心に行っています.

●生産システム講座では,基礎加工学,機械加工学,生産システムを中心に,人に優しく自然との調和を考慮した物造りの方法を目指した研究教育

●人間支援システム講座では,人間適応性を考慮した機械システムの制御理論,生体を対象とした計測機器の開発,それらの福祉・生活支援への応用などに関する教育 研究,および機械システムの振動・騒音などの動的解析とダイナミックス的視点からの人間と機械的環境との適合化等に関する教育研究を行っています.

●エネルギー・自然講座では,エネルギー変換工学,流体力学,輸送現象論および関連の機器学を基礎とし,主として自然と人間が協調するエネルギー利用の在り方に関わる教育研究を行っています.

●技術・人間社会講座は,科学技術史,製造者責任,人間行動学,技術倫理などの学際的な内容を教育研究の中心にしております.

 以上のような構成で,各講座・研究室が互いに協力しながら世界に一つしかないユニークな学科として特徴ある研究と教育を実施すべく日夜励んでおります.(写真は当学科の米山猛氏によって開発されたスキーロボットです.)




研究室紹介

東京工業大学・大学院・情報理工学研究科

伊能 教夫 

〒152-8552 東京都目黒区大岡山2-12-1

Tel: 03-5734-2642 

E-mail: inou@mei.titech.ac.jp

「骨体の個体別モデリング手法」

 私の研究室では,顎の骨を力学的観点から調べることを研究テーマの一つとしています.研究を始めた頃は,顎骨に特別な関心があったわけではありませんが,調べてみると工学的に見ても興味深い点が多く,今年で14年目になる研究になっています.また,6年前から脊椎骨も研究対象としています.その間,どんな新しい研究成果が出たのかと問われると返答に苦しいですが,ここでは,骨体の個体別モデリング手法について少し紹介致します.

 骨の力学的特徴を調べるためには,できるだけ正確な骨体の有限要素モデルを作成する必要があります.個体別モデリングでは,X線CT画像から対象者自身の骨体の有限要素モデルを生成することを目指しています.これによって,非侵襲で患者の骨の力学状態が把握可能になることを期待しています.骨体のモデリング手法は,他の研究グループも含めてこれまでにいくつか提案されていますが,私の研究室では,4面体要素を基準にした手法を検討しています.モデリング手法の説明は省略しますが,下図は人の下顎骨と脊椎骨に適用した結果です.この手法を用いて,下顎骨については,顎運動と咬合時の応力分布が同時に表示可能なシステムを,脊椎骨については,骨体を構造力学的に診断する骨体強度評価システムを実現したいと考えています.




兵庫県立総合リハビリテーションセンター福祉のまちづくり工学研究所

主任研究員兼研究第四課長・中川昭夫

〒651-2181 神戸市西区曙町1070

Tel: 078-925-9283 , Fax: 078-925-9284

E-mail: nakagawa@assistech.hwc.or.jp

「障害者や高齢障害者の社会参加支援」

 障害者や障害を持つ高齢者が社会参加するためには、工学的な観点からなにをなすべきか。このような命題のもとに、身体の障害を補う義手、義足や装具等の補装具、生活を補う福祉機器から住宅、社会参加に必要な公共建築、都市計画、公共交通、公共空間での視覚障害や聴覚障害者への情報提供等に至る幅広い領域の課題について、研究テーマを設定し、それぞれのテーマが有機的なつながりをもつことが可能なように研究を進めています。リハビリテーションセンター内の病院、重度身体障害者更正援護施設、特別養護老人ホームや身体障害者体育館などと協力することで、臨床の現場でのニーズをつかみ、高齢者や障害者の生活に役立つことをめざして研究を行っています。大腿義足の膝継手にコンピュータを取り入れてインテリジェント化することで、義足使用者の生活範囲を大きく広げることができた経験から、福祉機器をメカトロ化することで、様々な機能の拡張が可能になるものと考えています。このような観点から、股義足のインテリジェント化や、NEDOの委託研究による、一定速度以上になればER流体を使用したブレーキが自動的に働いて転倒を防止する歩行器なども開発しています。また、神戸製鋼所の協力を得て、東南アジア等で使用されることを前提とした、低価格の義足部品の開発なども行ってきています。

(インテリジェントキャスター付き歩行器の試作(電線はなくなりますよ))




工業技術院・機械技術研究所・基礎技術部・バイオミメティクス研究室

西田正浩

〒305-8564  茨城県つくば市並木1-2

Tel: 0298-58-7177, Fax: 0298-58-7291

E-mail: nishida@mel.go.jp

「人工臓器に関する材料・デバイス・システムの創製」

 

 私たちの研究室のメインテーマは,1)体内埋込み型人工心臓システムの研究,および2)生体材料の開発および評価法の標準化です.1)心移植を必要とする重篤な心疾患患者に対し,ドナー不足となりがちな中,心移植の代替となるものが人工心臓です.長期使用を要する患者には拘束や感染を防ぐために体内埋込み型である必要がありますが,日本人の体形に合うためには,小型化および高効率化を必要とし,同時に血液適合性,生体適合性を最良にする必要があります.当研究室では,一点磁気支持型人工心臓を提案し,駆動機構の検討,流れの可視化定量解析・血液試験・模擬血液試験による血液適合性の評価,耐久性の評価などを通し,日々開発を行っています.2)インプラントの長期埋込みにより人体への影響として現れる局所的な壊死あるいは溶出物による障害などを防ぐための生体用チタン合金を提案し,細胞適合性試験,耐食性試験および力学特性試験などによる評価・検討を行っていま.また,民間企業が有する生体材料の技術を活用し,工業標準化に必要な試験法を整備することにより,標準化を加速させる取り組みを行っています.研究室のホームページ(http://www.mel.go.jp/)も是非ご覧下さい.

(西田: 後列右端)




神戸大学・工学部・機械工学科・固体力学研究室

助教授・安達泰治

〒657-8501 神戸市灘区六甲台町1-1

Tel: 078-803-6130

E-mail: adachi@mech.kobe-u.ac.jp

「骨のリモデリングによる適応のバイオメカニクス」

 生体組織である骨が,リモデリングにより内部構造や外部形状を力学環境に応じて機能的に適応させる「成長・修復する固体」であることに興味を持ち,これまで固体力学の観点から骨の適応のバイオメカニクスに関する研究を進めてきました.

 固体力学の対象とする材料の範囲が,金属材料だけでなくセラミックス・ポリマーから,適応的に変化する「生きた固体」へと広げられたわけです.骨のリモデリングによる適応のバイオメカニクスとして,計算力学的手法を駆使したリモデリングによる海綿骨の三次元形態変化シミュレーションを行っており,海綿骨の骨梁構造変化と力学的機能変化との関連について検討しています.一方では,リモデリングによる海綿骨の三次元形態変化シミュレーションを行っており,海綿骨の骨梁構造変化と力学的機能変化との関連について検討しています.一方では,リモデリングを担う骨の細胞の活動に及ぼす細胞レベルでの力学刺激の影響を探るin vitroの実験を進めています.いずれもリモデリングによる力学的適応のメカニズムの解明に興味を持つだけでなく,今後の応用も含めた研究を展開していきたいと考えています.また,バイオメカニクスの他にも様々な固体材料のマクロ・マイクロスコピックな力学挙動に関する研究を行っておりますので,ぜひ研究室の詳細(http://solid.mech.kobe-u.ac.jp/)をご覧下さい.

(安達: 後列右端)



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