この度、バイオエンジニアリング部門の「瀬口賞」を頂き、誠に光栄に存じます。これも、研究、生活でお世話になった多くの方々のお陰と感謝しております。また、ご推薦して頂きました大阪大学の田中正夫先生には、この場を借りて、厚くお礼を申し上げます。
さて、私がバイオエンジニアリングという分野を知ったのは、大学4年生の研究室配属で松崎雄嗣教授の研究室に入る時でした。その当時、松本健志先生(田中先生とともに第1回瀬口賞受賞、現川崎医科大学)が、修士2年に在籍しておられました。研究テーマは、松本先生と同じく、血管や気管などの柔らかい生体管とその内部の流体との相互作用により引起こされる現象の解明、すなわち、コラプシブルチューブの解析を頂きました。博士課程では、コラプシブルチュープの応用として、声帯の振動を考えた音声の生成に関する研究を行いました。
これらの研究は大変興味深く、その成果が実際に臨床にも応用できればと思っておりました。そんな折り、藤田学園保健衛生大学の岩田重信病院長(残念ながら昨年の11月に逝去されました。)から、事故で声帯を傷め、声が出なくなった患者さんが面接試験に臨むための応急処置として、彼の喉頭にチューブを挿入し、それよって声帯の替わりをさせた結果、会話には支障がない程度の声が出るようなり、大変感謝されたというお話を聞きました。その際、この処置は、以前、先生に紹介した我々のコラプシブルチューブの研究からヒントを得たと知らされました。我々の研究が直接的ではないにしろ、臨床の役に立っていることを知り、大変感激すると同時に、研究について、現場の医師と意見交換することの重要性を実感いたしました。
また、工業技術院機械技術研究所におりました2年4ヶ月の間は、立石哲也先生、山根隆志先生のご指導を受けるとともに、完全置換型人工心臓の研究開発プロジェクトの立ち上げに参加することができました。研究所での研究生活やプロジェクトの立ち上げ方など大いに勉強になりました。
以上のように、これまで、指導者、先輩、研究テーマなどに大変恵まれていたことが改めて感じられます。
最後に、日本におけるバイオメカニクスの発展に大いに貢献された瀬口先生のお名前の付いた賞を頂けたことは大変名誉なことであり、その受賞者として恥じることのないように、また、皆様のご期待にも応えられるよう、一層研究教育に努力精進して参ります所存でございますので、今後ともご指導ご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。