この度、第7回業績賞という大変立派な賞を頂きまして、大変光栄に存じますと共に、人工物を用いた循環系の生体外模擬実験というバイオメディカルの分野ではむしろ周辺的な研究をやって来た私のような人間に賞を与えて頂きましたことを大変ありがたく思います。
しかし、この業績賞にふさわしい成果を上げたのだろうかと考えると、少々空恐ろしくなり、今後の研究への責任を感じている次第です。ここで、少々私見を述べさせて頂きますと、医工学の分野では臨床実験や生体を用いる実験が中心であることは言うまでもありませんが、モデル実験も生体材料を用いた実験の持つ弱点、すなわち個体差、再現性の無さ、材料の変質、取り扱いの難しさ等を補って、高精度で再現性のある実験を繰り返し行うことによって生体現象のメカニズムを解明する1つの手段として、もう1つの工学的手法であるコンピューターシミュレーションと並んで有効であると考えています。
このような観点に立って、25年くらい前に川崎医科大学の梶谷文彦教授に誘われて冠血管を模擬したコラプシブルチューブ内の流れと自励振動の実験を始めました。それ以来、現在まで模擬血管、模擬血液、模擬赤血球を製作し、それらによって模擬循環回路を構築し、レーザー計測と流れの可視化法を用いて実験し、理論解析やコンピューターシミュレーションと比較する研究を続けて参りました。
今後ともこの受賞を励みにして、と言いますと、若手の邪魔になるからそんなに頑張らなくても良いという声が聞こえて来そうですが、体外模擬実験によって生体現象の機序がどれくらい解明出来るのかを研究し、循環系、呼吸系人工臓器の開発等に結び付けて行きたいと考えております。若手・中堅の妨げにならないように活動を続けるつもりですので、今後ともご高誼のほどよろしくお願い申し上げます。