主として左心室心筋の変形特性を、長年にわたり解明しようと取り組んできました。
基本的な立場は、圧−容積(p−V)関係を実験値として用いること、(疑似)ひずみエネルギー関数の開数形を仮定(例えば指数関数)する従来法によらないこと、等でありました。後者は、応力の値が関数形に依存するからです。
第一段階として厚肉球かくモデルによりました。拡張期と収縮期(等容、等圧)共に、応力とひずみをp、Vで表現できることができました。ここまでは成功でした。
左心室は圧が零の状態でも残留応力が存在すると考えられます。裏付けとなる実験例もいくつか得られています。しかし残念ながら、残留ひずみを考慮したモデルについていくつかの提案をしたものの、その完成に漕ぎつけることはできませんでした。モデルはいくつかの条件を満足しなければなりませんが、それらすべてに矛盾しないモデルを構築できなかったということです。
以下に言い訳を述べます。モデルの構築には思考の集中と連続が肝要です。それに対する最大の敵は大学の管理運営業務です。逆は真ではありません。すなわち連続した思考を経ていたならば、モデルの構築に成功していたといえるほど自信過剰ではありません。現在筆者は、その管理運営業務に明け暮れていますが、そのような立場になっていった原因は腹を立てることにあり、筆者の不明とするところです。
最後に生体機械工学の新たな展開とバイオエンジニアリング部門の発展を祈念し、受賞の御礼とさせていただきます。