赤血球は、自由に変形しながら毛細血管を通過できる。しかし、流れの中で無理な繰り返し変形を受けると、こわれてしまう。他方では、血管が破れると、血液成分の一部が固まって破断部分を塞ぐ。しかし、塊が飛んでいって、他の血管の狭い部分を塞いでしまっては困る。血管内では、赤血球が壊れないように、また、血管が詰まらず、かつ破れたら修復するように微妙にコントロールされている。血液循環ひとつを取り上げても、生体がさまざまな制御機能を持っていることがわかる。この制御機能を計測・解析し、生体を工学的に理解して始めて、人工心臓のような人工臓器の設計が可能になる。顕微鏡を改変したレオスコープを用いて流れの中で赤血球や細胞の変形を観察する方法、培養細胞に電気・機械的な刺激を加えて変化を観察する方法、心電図などの人体から発生する信号を計測する方法、生命現象を計算機上でシミュレーションする方法など、学生と議論しながら自由な雰囲気の中で、研究手法を模索している。人工臓器の設計を通じて、生体を従来とは異なる観点から眺めてみたい。