「功績賞を受賞して」


 東京農工大学・教授

 (東京大学名誉教授)

      棚澤一郎







 今年1月に東広島市で開かれたバイオエンジニアリング部門講演会の折の懇親会の席上で,部門賞受賞の栄に浴しました. 身に余る光栄と感謝すると同時に,さほど部門に貢献したとは言えない身にとっては,正直なところ気恥しく感じられる受賞であありました. とは言え,私と生物工学とのかかわりは,もう随分長いことになります.

 東大大学院の修士課程に在学中に籍を置いていた機械工学科の渡辺茂先生の研究室が,当時医学部の研究室と共同で取組んでいた人工心臓の開発が,生物工学に対する私の関心を呼び醒す最初のきっかけだったと思います.

 その後私は東大の生産技術研究所に奉職し,伝熱関係の研究に従事していましたが,米国ミシガン大学のW.J.Yang教授の招きで1978年から79年にかけて留学する機会を得ました. その時のテーマが血管内の気泡閉塞に関する研究で,私の生物工学への傾斜を一層強めることになりました.

 帰国後,土屋喜一先生,加藤一郎先生(故人),梅谷陽二先生のご企画で,機械学会に「生物機械工学研究会」がタイミングよく設置され,私も参加させていただきましたが,2年程続いたこの研究会こそが,現在のバイオエンジニアリング部門の種子になったものと思います. なお,上記の3先生とご一緒に約半年間,NHKの放送大学実験番組「生物工学」に参加させていただいたのは大変楽しい想い出です. 加藤先生は残念ながら早世されましたが,土尾・梅谷両先生は数年前に部門賞を受賞されたと伺い,往時を偲んで感慨深いものがあります.

 このように私の生物工学研究は,ほぼ30年間細々と続いてきたものですが,この間谷下一夫先生ほか多くの先生方にひと方ならぬお世話になりました. 今回の受賞はまったくこれらの先生方のお力に負うものと思います.

 バイオエンジニアリング部門も発足以来早や10年,学会の中でも特に異彩を放つ部門と言えます. 同好の方々の一層のご活躍を祈って筆を擱きます. 


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